一章
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私を案内してくれた二人の先生からは敵意を感じなかった。新野先生はにこにことしていたし、山本シナ先生という綺麗な女性は食事の準備や着物の着付けをしてくれた。女性同士何でも聞いてね、と笑顔を向けられ危うく恋に落ちそうになった程だ。
しかし一通り説明を受けて先生方と別れ、知らない世界での一人の夜を迎えた私は心細さでいっぱいになっていた。明日から一体どうなるのだろうか。
生きるか死ぬかの審判を切り抜けることに必死で気にする余裕がなかったが、どうして姫君は私とそっくりなのだろう。そもそもなんで私ここに来ちゃったんだろう。ちゃんと帰れるのかな。
夜の闇とも相まって抱えきれない程の不安が襲ってくる。この世界で私のことを知る人は一人もいない。あまりに恐ろしい事実に背筋が凍った。
「駄目だ、寝よう。」
まだわからないことが多すぎる。今日はもう疲れたし何か考えるのは明日にしよう。
不安な気持ちを振り払い用意してもらった布団に入ろうとした時、ふと気配を感じた。
「誰……?」
恐る恐る声をかけると、端正な顔の少年が現れた。月明かりに照らされた陶器のように白い肌に思わず見惚れてしまう。
「驚かせてしまって申し訳ない。夜間に女性の部屋に上がるなどという無礼をお許しください。私はこの学園の生徒、名を立花仙蔵と申します。」
少年は綺麗な笑顔を作り真っ直ぐ私を見据えた。取りつく隙のない雰囲気ではあるが先程の庵で感じた殺気や鋭い視線はそこにはない。ひとまず安堵の息を吐いた。
「ご丁寧にありがとう。みょうじなまえです。えっと、私に何か御用ですか?」
「いえ、ただ少しお話しがしたいと思い上がらせて頂いた次第です。いくつか質問させて頂いてもよろしいでしょうか。」
質問というのは私の素性のことだろうか。遥かに自分よりも大人びて見えるこの少年は、異世界から来たなどと宣う奇抜な装いの女を見定めに来たのだと瞬時に悟った。途端に緊張が走る。
「勿論です。私は全部正直に答えるけれど、それを嘘だと思うのも貴方の好きにしてもらって大丈夫だから。」
少年は少し目を見開き、好奇心に顔を染めた。
「ではまず、本当に貴方はこの時代の人間……いやこの世界の人間ではないのでしょうか?」
直球で来たな。私も真摯に応えなければ。
「……うん、そうだね。私はこの世界の人間じゃない。」
「何故そう言いきれると?それについての証明をお願いしたい。」
少年の疑問は最もであった。今の私は間者だというのは勿論、城跡に残された姫君がショックで錯乱していると言われても仕方がない。
「えっと、今言葉で証明をするのは難しいけど、さっき先生方に預けた荷物の中にこの時代にはない機械や道具がたくさん入ってると思う。怪しいと思うものはいくらでも調べてくれて構わないから、それでこの時代の人間じゃないっていうのは判断してほしい。」
少年は静かに頷く。
「それと、私がこの世界の人間じゃないっていうのは私としても自信がなかったんだけど……。さっき学園長先生とヘムヘムを見たときに確信に変わったの。」
「?」
少年は怪訝そうに私を伺っている。間者だと思われちゃったかな。
「ええと、どう言えば良いんだろう……。彼らをね、見たことがあったの。」
「以前会っていたということですか?」
先程より幾分か鋭くなった視線に汗が滲む。
「ち、ちがくて。ここから先は正直信じてもらえないと思う。でもちゃんと本当のこと話すから。」
緊張からか喉が渇く。私は一つ息を吐いて話し始めた。
「彼らはね、私の生きていた世界では物語の登場人物だったの。主人公は乱太郎って男の子で、きり丸やしんべヱもいる。小さい頃は毎日のようにその物語を見てた。だから……だから立花くん、あなたも私の世界では物語の中の人だったの。私にとって貴方達は現実に生きている人間ではなかったの。」
少年は耳を疑っているようだった。この女は一体何を言っているんだ。そう顔に書いてあった。明らかに動揺を見せ黙り込んでしまった彼を見て私は困ったように笑った。
「信じられないよね。私も同じ立場なら信じてないと思うし、今の自分の状況も完全に信じられてないの。」