神野
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色々解決してあとは家で寝るだけ、とか。そんなわけにはいかなかった。
「お、おはようございます相澤先生。」
部屋の前にはスーツ姿の消太くん。威圧感剝き出しで言われなくても怒ってるのがわかる。忙しいだろうにわざわざ説教しに来てくれたのか。本当に申し訳ない。
「余計なこと考えるなつっただろうが。」
重く低い声。いつも以上に濃い眉間の皺。完全にお怒り。怖い。とりあえず部屋の前で説教されるわけにもいかないので中へと招いた。仁王立ちの消太くんに私は正座で小さくなっている。一気に眠気は消え失せた。
「自分らが何したかわかってんのか。」
「重々承知してます……。」
「下手したら死んでたかもしれねえ。勘違いすんなよ、救出できたのは奇跡だからな。」
「はい……。除籍も覚悟してます……。」
はあとため息を吐いて私の前に座る消太くん。恐る恐るそちらを見上げると大きな手が頭にのせられた。
「……心配、しただろうが。」
ぐっと胸が詰まった。忙しくて疲れているはずなのに、私の部屋まで来てくれた。どれだけ心配してくれていたのか計り知れない。同じようにクラスのみんなのことも裏切ってしまった。爆豪くんを救出したことは後悔してないけど、一気に罪悪感が込み上げてくる。
「……ごめん。」
「次はない。今後何か行動したければ正規の手続きを踏め。……お前を信頼してたいんだよ。」
「うん、もう二度としない。本当にごめんなさい。」
分かればいいと言って頭を撫でてくれる。見放されても仕方ないことをしたのに、この人はどこまでも優しい。クラスのみんなにもちゃんと謝らなきゃ。
「……消太くん。」
「なんだ。」
「前に言ってくれたことあったでしょ。良いヒーローになるって。」
「……言ったかそんなこと。」
「言ったよ、USJの後病院で。」
唐突ではあったけど、話しておかなきゃって思った。消太くんはとぼけながらも少し笑ってる。あ、これ覚えてるやつだな。
「あの時私、何も答えられなかった。自分が良いヒーローになるって想像つかなかったから。」
自分の足元すらぐらついてうまく受け止められなかった言葉。でも今は違う。瀬呂くんに気づかされて、昨日爆豪くんの手をしっかりと掴めた。私にとって一生忘れないだろう、人を助けるという感覚。消太くんは黙って聞いてくれていた。
「あれ、ありがとう。あんなこと言ってもらったの初めてで嬉しかった。私、良いヒーローになって、誰の手も取り零さないようちゃんと掴めるようになりたい。だから、その。今回のことは本当にごめんなさい。でも、こんなルール違反みたいなことしなくてもいいよう強くなるから。これからもそばで見ててほしい。」
ようやく言えた。時間は経ってしまったけど、あの時言わなきゃいけなかった言葉。まっすぐ消太くんを見据える私を見て、彼は少しだけ微笑んだ。
「お前らがしたことは決して許されることじゃない。でも、今後ヒーローを目指すお前にとっては大事な経験だったわけだな。」
「うん。でも自分のしたこと正当化するつもりはないし、どんな処分も受けるよ。」
「まあまだ話し合い中だ。何にせよ近々実家には行くぞ。」
「えっ、三者面談でお説教ですか……。」
「違う。別に俺はそれでもいいが。」
「い、嫌です。でも、じゃあ何で実家?」
「そのうちわかる。今日は休んどけ。」
それだけ言うとさっさと出て行こうとする消太くん。聞くとこの後会議があるらしい。本当に忙しい合間を縫って来てくれたんだな。頭が下がる。
「余計な事せずさっさと寝ろよ。」
「うん。本当にごめんなさい。あとありがとう。」
「もういい。」
「あ、ねえ消太くん。」
扉を閉めようとしている消太くんを呼び止める。こういう時律儀に待ってくれるあたり優しいんだよなあ。
「スーツ、すごいかっこいいね。」
「……俺は早く脱ぎたい。」
ため息をつきながら今度こそ扉が閉まる。部屋で一人になった途端眠気が襲ってきた。お風呂入れてないけどまあいいか。今は眠いのが勝つ。
みんなちゃんと帰れたかなあ。ぼんやり考えながらベッドに倒れ込み、そのまま微睡みに身を任せた。
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