神野
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「かっちゃんは相手を警戒して距離を取って戦ってる。タイミングはかっちゃんと敵たちが二歩以上離れた瞬間。」
少しも油断ができない。緊張で息が浅くなってきた。緑谷くんの作戦に、百ちゃんが不安げな表情を見せる。
「飯田さん……。」
「……バクチではあるが……状況を考えれば俺たちへのリスクは少ない……。何より成功すればすべてが好転する。……やろう。」
みんなの意志が固まった。ここからはただ役割通りに迷いなく進むだけだ。
「それじゃあ行くよ。」
「百ちゃん、焦凍くん。すぐ安全なとこまで逃げてね。」
「なまえさんたちも、決して無理なさらぬよう……!」
「うん、ありがとう。」
切島くんと密着し、緑谷くんと飯田くんに抱えてもらう。体勢が合宿襲撃の梅雨ちゃんに投げてもらった時と似ていて、嫌なイメージが思い浮かんだ。大丈夫。あの時とは違う。今度こそ助け出せる。ネガティブを吹き飛ばすように頭を振る。
「こんな状況じゃなきゃテンション上がったんだけどな。」
「ときめきはまた今度だね。」
ぴったりとくっついた私に向かって切島くんが笑う。それが怖さを紛らわすための強がりだと気づいて、私もおどけて返した。みんな不安なのは一緒だ。それでも今は虚勢を張る。きっとうまくいく。大きく一つ息を吐いた。
「っ跳びます!」
緑谷くんの掛け声とともに体が宙に浮く。切島くんの硬化で塀をぶち破ることができ、氷結に合わせて風を後ろへと放つ。なるべく高く、けど爆豪くんに遠すぎない距離。
敵が私たちに気づいたのがわかった。オールフォーワンの手がこちらに向く。背筋が凍る感覚があったけど、体は動けなくなってない。もちろん怖くて仕方ない。でも、オールフォーワンがオールマイトをくい止めてるってことは逆もまた然り。私たちの意図に気づいたオールマイトは、必ずオールフォーワンの動きを止めてくれるはず。
予想は的中で私たちはオールフォーワンの手から逃れる。爆豪くんも上空を見上げた。彼の瞳が、私たちを捉える。
「っ爆豪くん‼」
今しかない。切島くんと一緒に目いっぱい手を伸ばした。
「来い‼」
「来て‼」
彼の片手が、地面へと向く。爆破で飛び上がった彼は、しっかりと私たちの手を掴んだ。届いた、今度こそ。爆豪くんの手のぬくもりを感じて涙腺が緩む。
「……バカかよ。」
にやりと笑った爆豪くん。それと同時に最大威力で風を放つ。まだ、泣いてなんかいられない。早く距離を取らないと。
「みょうじくん!俺の合図に合わせられるか!?」
「了解です!調節するね。」
飯田くんとタイミングを合わせて素早い脱出を図る。けれどそう簡単には逃がしてくれないようで、後ろから敵が追ってくるのがわかった。あれは多分仮面敵。ものすごい勢いで飛んできている。
「やば、追いつかれる……!」
更に加速させようと焦ったその時。
「っだ!?」
「Mt.レディ!」
「救出優先……行って……!バカガキ……。」
先ほどまで倒れていたはずのMt.レディさんが身を挺して敵を止めてくれた。やっぱりプロだ。お礼の声が届かないので心の中で感謝する。ヒーローたちの助けを借りて、私たちは後ろを警戒しつつ先へと進んだ。
もう一度攻撃が来るんじゃないかとひやひやしたけど、オールマイトのところに誰かが加勢に来たのが見えてようやく一息吐く。その後なんとか敵の手が届かないところまで辿り着き、地面へと着地することができた。
「このままとりあえず駅前まで行こう。」
「そうだね!電車動いてるかはわかんないけどとにかく距離を取らなきゃ。」
さっきモニターがあった場所を目指してみんなで走る。この場にいない二人のことが心配で、移動しながら急いで焦凍くんに電話をかけた。
「なまえ、無事か。」
すぐに電話を取ってくれた焦凍くん。会話ができる場所に移動できたのだとわかって胸をなでおろす。よかった。
「こっちは大丈夫。二人も平気?」
「ああ、心配ない。多分俺たちは奴の背面方面に逃げてる。プロたちが避難誘導してくれてる。」
「よかった。私たちは今駅前についたとこ。爆豪くんも無事。奪還成功だよ。」
「そうか、よかった。とにかく今後は避難指示待つしかねえ。合流できるようになったらまた連絡する。」
「わかった。」
長電話できる状況でもなくすぐに通話を切る。ようやく安全なところに来たのだと、駅前のモニターの光を見て肩の力が抜けた。
「いいか、俺ァ助けられたわけじゃねえ!一番良い脱出経路がてめェらだっただけだ!」
「ナイス判断!」
爆豪くんの怒号に切島くんがいい笑顔で返す。それがいつもの光景過ぎて、なぜか目の前が歪んでいく。駄目だ、瀬呂くんの前で泣いてから涙腺おかしくなってる。
「お、おいみょうじ!?」
「……なに泣いとんじゃ。」
思わず座り込んでしまった私を切島くんたちが心配してくれる。爆豪くんは辛辣なままだけど、立ち上がれない私のそばまでやってきてくれた。彼の顔を見上げて、改めて戻ってきてくれたのを実感する。さらに涙が込み上げてきた。
「ば、くご、くん。無事だ。」
「ったりめーだろが。」
頭をガシガシ撫でられる。髪ぐちゃぐちゃだ。それでもその乱暴さがたまらなく嬉しかった。
「助けられなくて、ごめ、ん。」
「てめえの助けなんざなくても楽勝だわ。余計なことすんな。」
「ご、めん……!」
「泣くなや!!!」
そうは言っても止まらない。タガが外れるとこんなに泣いてしまう性格だったなんて。ぼたぼたと落ちる涙に情けなくなってくる。
「あー!めんどくせえ‼」
全く泣き止む様子のない私に痺れをきらしたのか爆豪くんは乱暴に私の手を掴んで立たせ、そのまま自分の胸に押し付けた。
「……おら、生きてんだろうが。」
頭を抑えつけられ、爆豪くんの心臓の音が聞こえてくる。恐る恐る手を背中にまわすと、温かかった。彼が生きているのが伝わってきてなんだか余計に泣けた。ちゃんと掴めたんだ、爆豪くんの手。私にも、助け出せた。
「満足したかよ。」
「……うん、した。ありがとう。」
「は、ぶっさいく。」
「ひどい。」
段々と冷静になってきた。鼻をすすりながら体を離す。周りを見ると顔を赤くさせる切島くん、緑谷くん、飯田くん。あれ、よく考えたら今の状況かなり恥ずかしくなかったか。爆豪くんは特に気にしてない様子だけど顔が急に熱くなる。
「い、今のは違うよ?ちょっと感情が昂ってしまって……。」
「わ、わかってるわかってる!」
「僕らも気にしてないから!」
「うむ!みょうじくんの心配は痛いほど伝わったぞ!」
「何ごちゃごちゃ言っとんじゃ!」
少しだけいつも通りの空気が流れて安心する。けれどそれも束の間で。和やかだった私たちはふとモニターを見上げて凍り付いた。
たった今脅威と戦っているオールマイト。平和の象徴。いつだって希望を照らしてくれる存在。それなのに。
「……トゥルーフォーム……。」
モニターに映る彼の体は縮んでしまっていて。先ほどまで笑顔で応援していた街の人たちの顔が、一気に曇っていくのがわかった。私の小さな呟きは人混みに紛れて消えて行った。