合宿
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「あ?お前……。」
森の中を進んでいく途中、突然現れた継ぎはぎ男。間違いなく敵連合だ。どっから来たのこの人。全然気配しなかった。身構えていると攻撃するでもなく笑い始めた。
「っ何、」
「悪い悪い。ちょっと懐かしくなっちまってなァ。まあいいや。予想以上にガス回ってねぇんだけど、これお前?」
個性、把握されてるのだろうか。さっきのガスマスク敵も私たちの能力知ってるっぽかった。だとしたらかなり分が悪い。窮地に立たされているのだとあらためて気づき冷や汗が出てくる。目の前の男は相変わらずへらへら笑っていて、雰囲気の不釣り合いさに気味が悪かった。
「……だったら何。」
「あーいや、スゲーなと思ってサ。リストにはねぇがさらっちまうかぁ?」
「!」
青い炎が頬を掠める。この敵、炎使いだ。相手の攻撃を倍返しするには都合がいいけど、ここではまずい。木が多すぎる。下手すれば山火事だ。
「俺相手にゃあんま使えねえよなあ。どうするみょうじなまえ。元No.4ヒーローの娘。」
名前まで知ってるのか。私が動揺を見せたのと同時に放たれる炎。さっきよりも威力が大きい。慌てて周りの空気を圧縮させ、炎を閉じ込める。
「そのやり方じゃ持たねえよ。」
もう一度足元に向かって炎が飛んでくる。圧縮した空気の方に気を取られて一瞬反応が遅れた。
「いっ!」
右足に攻撃が直撃、火傷の痛みが広がっていく。思わず膝をついてしまった。まずい、体勢を立て直さないと。考えなくちゃ。どうしたら周りの被害を出さずに済む。火事になったらそれこそ敵味方関係なく死んでしまう。
「もう一発決めたら倒れてくれっかァ?」
立ち上がる前に敵の両手から放たれるいくつもの炎。やばい正面。当たる。
「よけろみょうじ!」
「!?」
声が聞こえて咄嗟に伏せる。大木が頭上を飛んでった。そのまま先の方へ落下し、炎は消え大木が直撃した目の前の敵も形が崩れる。さっきの敵、人間だったはずだ。ピクシーボブさんみたいに造形ができる個性なのだろうか。何にせよ連合は厄介な相手ばかりだ。
それにしても今の何。後ろからはすごい音がして、ちらりと振り向くとどんどん木がなぎ倒されて行ってるのがわかる。
「悪い抱える。」
「しょ、障子くん!?」
「常闇くんが暴走した!」
「緑谷くん!」
障子くんの小脇に抱えられわけもわからず逃げる。障子くんの背中にはボロボロになった緑谷くん。理解が追いつかない。
常闇くんが暴走したって、あの後ろの黒いのもしかしてダークシャドウくんなのか。周りすべてを破壊してしまっている。そうか今は夜、暗闇が深い。最大威力のダークシャドウくんに、制御効かなくなっちゃったんだ。それってもしかしなくてもかなりまずい状況なのでは。
「こ、れ!何か作戦、っあるの?」
障子くんの腕で手足をぶらぶらさせながらなんとか必要な情報を聞き出す。
「ダークシャドウは音に反応するから!障子くんの複製腕で囮を作って本体に攻撃が向かないよう誘導してる!僕らが向かってるのは、かっちゃんのとこだよ!」
緑谷くんが簡潔にわかりやすく説明してくれた。なるほど爆豪くんか。彼の爆破ならダークシャドウを鎮められる。緑谷くんは狙われてる爆豪くんのことが心配で今ここにいるんだろうし、一石二鳥ってわけだ。
「前!しょ、とくんの氷!」
「交戦中だ!」
前方で敵らしき影が見えた。近くには氷壁がある。多分焦凍くんが戦ってる。爆豪くんじゃなくても、炎があればダークシャドウは収まるはずだ。よかった。
「爆豪!轟!どちらか頼む、光を!!!」
爆豪くんも一緒だったらしい。障子くんが必死で助けを求める。するとこちらに気づいた歯から刃物が出ている敵が攻撃を仕掛けてきた。それどころじゃないのに容赦なく無数の刃が私たちに向かってくる。
「こ、の……!」
攻撃を躱そうと片手を上にあげた。けど。
「あ"っ!」
その必要はなく。一瞬で敵は抑えつけられてしまった。ダークシャドウくんに。恐らく焦凍くんと爆豪くんが苦戦していた相手。それをいとも簡単に。すごすぎる、こんなポテンシャルを秘めていたなんて。
「障子緑谷、なまえ……と、常闇!?」
「早く光を!!!常闇が暴走した!!!」
ダークシャドウくんがそこまで迫っている。このままだと2人も巻き込まれてしまう。緊迫した状況に気づいてくれたみたいで、焦凍くんが左を使おうとする。
「見境なしか。っし、炎を……。」
「待てアホ、……見てえ。」
なぜかストップをかける爆豪くん。ダークシャドウくんはいまだこちらを追いかけてきていて、彼の手から逃れた敵まで起き上がってしまった。
「その子たちの断面を見るのは僕だああ!!!横取りするなあああああ!!!」
「強請ルナ三下‼」
襲い掛かってきた刃物敵を一瞬で吹き飛ばすダークシャドウくん。そこら一体の木は根こそぎ吹っ飛び更地になってしまった。
「ア"ア"ア"ア"ア"暴レ足リンゾォア"ア"ア"ア!!!ひゃん!」
敵が倒せたのと同時に爆豪くんと焦凍くんが光でダークシャドウくんを鎮める。暴走はようやく止まりダークシャドウくんは常闇くんの元へと帰って行った。
刃物敵、伸びちゃってるなあ。常闇くん、強いとは思ってたけどここまでの威力を持ってたなんて。こんな状況だと制御するのかなり難しそうだ。
「ハッ、」
「てめェと俺の相性が残念だぜ……。」
「……?すまん助かった。」
ガクリと膝をつく常闇くん。相当苦しかったんだろう。汗だくだ。
「常闇大丈夫か。よく言う通りにしてくれた。」
「障子……悪かった……。緑谷、みょうじも……。俺の心が未熟だった。」
常闇くんはかなり後悔しているようだった。誠実な彼のことだ。友達を危険にさらしたことに罪悪感を覚えているんだろう。これほど彼の個性がピーキーだったとは。強いというのも考え物だ。
「あの、障子くん。降ろしてもらってもいい?」
「ああ、すまん。」
ようやく腕から解放される。障子くんはそっと地面に降ろしてくれたけど、火傷した箇所は当然治っていなくて。踏みしめた足がじくりと痛んだ。
さっきは夢中で気づかなかったけど、焦凍くんの背中にはぐったりした円場くんがいた。彼もガスを吸ったのだろう。私がもう少し早く動けていたら。ぐっと胸が詰まった。
「そうだ……!敵の目的の一つがかっちゃんだって判明したんだ。」
「爆豪……?命を狙われているのか?何故……?」
常闇くんは暴走を止めるのに必死でテレパスは聞こえてなかったらしい。緑谷くんが今の状況を整理して説明してくれる。
「わからない……!とにかく……ブラドキング・相澤先生プロ二名がいる施設が最も安全だと思うんだ。」
「なる程、これより我々の任は爆豪を送り届けること……か!」
「ただ広場は依然プッシーキャッツが交戦中。道なりに戻るのは敵の目につくしタイムロスだ。まっすぐ最短がいい。」
「敵の数わかんねえぞ。突然出くわす可能性がある。」
「障子くんの索敵能力がある!」
「あ、ガスの敵はさっき倒したから心配いらないよ。」
「さすがみょうじさん!そして轟くんの氷結……。更に常闇くんさえ良いなら、制御手段を備えた無敵の黒影。このメンツなら正直……オールマイトだって恐くないんじゃないかな……!」
みんなの能力値の高さに脱帽だ。緑谷くんの丁寧な説明を聞いてるだけで勇気が出てくる。けれど自分抜きでどんどん進んでいく話に置いてけぼりの爆豪くん。若干ぽかんとしている。
「何だこいつら‼‼」
「まあまあ。」
「お前中央歩け。」
キレてしまった。すごく顔が怖い。爆豪くんを囲むようにフォーメーションを取る私たちが相当気に入らないらしい。守られるのが大嫌いな彼は吠えに吠えている。敵に気づかれるって。
「俺を守るんじゃねえクソ共!!!」
「行くぞ。」
ブチギレ爆豪くんを無視して歩き始める。足を踏み出すたびに火傷した箇所が痛む。正直ガスのせいで頭もフラフラだ。でも今はそんなこと言ってられない。幸い誰も私の不調には気づいていない。引きずる足を庇いながら、みんなの後をついて行った。