寮
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女子部屋最初は響香。本当に全員やるつもりなのか。みんなの盛り上がりが逃げられる感じじゃない。自分の番が近づいてきて緊張してきた。
「ハズいんだけど……。」
そう言いながらも渋々ドアを開けてくれ、目に入ってきたのはたくさんの楽器。すごい、ロックだ。響香らしくてかっこいい。頼んだら弾き語りとかしてもらえるんだろうか。
「思った以上にガッキガッキしてんな!」
「耳郎ちゃんはロッキンガールなんだねえ‼これ全部弾けるの!?」
「まァ一通りは……。」
「すごい。私響香の部屋に入り浸る気がして来た。」
「別にそれは、嬉しいけど……。」
あまりに可愛い反応。顔を赤らめる響香に抱き着く。しっかり受け止めてくれた。お互いの部屋行き来できるのすごく楽しみだなあ。みんなでカラオケ大会とかもしてみたいかもしれない。想像が膨らむ。
「女っ気のねえ部屋だ。」
「ノン淑女☆」
さっき部屋を散々言われた仕返しとばかりに上鳴くんと青山くんが攻撃してくる。すぐに響香にドックンされて沈んでいった。なんでこうなるってわかってて言うかなあ。
次は透ちゃんのお部屋。見られることに抵抗はないようで何の躊躇もなくドアを開けてくれる。
「どーだ!?」
ぬいぐるみとかもいっぱいあっていかにも女の子って部屋だ。男子も若干どぎまぎしてる。峰田くんが正面突破で下着の引き出しを開けようとしたけどちゃんと響香に沈められてました。彼も懲りないな。
お次は三奈ちゃん。柄物が多いながらも可愛くまとめられた彼女らしい部屋だ。その後のお茶子ちゃんも実用的だけど女の子っぽい可愛い部屋だった。みんな部屋にも個性出るなあ。見ていて楽しい。
いよいよ私の番。ちょっと本当に見られたくないかもしれない。ぬいぐるみのこと知ってるのは瀬呂くんと響香だけだから過剰に気にすることはないんだけど。瀬呂くんに見られてしまうのが死ぬほど恥ずかしい。
「なまえの部屋突撃ー!」
容赦なく開けられる扉。女の子たちは一回私の部屋に来たことがあるのでそんなに新鮮味はないだろう。白を基調としたシンプルなインテリア。勉強机とくつろぐ用の机。あとはベッドと本棚くらいだ。カーテンはミモザがモチーフの派手過ぎないやつ。
「前部屋遊びに行った時と変えてないんだね。」
「うん。全部そのまま持ってきたから。」
「なんかかわええ部屋だな。」
「う、ありがと。」
上鳴くんの言葉に小さくなる。さすがに男の子たちに見られるのは照れますね。ふと瀬呂くんを見るとベッドの方に視線があるのに気付いた。目が合いそうになって慌てて逸らす。恥ずかしいのと気まずいのでうまく顔が見られない。今日は一日ずっとこんな感じ。避けるような態度を取ってしまってる。謝るタイミング逃して身勝手重ねちゃってるのが心苦しい。けど、なかなか勇気が出ないでいた。
ようやく解放されて次の部屋へ。なにもからかわれなくてよかった。響香には案の定ニヤニヤされたけど。
「なんかこう……あまりにもフツーにフツーのジョシ部屋見て回ってると、背徳感出てくるね……。」
「禁断の花園……。」
尾白くんと常闇くんの会話が聞こえてくる。そんなにいいものかわからないけど女子っぽい部屋判定されたのならよかったのかな。
「次は蛙吹さん……。」
「ってそういや梅雨ちゃんいねーな。」
「あ、梅雨ちゃんは気分が優れんみたい!」
「優れんのは仕方ないな。優れた時にまた見してもらおーぜ。」
みんなで梅雨ちゃんの部屋を通り過ぎる。気分が優れないっていうのは多分、爆豪くんを救出に行った私たちのせいだ。さっきのお茶子ちゃんとの会話を思い出してどうしようもなく申し訳なくなる。瀬呂くんの顔も全然見られない。はやく二人にちゃんと謝らないと。モヤモヤした気持ちのまま、最後の百ちゃんの部屋に向かった。
「じゃ最後は八百万か‼」
「それが……私見当違いをしてしまいまして……。皆さんの創意あふれるお部屋と比べて少々手狭になってしまいましたの。」
恥ずかしそうにドアを開けてくれると、部屋のほとんどを占領しているベッドが目に飛び込んできた。
「でけえー‼狭‼どうした八百万!」
「私の使っていた家具なのですが……まさかお部屋の広さがこれだけとは思っておらず……。」
顔を赤らめる百ちゃん。お嬢様なんだあ。実際に天蓋付きのベッド見たの初めてかもしれない。天井ギリギリの高さの家具たちに圧倒されそうになる。これ運ぶの大変だっただろうな。業者の方お疲れさまです。
とにかくこれで女子部屋も終了。全部屋回ったということで共同スペースに帰ってきた。それぞれ1番と思う人を紙に書いて投票箱に入れる。三奈ちゃんが司会になってようやく結果発表の時間だ。
「えー皆さん投票お済みでしょうか!?自分への投票はなしですよ!?それでは!爆豪くんと梅雨ちゃんを除いた第一回部屋王暫定1位の発表です‼」
謎の緊張感に包まれる。三奈ちゃんが高らかに部屋王の名前を叫んだ。
「得票数5票‼圧倒的独走単独首位を叩き出したその部屋は……砂糖――力動――‼」
「はああ!!?」
本人は驚いてるけど予想通りって感じだ。女の子のハートキャッチだったからなあ。
「ちなみにすべて女子票!理由はケーキ美味しかっただそうです。」
「部屋は‼」
全然インテリア関係なくなっちゃった。シフォンケーキ美味しかったもんね。百ちゃんまで虜になっちゃうなんて、砂糖くん侮れない。結果が発表されてようやくお開きの空気になる。
ずっと眠いと言っていた焦凍くんが部屋に戻ろうとしたところをお茶子ちゃんに呼び止められていた。
「デクくんも飯田くんも……それに切島くん八百万さん、なまえちゃん。ちょっといいかな。」
呼ばれたメンツでわかる。これは梅雨ちゃんに謝るチャンスだ。お茶子ちゃんと目が合うと彼女も頷いてくれた。
寮の外に出ると、やっぱり梅雨ちゃんが待っていた。その瞳にいつもの元気な様子は感じられず胸が痛む。
「梅雨ちゃんが皆にお話ししたいんだって。」
真剣な顔の梅雨ちゃん。彼女につらい思いをさせてしまったことに対する罪悪感で潰れてしまいそうだった。自己満足で勝手に動いたツケが今来てる。
「私思ったことは何でも言っちゃうの。でも何て言ったらいいのかわからない時もあるの。病院で私が言った言葉憶えてるかしら?」
「……うん。」
あの時病室にいただろうみんなが下を向く。私はその場にいなかったけれど、彼女が厳しく止めてくれたのだということは容易に想像できた。
「心を鬼にして、辛い言い方をしたわ。」
「梅雨ちゃん。」
彼女を気遣ってお茶子ちゃんが肩を抱く。梅雨ちゃんは一生懸命言葉を探してくれてるようだった。
「それでもみんな行ってしまったと今朝聞いてとてもショックだったの。なまえちゃんが何も言わずに黙って行ってしまったことも。止めてたつもりになってた不甲斐なさや色んな嫌な気持ちが溢れて……。」
まっすぐな思いに胸が苦しくなる。梅雨ちゃんの大きな瞳から涙がぽろぽろこぼれた。
「何て言ったらいいのかわからなくて、皆と楽しくお喋りできそうになかったのよ。でもそれはとても悲しいの。だから……まとまらなくってもちゃんとお話をして、またみんなと楽しくお喋りできるようにしたいと思ったの。」
たまらなくなって梅雨ちゃんに駆け寄る。泣かせてしまった。いつだって私たちのことを大事に考えてくれる彼女を。小さな体に抱き着いて、必死で謝る。
「梅雨ちゃんごめん。本当にごめんなさい……!こんなつらい思いさせて、迷惑かけて。許してほしいなんて言えないけど本当にごめんね……!」
改めて自分のしてしまった重大さを思い知る。梅雨ちゃんは拒否することなく私の背中をさすってくれた。
「梅雨ちゃんだけじゃないよ。皆すんごい不安で、拭い去りたくって、だから……部屋王とかやったのもきっと、なまえちゃんたちの気持ちはわかってたこそのアレで……。だから責めるんじゃなくまたアレ……なんていうかムズいけど……。とにかく、また皆で笑って頑張ってこうってヤツさ‼」
お茶子ちゃんが私たちを傷つけないよう励ましてくれているのがわかった。ちゃんと気持ちをぶつけてくれた梅雨ちゃんといつもと変わらず笑ってくれるお茶子ちゃん。二人の強さと優しさに涙が滲む。もう二度と悲しませたくない。
「梅雨ちゃん……すまねえ‼話してくれてありがとう‼」
「蛙吹さん!」
「蛙吹すまねえ。」
「梅雨ちゃん君!」
「あす……ゆちゃん!」
「……梅雨ちゃん。」
「ケロッ。」
みんなも梅雨ちゃんの元に駆け寄ってくる。私ももう一度、梅雨ちゃんの名前を呼んで強く抱きしめた。私たちだけじゃない。みんなが日常を取り戻そうとしてくれていたんだ。私なんかよりよっぽど思慮深いクラスメイトを頼もしく思った。
梅雨ちゃんが落ちついて、私たちの間の空気もやっと元に戻って。みんなで部屋に帰ることになった。お茶子ちゃんたちと一緒に階段を登ろうとして、ふと立ち止まる。これで終わりじゃいけない。私にはまだ、謝らなきゃいけない人がいる。きっと誰よりも私を気にかけてくれていた人。
「なまえちゃん、行ってきたら?」
「え……。」
お茶子ちゃんは私が立ち止まった理由に気づいているようで、優しく微笑んでくれた。百ちゃんも心配そうな顔を覗かせている。
「瀬呂さんと会話……されてませんよね?」
「響香ちゃんが心配しとったよ。二人がなんか変やって。」
「……敵わないね。」
やっぱり響香にはばれてた。いや、部屋にいた梅雨ちゃん以外は女の子みんな気づいてたかもな。それだけ意図的に顔を見てなかった自覚はある。
「私行ってくる。」
「うん。頑張ってね。」
「ありがとう。悪いのは私だから、ちゃんと謝る。」
3人に送り出された後瀬呂くんを共同スペースに呼び出す。こっちが謝るのにわざわざ来てもらうのは気が引けるけど、男子棟に一人で行くわけにもいかない気がした。文字を打つ手が冷たくて少し震えている。やっぱり彼に嫌われたくない。今さら過ぎる我儘に気づかないふりをして送信ボタンを押した。