神野
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「ここが発信機の示す場所ですわ。」
辿りついたのはさびれた倉庫。いかにも敵がいますって雰囲気で緊張感が増す。
百ちゃん曰く敵は丸一日ここから動いてないらしい。発信機に気づかないまま同じ場所に留まってくれたのは運がよかった。まあ相手も動き回れば捕まるリスクが上がるということなのだろう。もちろんここが敵の本拠地だからって爆豪くんがいるかはわからない。それでもやっとここまで来られた。逸る気持ちを必死で抑える。あくまで冷静に、だ。
「耳郎くんや葉隠くんのようなスニーク活動に秀でた者はいない。少しでも危険だと判断したらすぐ止めるぞ。友であるからこそ、警察への通報も辞さんからな……!」
「うん、ありがとう飯田くん。」
「出来る範囲で出来ること……考えよう。」
ここまで一緒に来てくれた飯田くんに改めてお礼を言う。それから緑谷くんは考え込んでしまいずっとブツブツと何かを呟いている。本気モードだ。
恐らく私と彼はそう変わらない熱量でここに来ている。だからこそ私は少しでも冷静にいなければと自分に言い聞かせる。緑谷くんは目の前に爆豪くんがいたらきっと止まれない。守るべき相手には歯止めが利かなくなってしまう。彼と同じくらい悔しくて助けたくてたまらない私が、彼の気持ちを汲みながら暴走しないよう止めなければ。少しでも頭をクリアに出来るよう肩の力を抜いて深呼吸をする。
「電気も点いてねーし中に人がいる感じはねえな。」
「廃倉庫を装って怪しまれないようにしてるんだろうね。」
「正面のドア下に雑草が茂ってる……他に出入り口があるのか?どうにか中の様子を確認出来ないものか……。」
倉庫は門に鍵がかかっていて奥の建物もしっかりシャッターが閉まっている。ここから塀を飛び越えて中に入るとかなり目立つし何より危険すぎる。すぐに逃げられない行動は避けるべきだ。緑谷くんのブツブツモードは継続中で、何とか中の様子だけでも確認できないかと模索している。
「おい。」
後ろから声をかけられた。まずい、敵に見つかっただろうか。恐る恐る振り返ると赤ら顔のおじさんが二人。これは多分、普通に酔っ払いだ。
「ホステス~!何してんだよホステス~!俺たちと飲みましょ~!」
「え、ええ?」
「やーめとけバカ!」
「パッ、パイオツカイデーチャンネー!」
「オッラア!」
酔っ払い相手にキャッチの飯田くんとチンピラ緑谷くんが応戦する。なんだこのカオスな状況。丁重に断って酔っ払いには帰ってもらう。
多くはないけど人通りもある。さっきみたいなことがないよう一度場所を離れてどうするか話し合い、目立たないように倉庫の裏に回ってみることにした。やっぱりこの変装逆に注目浴びちゃうよなあ。
建物と建物の間の狭い道を一列になって進んでいく。私は最後尾だ。狭くてつっかえそうと言う百ちゃん。どこがという指摘はなかったけれど思わず胸元に注目してしまう。私も彼女ほどではないけど苦しい。切島くんに聞こえたら気まずいから言わないけど。
「あの高さなら中の様子見れそうだよ‼」
緑谷くんが見つけたのは塀に登れば見えそうな高さの窓。ここなら人目もないし多少大胆に動いてもよさそうだ。でも今は夜。隠密行動にはいいかもしれないけど暗くて中が見られるかわからない。
「この暗さで見れるか?」
「それなら私暗視鏡を……。」
「いや!八百万それ俺持って来てんだな実は。」
百ちゃんが個性を使おうとするのを遮って切島くんが暗視鏡を取り出す。いつになく準備万端の彼にみんな驚いていた。
「ええすごい何で!?」
「用意いいね。」
「アマゾンには何でもあってすぐ届くんだ。」
多分緑谷くんが聞いた何ではそういうことじゃないと思う。けど切島くんは至って真剣だったため黙っておいた。
「一つしか買えなかったけど、やれる事考えた時に……要ると思ってよ。」
出発する前から、すでにみんな行動していた。自分たちに何ができるか必死で考えながら。実をいうと私も暗視鏡はネット通販で見てた。けど入院してる身でばれずに手元に届く保証がなかったので断念したのだ。その時値段も見たけどかなり高額だったはずだ。
「切島くん、あとでお金払わせて。」
「あ、僕も!」
「いんだよ値段は。俺がしたくてしたんだから。」
「ちょっとでもいいから。ね。」
「……わかった。サンキューな。」
塀に登るために切島くんと緑谷くんを私が浮かせることになった。空気の塊を作り2人がそれに乗る。けれど道幅が狭いこともありなかなか安定しないようで、足元はぐらぐらしている。
「様子を教えたまえ。切島くんどうなってる!?」
「んあー、汚ーだけで……特には……うおっ‼」
暗視鏡を使っていた切島くんが突然何かに驚きバランスを崩す。後ろから風で支えてなんとか倒れずにすんだ。彼が何かを見つけたことは一目瞭然で、焦った様子に緊張が走る。
「切島くん!?」
「どうした。何見えた!?切島‼」
「左奥……‼緑谷左奥‼見ろ‼」
今度は緑谷くんが暗視鏡で中を覗く。彼の口から零れたのは信じられない言葉だった。
「ウソだろ……!?あんな無造作に……アレ全部、脳無……!?」
「っえ。」
怪人脳無。USJで私がボコボコにやられた、巷を騒がす異型の敵だ。それがこんな街中にいるっていうのか。暴れ出しでもしたら一瞬でここが戦場に変わる。ぞわりと背筋が凍った。
緑谷くんと切島くんによるといくつも装置のようなものがあって、水槽のような機械の中に一人ずつ脳無が安置されているみたいだ。色々改造されてるとはいえ人間のはずなのに。まるでSFだ。フィクションのような話に目が眩む。
「うわ!?」
さらに観察を続けようと目を凝らしていると、突然大きな音と共に建物から爆風が吹いた。耐えきれずバランスを崩してしまい緑谷くんたちも倒れる。
「いっててて……。」
「ごめん怪我無い!?」
「いや、みょうじさんのせいじゃないよ。」
「どうなってるんだ!?」
個性を使ってひょいと塀の向こうを覗く。どうやらヒーローたちが到着したようで、先ほどの爆風は多分Mt.レディさんによるものだと思う。大きな彼女が殴ったであろうビルは半壊になっていた。
「Mt.レディさんにギャングオルカさん。虎さんもいるしジーニストさんも来てるよ。」
プロヒーローたちが手際よく脳無を確保していく様子をみんなに伝える。建物が壊されさっきよりも中が見やすくなった。脳無は特に抵抗することもなくされるがままになっている。けれどやはり爆豪くんはここにはいないようで、連合の姿もない。ここは本当にただ脳無の安置所として使用されている場所なんだ。
Mt.レディさんがオールマイトさんの方に行くべきだったのではと話してるのが聞こえた。オールマイトは別の場所に突撃したということだろう。わざわざNo.1が出向くということは、恐らくそっちが本丸なんだ。爆豪くんはきっとそこにいて、彼のそばには必ず連合もいる。
「ヒーローは俺たちなどよりもずっと早く動いていたんだ……!」
「すんげえ……。」
あらかた状況がわかったのでばれないよう私も地面へと降りる。
「プロが来た以上、私たちに出来ることは無くなったかもしれない。」
「さあすぐに去ろう!俺たちにすべき事はない‼」
けれど緑谷くんはやっぱり納得いってないようで。心配そうに塀の向こうを見続けている。
「オールマイトの方……かっちゃんはそっちにいるのか……。」
私と同じ懸念を彼も口にする。でもここはもう退くしかない気がする。敵の本丸に乗り込んでいったら、きっと人質を増やしてしまう。敵にとって都合のいい動きをするわけにはいかない。それに発信機は脳無に取り付けたものだけ。私たちだけじゃ連合の居場所は突き止められない。
「緑谷くん、爆豪くんの姿が見られてないのは心配だけどオールマイトを信じよう。これだけプロがいるんだもん。多分、大丈夫だよ。私たちは帰った方がいい。」
「本当に?」
「……っそりゃ、」
言葉を続けられなかった。緑谷くんのまっすぐな目は私の本音を見透かしているようで、慌てて視線を逸らす。
そりゃ助けたいよ。この手で彼の手を掴まなきゃって思ってるよ。でもこれ以上はヒーローの卵として範疇を超える。恐らくここが限界なのだ。
百ちゃんにも急かされ、緑谷くんも渋々歩を進める。私も後ろ髪惹かれまくりだけど、敵の倉庫を後にする。
そのはずだった。そう思っていたのに。急に知らない人の声がして、私たちは再び足を止めた。