神野
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無事神野区に到着した。ここからは百ちゃんの発信機を頼りに歩いて探す手筈になっている。
「さァどこだ八百万!」
「お待ちください!」
駆けだす切島くんを百ちゃんが急いで止める。
「ここからは用心に用心を重ねませんと‼私たち敵に顔を知られているんですのよ‼」
「体育祭とかで街の人にも知られてるかもだし、何とかばれないようにしないとね。そもそも高校生が出歩いていい時間じゃないし。」
「うん、オンミツだ。」
「しかしそれでは偵察もままならんな。」
「そこで私、提案がありましてよ!?」
かなりワクワク顔の百ちゃん。指さしてるのは某大手激安バラエティショップ。某ドンキだ。入ってみたかったんだね。こんな状況なのに少しほっこりする。
かなり楽しそうな百ちゃんに連れられみんなで店内へ。それぞれに合った衣装を見繕って着替える。
焦凍くんは黒髪のウィッグをかぶったホスト仕様、付け髭をつけた飯田くんはキャッチのおじさん、切島くんと緑谷くんはチンピラ。そして私と百ちゃんがキャバ嬢の恰好をしている。メイド服も勧められたけど丁重にお断りした。どっちもどっちだけど。
「なるほど変装か。」
「切島くん髪おろしてるのもかっこいいね。」
「お、そーか?みょうじも似合ってるぞ!」
「それあんま嬉しくないかも。」
「なまえ、俺はどうだ。かっこいいか。」
「え?う、うん。新鮮な感じ。」
「轟さん今は張り合っている場合じゃないですわ。」
某家庭教師暗殺者マンガにこんなキャラいたよなって思ったけど黙っておく。みんないつもと雰囲気が違いすぎて思わず笑いそうになってしまう。こんな時に不謹慎だ。でも切島くんに教えてもらった「パイオツカイデーチャンネーイルヨー‼」という台詞を連呼してる飯田くんを見たら吹き出すのを我慢できなかった。本人何言わされてるのか絶対わかってないと思う。緑谷くんも切島くんに演技指導を受けサングラスをかけてオラついている。オラついてるっていうか実際オラオラ言ってる。かなりカオスだ。
「八百万……創造でつくればタダだったんじゃねえか?」
「そそソレはルール違反ですわ!私の個性で好き勝手につくり出してしまうと流通が……そう!国民の一人として……うん。回さねばなりませんもの!経済を!」
百ちゃんものすごくドンキ入りたかったんだろうなあ。必死で自分に言い訳してるのがいじらしい。焦凍くんはそうか、って納得してるけど百ちゃんのテンションの上がり様はなかなかだ。ぷりぷりしてて可愛いからいいか。
「お?雄英じゃん‼」
知らない人の声にぎくりと肩を震わせる。緑谷くんが変装を貫きオラァとメンチきろうと振り返ると、街に飾られたモニターが目に入った。
雄英の謝罪会見。私たちじゃなくてテレビ見て雄英だって言ったんだ。モニターには校長先生、ブラド先生、そして消太くん。いつもと違って髭も剃って髪もまとめてる。みんなスーツを着て物々しい雰囲気だ。私たちはたくさんの街の人に交ざって、思わず画面を見つめた。
『この度我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまった事、ヒーローの育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした。』
校長先生の言葉と同時に消太くんたちも頭を下げる。チクリと胸が痛んだ。あんなの防ぎようがないのに。なんで先生たちが謝らなくちゃいけないんだろう。形式上仕方がないとわかっていても憤ってしまう。
『NHAです。雄英高校は今年に入って4回生徒が敵と接触していますが、今回生徒に被害が出るまで各ご家庭にはどのような説明をされていたのか、又具体的にどのような対策を行っていたのかお聞かせ下さい。』
棘のある記者の質問。雄英の基本姿勢なんて体育祭の時にとっくに表明してる。学校側は十分対策してくれてたし起こってしまうものはどこでだって起こってしまうものだ。糾弾したってどうしようもないじゃないか。
「悪者扱いかよ……。」
緑谷くんの呟きに同意する。普段は持て囃すくせに何か良くないことがあればすぐに非難。マスコミの在り方にはどうにも疑問が尽きない。
それにしても万全だったはずの対策に綻びが生じた。これはやっぱり学校の中に敵と繋がっている人がいるとしか思えない。USJの時の疑念が確信に変わっていくような気がした。
『周辺地域の警備強化、校内の防犯システム再検討、強い姿勢で生徒の安全を保証する……と説明しておりました。』
校長先生の言葉に街の人が顔を顰める。
「は?守れてねーじゃん。何言ってんだこいつら。」
いつもは憧れの対象であるヒーローに、今向けられているのは不信感。周りの人たちはみんな同じような顔をしていて、空気が淀んでいくのがわかった。
そうか、敵はこれも狙いだったんだ。結果を求められるヒーローへの信頼を揺るがせ、社会に不安をもたらす。私たちの合宿を利用して雄英にヘイト集めようなんて、やってくれる。この空気に呑まれちゃだめだ。私たちは今自分がすべきことだけを見てないと。一旦息を深く吐き気合を入れなおす。
「みんな行こう。」
「みょうじ……。」
「ここで立ち止まってたらそれこそ敵の思うつぼだよ。爆豪くん、助けに行こう。」
「……そうだね。」
「八百万、次はどっちに行けばいい。」
「ええ、ご案内しますわ。」
再び百ちゃんを先頭に歩き始める。消太くんたちが矢面に立ってあんなに頑張ってくれてるんだ。私もできる範囲で不信感を取り除きたい。
あとで烈火のごとく怒られるだろうし下手したら退学だろうからあんまり消太くんのためとか言えないんだけどね。それでも、自己満足でもいい。爆豪くんを助けて、全てが好転すればいい。百ちゃんを追いかけながら不穏な人混みを後にした。