寮
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雄英敷地内、校舎から徒歩五分の築三日。ハイツアライアンス。ここが私たちの新しい我が家だ。今は寮の前でA組全員集められている。
クラスの皆と会うのは久しぶりな感じだ。新しい生活にわくわくした気持ちもあるけど、いまいち乗り切れない。やっぱり爆豪くん救出に行ってしまったことに後ろめたさがあるのだ。
「みんな許可降りたんだな。」
「私は苦戦したよ……。」
「フツーそうだよね。」
「二人はガスで直接被害遭ったもんね。」
「ほんと響香も透ちゃんも無事でよかった。」
「なまえもね。」
響香とぎゅっと手を握り合う。二人の意識が戻ったと聞いたあと泣きながら電話した。ガスで意識不明だと聞かされた時は心臓が止まるかと思ったのだ。今こうして話せているのが本当に嬉しい。
みんなの親御さんの反応はまちまちだったらしい。透ちゃんや緑谷くんは入寮に苦戦したみたい。二人は合宿でも意識不明と大怪我だったし当然ではある。逆に被害を受けたはずの響香のご両親は手放しで応援してくれたのだそうだ。さすがロックの家系。私はというと、消太くんたちが帰ったあとも母としっかり話ができて、最終的には笑顔で送り出してくれた。自分の意志や気持ちを伝えられるようになったことを、母はとても喜んでくれた。
「さて、これから寮について軽く説明するがその前に一つ。当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく。」
消太くんが話し始めたのは私たちが忘れかけていた内容。色々ありすぎてみんなの頭からも抜けていたようだ。そういやそうだったとざわつき始める。
けれど明るい雰囲気でいられたのも束の間、消太くんはいつも以上に厳しい目をして声のトーンを落とした。
「大事な話だ、いいか。轟、みょうじ、切島、緑谷、八百万、飯田。この6人はあの晩あの場所へ、爆豪救出に赴いた。」
「え……。」
みんなの視線が一気に刺さる。特に私はクラスでの話し合いの場にはいなかったし行くことも伏せてた。信じられないといった顔でみんなが見てる。
「その様子だと行く素振りは皆も把握してたワケだ。色々棚上げした上で言わせて貰うよ。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる。」
「!」
重い言葉。私がどんな処分でも受けると言っていたのはあくまで自分が受ける罰の話だった。救出に行かなかった皆まで除籍になる可能性をまるで考えていなかった。あまりに自己中心的で能天気だ。
「彼の引退によってしばらくは混乱が続く……。敵連合の出方が読めない以上今雄英から人を追い出すわけにはいかないんだ。行った6人はもちろん、把握しながら止められなかった12人も理由はどうあれ俺たちの信頼を裏切った事には変わりない。正規の手続きを踏み正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上!さっ!中に入るぞ元気に行こう。」
いやちょっと待って消太くん行けないです。全員下を向いて無言。重苦しい雰囲気でとても元気になんてなれそうにない。私も顔上げられない。みんなの目を見るのが、怖い。
誰も言葉を発さないまま思い詰めた表情でその場に留まっていると、突然爆豪くんが動いた。
「来い。」
「え?何やだ。」
上鳴くんを無理矢理引っ張り茂みへと連れて行く。姿が見えなくなった後急に放電が起こったかと思えば、上鳴くんはなぜかアホ状態で戻ってきた。
「うェ~~い……。」
「バフォッ!」
「何?爆豪何を……。」
思わず吹き出す響香。上鳴くんのこの状態がツボらしい。爆豪くんの意図が読めないけどなんだかみんな笑ってしまう。上鳴くんは変わらずヘロヘロとアホのまま動いている。シュールだ。
「切島。」
「んあ?」
今度は切島くんに近づく爆豪くん。彼の目の前に行くとポケットからスッとお金を出した。
「え、怖っ!何カツアゲ!?」
「違え、俺が下ろした金だ!いつまでもシミったれられっと、こっちも気分悪ィんだ。」
なるほど。恐らくこのお金は暗視鏡のものだろう。自分のためにお金使わせたこと気にしてたんだなあ。それにしても相変わらず信用ないな爆豪くん。カツアゲ疑われるヒーロー志望いないでしょ。
「あ……え!?おめーどこで聞い……。」
「いつもみてーに馬鹿晒せや。てめーもいつまでもうじうじすんな。へらへら笑っとけ。」
「え、あ。……うん、ありがとう。」
慌てる切島くんをよそに私にも気遣ってくれる爆豪くん。さっきからしゃべってないのばれてたな。大事に思ってくれてるのがわかる分、すぐにみんなの顔を直視できそうにない。裏切ってしまった罪悪感が渦巻いてうまく笑えない。そういうのちゃんと、気づいちゃう人なんだよなあ爆豪くん。どれだけ乱暴な物言いでも、やっぱり優しい。
「……わりィな。皆!すまねえ……‼詫びにもなんねえけど……今夜はこの金で焼き肉だ‼」
「私も迷惑かけて本当にごめんなさい。買い出しは全部行きます……!」
「持ちきれねえだろ。」
「うぇーい!」
切島くんの焼肉発言にみんな目の色を輝かせる。アホモードの上鳴くんが普通に会話に入ってきたのもテンションの上乗せには十分だった。彼の姿がツボな響香は笑い転げてそろそろ過呼吸になってしまいそうなほどだ。ようやくいつもの空気が戻ってきた気がした。それもこれも爆豪くんのおかげだ。さっさと寮に向かって行く彼の背中に、もう一度お礼を言った。
寮の中は想像以上に広かった。21人で使うにしてもかなり広大だ。しかもめちゃくちゃ綺麗。みんなはしゃぎまくりで楽しい雰囲気が広がっていく。
「1棟1クラス、右が女子棟左が男子棟と分かれてる。ただし一階は共同スペースだ。食堂や風呂・洗濯などはここで。」
消太くんから淡々と説明を受ける。お風呂と洗濯が共同だという言葉に過剰反応を見せた峰田くんが秒で怒られていた。もちろんちゃんと男女別でした。
「部屋は2階から1フロアに男女各4部屋の5階建て。一人一部屋。エアコントイレ冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ。」
共同スペースまであることを考えるととんでもなく広い。ベランダまであって洗濯物も干せる。防犯も約束されてるし一人暮らしの時よりかなり待遇がいい。さすが雄英だ。
「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね……。」
「豪邸やないかい。」
百ちゃんのお金持ち発言に卒倒するお茶子ちゃん。それにしてもこの広さの1人部屋と同じくらいのクローゼットって何が入ってるんだろう。普段着以外に靴とか、社交界用のドレスとかだろうか。いや社交界用のドレスってなんだ。次元が違いすぎる。急に自宅に招いたことを思い出して恥ずかしくなった。
部屋割りはすでに決められていた。私は4階、お茶子ちゃんの隣だ。あらかた説明も終わったので今日はすぐ解散になった。今後の動きはまた明日話してくれるらしい。とりあえず各自部屋作りに取り掛かる。
部屋を作ると言っても一人暮らしのものをそのまま持ってきたので案外すぐ済むはずだ。必要な家具は運んでもらってるみたいだしインテリアを変えるつもりもない。あとはカーテンを取り付けて細々したものを飾っていくだけ。
「こんなもんかなあ……。」
予想通りすぐに片づけは終わった。前と同じ白基調のシンプルな部屋。変わったところといえば、前は棚に飾っていたギャングオルカさんのぬいぐるみを枕の横に移動させたくらいだ。
「なまえちゃん~。どんな感じ?」
ノックの音が聞こえてお茶子ちゃんが入ってきた。彼女も一人暮らし仲間。すぐに片づけ終わったらしい。
「おお、もう見たことある部屋になっとる!」
「前の部屋のやつ持ってきただけだからインテリアそのままなんだよね。」
「ウチもそんな感じ。三奈ちゃん苦戦してるみたいやから手伝いに行かん?」
「あ、行きたい。」
あまり元気のなかった私を気遣ってくれたのだろうか。お茶子ちゃんはいつもと同じ明るい笑顔で誘いに来てくれた。彼女の優しさが眩しくて、それにまた罪悪感が募った。部屋を出て行こうとするお茶子ちゃんの腕を咄嗟に掴んでしまう。
「どしたんなまえちゃん。」
「……心配かけて、ごめんなさい。」
びっくりした様子でこちらを振り返ったお茶子ちゃんに謝罪を零せば、彼女はさっきと同じように笑って私の手を取ってくれた。
「もうええよ。なまえちゃんが反省してるの、顔見たらわかるし。」
「みんなの信頼、裏切った。」
「そうかもしれん。けどちゃんと謝れる。偉いよ。」
完全に私が悪いのに褒めてくれるお茶子ちゃんに泣きそうになってしまう。この件に関して私に泣く資格なんてないんだと、必死に涙を押し込んだ。
「同じこと、あとで梅雨ちゃんにも言ってあげて。」
「梅雨ちゃん?」
「うん。ちょっと……ショックやったみたい。みんなを止められへんかったこと。」
「!」
そんな、梅雨ちゃんは何も悪くない。私たちが制止を振り切って勝手な行動をしてしまっただけだ。それなのに、優しい彼女は今自分を責めてる。傷つけてしまったことに息が詰まった。
相変わらず思慮が足りない。人の気持ち、自分が動いたときにどんな影響があるのか。私はもっと考えなくちゃいけない。友達のことも、母のことも。これ以上信頼を裏切りたくなかった。
「……私、ちゃんと謝る。」
「よし、エラい!」
梅雨ちゃんだけじゃない。傷つけてしまった人、きっとたくさんいる。またちゃんと信じてもらえるよう、誠実に向き合っていきたい。ほら行こうと差し出してくれたお茶子ちゃんの手を、離さないようしっかり握った。