神野
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次の日の夜になった。私は約束通り診療後の病院前に向かっている。お昼頃、クラスのみんながお見舞いに来てくれていた。みんな本気で心配してくれていて、それを裏切る形になるのかと思うと胸が痛んだ。けれど自分の選択に責任を持たなくちゃいけない。たとえみんなに失望されたとしても、もう決めたんだ。
約束の場所には焦凍くん、切島くん、緑谷くん。そして百ちゃんがいた。
「みょうじさん!」
「なまえさんまで、行くつもりなのですね。」
「……うん。ごめんね。」
私が姿を現したことに百ちゃんは口を押さえる。焦凍くんたちに黙っててもらったのもあって、みんなは私が爆豪くんを助けに行こうとしていることを知らない。嬉しそうな様子の緑谷くんと百ちゃんの視線は対照的なもので、気まずい雰囲気に耐えられず下を向いた。
「百ちゃん、その。協力なんて言い方よくないかもしれないけど。……力、貸してくれないかな。」
「……私は、」
「待て。」
百ちゃんの答えを遮った聞き覚えのある声。
「飯田くん……。」
「みょうじくんまで、何をやってるんだ。」
険しい顔の飯田くんが後ろに立っていた。焦凍くんたちの提案は案の定クラス全員に却下されたと聞いていた。その中でも大きく拒否反応を示していたのは飯田くんだったと。彼はきっと私たちを止めるためにここに来た。
「……何でよりにもよって君たちなんだ……!俺の私的暴走をとがめてくれた……ともに特赦を受けたハズの君たち二人が……っ!!!何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?あんまりじゃないか……!」
飯田くんの悲痛な思い。彼が言ってるのは恐らくヒーロー殺しの時のことだろう。お兄さんが襲われずっと思い詰めた顔をしていたあの時。ニュースでは三人が偶然現場に居合わせたことになってたけど、やっぱり飯田くんはお兄さんの仇をとりに行ってたんだ。それを焦凍くんと緑谷くんが助けた。
飯田くんは、私たちが爆豪くんを助けるために暴走してると思ってる。それが許されるべきことではないと彼が一番知っているからこそ、強い言葉で私たちを咎めるんだ。
「俺たちはまだ保護下にいる。ただでさえ雄英が大変な時だぞ。君らの行動の責任は誰がとるのかわかってるのか!?」
「飯田くん違うんだよ。僕らだってルールを破っていいなんて……。」
緑谷くんが弁解しようとした瞬間、ゴチッというすごい音とともに飯田くんが彼を殴った。
「飯田くん!」
「俺だって悔しいさ‼心配さ‼当然だ‼俺は学級委員長だ!クラスメイトを心配するんだ‼爆豪くんだけじゃない‼」
緑谷くんに掴みかかる飯田くんを私たちは見ていることしかできない。止める資格がないからだ。緑谷くん自身も抵抗する意思がないようでされるがままになっている。
「君の怪我を見て、床に伏せる兄の姿を重ねた‼君たちが暴走した挙句兄のように取り返しのつかない事態になったら……っ‼僕の心配はどうでもいいっていうのか‼僕の気持ちは……どうでもいいっていうのか……!」
緑谷くんの肩を掴んだまま訴える飯田くんに胸が潰れそうになる。私たちはこれほど気にかけてくれているクラスメイトの信頼を裏切ろうとしているんだ。目を背けたくなる事実を改めて実感させられた。
「飯田。俺たちだって何も正面切ってカチ込む気なんざねえよ。」
「……!?」
痺れを切らした焦凍くんが今回の作戦について口を開いた。飯田くんはきっと私たちが敵と戦うつもりでいるんだと思ってる。けど私たちもそこまで馬鹿じゃない。散々悩んでどうすべきか決めた。できる範囲での最善策。
「戦闘なしで助け出す。ようは隠密活動‼それが俺ら卵の出来る……ルールにギリ触れねえ戦い方だろ。」
切島くんの言葉に私も頷く。本当はプロヒーローに同行したい気持ちだってあるけど、それではむしろ邪魔になってしまう。連れて行ってもらえるわけもないし。
「私は轟さんとなまえさんを信頼しています……。が‼万が一を考え私がストッパーとなれるよう、同行するつもりで参りました。」
「八百万くん!?」
「百ちゃん……!」
百ちゃんがついて来てくれるなら百人力だ。きっと彼女もたくさん考えて出した答え。百ちゃんの信頼を裏切らない行動をしたい。それが正しく救うってことだ。
「私、爆豪くんが手を伸ばしてくれたのを見たの。掴めなくて結局攫われて悔しくて……。だから今度こそ、絶対に離したくない。」
「みょうじくん……。」
「僕も……自分でもわからないんだ……。手が届くって言われて、いてもたってもいられなくなって……。救けたいと思っちゃうんだ。」
緑谷くんのまっすぐな目に、飯田くんはため息を吐いた。彼も今、私たちを行かせるべきか悩んでる。こんなに心配してくれているのに、私たちは振りきってでも行くつもりで。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「平行線か……。ならば……っ俺も連れて行け。」
「!?」
「え、飯田くん。いいの……?」
「言ったって聞かないだろう君ら。ならば俺が監視役になろう。」
飯田くんは私たちの行動に納得できないからこそ同行してくれるのだと言った。少しでも戦闘の可能性を感じたら引き戻す、監視役。ウォッチマンなのだそうだ。百ちゃんもそれに同意して、私たちはウォッチマン二人に見守られながらようやく爆豪くん救出へと歩き出した。
無事新幹線に乗ることができ、今はお弁当を食べている。爆豪くんがいるのは神奈川県の神野。ここから二時間、夜10時くらいに到着予定だ。
「あの……。この出発とか詳細って皆に伝えてるの?」
「ああ。言ったら余計止められたけどな。」
「あの後麗日がダメ押しでキチい事言ってくれたぜ。」
「お茶子ちゃんが?」
「爆豪が俺らに助けられんの屈辱なんじゃねーかって。」
確かに。爆豪くんは人に助けられるのを嫌うだろう。あの時もぶちギレてたし。でも私は彼が手を伸ばすのを見たんだ。あれは見間違いなんかじゃなかった。
「それはそうかもしれないけど……。でもみょうじさん、かっちゃん君の手を取ろうとしたんだよね?」
「私にはそう見えたけど……。」
「じゃあまだ、やりようだってあるはずだ。」
緑谷くんと顔を見合わせて頷く。一度失敗した私の手をまた取ってくれるかなんてわかんないけど。それでも少しの希望に賭けたい。
「一応聞いとく。俺たちのやろうとしてる事は誰からも認められねえエゴってヤツだ。引き返すならまだ間に合うぞ。」
「迷うくらいならそもそも言わねえ!あいつァ敵のいいようにされていいタマじゃねえんだ……!」
「ここまで来て引き返そうなんて言わないよ。助けるって決めたから。」
「僕は……後戻りなんてできない。」
焦凍くんの最終確認に、誰も弱音を吐かなかった。自分たちがいけないことをしているのはもちろんわかっている。それでも枉げちゃいけないことだってあるんだ。
その後は誰も何も言うことなく、ただ流れていく景色を眺めていた。
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