合宿
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『敵の狙いの一つ判明‼生徒のかっちゃん‼わかった!?かっちゃん‼かっちゃんはなるべく戦闘を避けて‼単独では動かないこと‼』
マンダレイさんの声が再び頭に響く。その内容はあまりに意外なもので。わけがわからず首をかしげる。
「え、爆豪くん?」
「かっちゃんって爆豪のことか!」
「何で爆豪が狙われてんの?」
全くわからない。彼が指示通り戦闘を避けるとも思えないけど大丈夫だろうか。心配になってきたな。
でも、とりあえず今は緑谷くんが無事なことがわかった。かっちゃん。そう呼ぶのは緑谷くんだけ。きっと洸汰くんを助けてマンダレイさんのところに辿りついたのだ。ホッと胸をなでおろす。
さっきと比じゃないくらい煙が濃くなってきた。多分近くに敵がいる。煙の渦の巻き方を注意深く見ながら、私たち3人は息を殺す。
「風、起こすね。」
「頼む。」
静かに呟き合図と同時に旋風で煙を巻き上げる。一瞬で現れる敵の姿。
「いいいたあああああ‼‼」
鉄哲くんが迷わず殴り込む。すぐに反応した敵はなんと銃弾を撃ってきた。鉄哲くんに命中しガスマスクが壊れる。これ、私か拳藤さんだったら危なかった。硬化が個性の彼が後ろにのけぞる威力。下手したら死ぬかもしれない。
「ああ、いたね硬くなる奴……。銃効かないか……。まあでも関係ないよ。このガスの中どれだけ息を止めてられるかって話になるからね。」
敵はかなり小柄でしかも学ランを着ている。中学生くらいかもしれない。それより気になるのは彼の顔。ガスマスクつけてる。自分にもガスは有毒ってことだろうか。じゃあもうそれは、壊すしかない。
鉄哲くんの視界がよくなるよう風を放つけど、相手もずっと個性を使い続けてくる。すぐに煙が充満して、なかなかやりづらい。このままじゃ鉄哲くんの息も持たない。けれど空気操作に集中していてなかなか加勢に行けない。
「んぬお!!!」
「ターミネーターごっこ?」
再び敵に突っ込んでいく鉄哲くんに容赦なく銃弾が撃ち込まれる。いくら弾き返せるって言っても痛いはずだ。個性にも限界がある。何とかしないと。
「硬化とは言え突進とかさあ、勘弁してよ。名門校でしょ?高学歴でしょ?考えてくんない?じゃないと……殺りがいがない。」
くるりと銃口の向きが変わる。あえて風を起こしてなかった方向に気づかれた。まずい。
「鉄哲‼」
「だめだ……退いてろ……‼」
身を潜めていた拳藤さんに銃弾が飛んでいき、鉄哲くんが庇う。彼女が奇襲を仕掛けるかもしれないと思って煙をそのままにしてたのが仇になってしまった。私のミスだ。
「アッハハハハ!3対1で一人は身を挺して不意打ち狙いね!?もう一人もわざと空気操作してないのバレバレ。アハハハ!浅っ!あっさいよ底が。このガスはさァ、僕から出て僕が操ってる‼君らの動きが揺らぎとして直接僕に伝わるんだよ!つまり筒抜けなんだって‼」
嘲笑いながら2人に近づいていくガスマスク敵。なるほど、それで奇襲は無駄ってわけか。でもそれなら煙を巻き上げ続ければいい。視界良好で直接叩きに行った方が早い。と言っても出続ける煙に対抗するのなかなか厳しいんだけど。
「何でそういうの考えらんないかなあ。雄英でしょ?夢見させてよ……。それだからこんな襲撃許しちゃうんだよ。」
血が出ている鉄哲くんに近づいていく敵。私も個性使いっぱなしで若干目がかすんできてる。早く助けなきゃいけないのに、まだ同時に二つのことができるほど能力がない。
「んむああ!!!」
「バッ、ちょ、待っ……」
止める拳藤さんを無視して鉄哲くんは敵へと突進していく。けれどまた銃弾が彼を襲う。敵は余裕の様子で先ほどより口数が多くなっていく。
「さっきより柔らかくなってない?金属の疲労的なやつ?息も続かなくなってきた?踏ん張り利いてないね?硬度は踏ん張り如何?硬化やらの単純な奴らってえてして体力勝負なとこあるもんねえ。そういうの考えず突っ走るってさあ。」
よろりと倒れる鉄哲くんに敵が追撃する。彼は疲労と毒ガスのせいでどんどん動けなくなってる。なんとかしないと。
それにしてもこの敵、何か大きなコンプレックスでもあるのか。よくしゃべる。これだけ身を挺して戦ってくれている鉄哲くんへの暴言に腹が立ってきた。
「ねえ……君らは将来ヒーローになるんだろ……?僕おかしいと思うんだよね。君みたいな単細胞がさァ!学歴だけで!チヤホヤされる世の中って‼正しくないよねえ‼」
何度も弾を撃ち込んだあと鉄哲くんを足蹴にする目の前の敵。なんだか自分の不調なんてどうでもよくなってきた。武器持ってガスマスクして優位に立って、それでよく体一つで戦ってる鉄哲くんのこと悪く言えるな。
最大威力の旋風を起こしてガスを一気に巻き上げる。ガスさえなくなれば関係ない。この状況で個性キャパとかもう気にしてられないし、目の前の敵が倒せればそれでいい。視界をクリアにして2人が戦いやすくする。それが私の役割だろう。
「よくしゃべるね。私にはあなたの個性、効かないけど。」
「あれ?友達侮辱されて怒っちゃった?さっきから君も目障りだよねえ。空気清浄しか能がない癖に。」
私にも銃口が向けられる。だけど怖さはない。片手で旋風を起こしたままもう一方の手で目の前に来たそれを粉砕した。明らかに目の前の敵が動揺する。
「大口叩きながら銃で武装って、かっこ悪いよ。」
「……は?いやでも、ピンチには変わりないよね君ら。」
攻撃が効かなかったことに焦りながら、倒れている鉄哲くんの方に向き直る敵。もう一度撃つ気だ。
「てつてつ!」
咄嗟に敵を捕まえようとした拳藤さんの手が躱される。相手は再び冷静さを取り戻したようだけど、私たちを舐めきっている敵が彼女の個性の使い方を予想できるはずない。
「お友達が煙全部吸っちゃってるから逆に動きが筒抜けだね。」
完全に避けたと思って油断している敵の上で拳藤さんの掌が巨大化する。予想外の攻撃に痛そうな声をあげた。
「っだ!」
「動きだけわかっても意味ねえんだよ‼」
「そんなしょぼい個性でドヤ顔されてもなあ‼」
「しょぼいかどうかは使い方次第だ‼」
拳藤さんが両腕を巨大化させて敵の動きを誘導していく。敵の背後には鉄哲くん。そうか、なるほど。拳藤さんの意図がわかり私は敵の横から風を送る。鉄哲くんの攻撃を風で邪魔しないように。
「馬鹿はお前だ学ラン。拳銃なんか持ってよ。そりゃ喧嘩に自信がないって言ってんのと同じだよ。」
「っこの……」
再び銃を構える敵。後ろで立ち上がる彼に、気づかない。
「何より雄英の単細胞ってのはな。普通もうダメだって思うようなとこを、さらに一歩越えてくるんだよ。」
拳藤さんの力強い一言に胸が熱くなる。鉄哲くんの渾身の一撃が敵の顔へと入り、ガスマスクが粉砕された。敵は伸びてしまい、そのまま地面へと倒れる。敵の体を纏っていたガスもどこかへ霧散していき、ようやく勝ったのだと実感できた。
「ガスっ使いが、ハァ、ガスマスクッ……してりゃ、そらっ壊すわな、馬鹿が……‼俺らのっ、ハアア……合宿潰した罪、償ってもらうぜガキンちょ。」
ドサリと彼も大の字になって横たわる。本当にナイスファイトだった。鉄哲くんはかなりガスを吸ってしまったようで動くことができない。私も初めに吸った分が回ってきていて若干ふらつく。個性が解除されたとはいえ煙の残りがあるかもしれないので、念のため広範囲に風を起こす。
「この辺一帯すぐにきれいにするね。」
「ありがとうみょうじ。みょうじの個性なかったら鉄哲もヤバかった。」
「私こそ鉄哲くんが先陣きって攻撃してくれてなかったら危なかったし、拳藤さんにもかなり助けられたよ。ありがとう。」
「いや、私はそんなに……今回のMVPは間違いなく鉄哲だ。」
2人で拳をぶつけ一息つく。敵が動き出すといけないので申し訳ないけど瀬呂くんのジャージで腕を縛り拘束させてもらった。あとでちゃんと謝って弁償しよう。
「この後どうする?」
「この後って……施設に向かうんだろ?」
「それじゃあガスの報告と鉄哲くんお願いしてもいい?」
「みょうじは帰らないつもりなの?」
「ちょっと様子見てから行く。」
私の言葉に顔を曇らせる拳藤さん。これはきっと心配してくれてるやつだ。けどやっぱり森の中のみんなが気になる。
「爆豪くんの事ちょっと心配で。狙われてるらしいし。お願い、無茶しないから行かせて。」
「……わかった。ただしちゃんと戻ってきて。」
「うん。」
拳藤さんに手をぎゅっと握られる。私も握り返して彼女に誓う。絶対無事に戻る。
「それじゃあ。」
「ああ、また。」
2人と別れて森の中へと駆け出す。まだ嫌な予感は消えてなくて、夜の闇が一層不安を煽ってくる気がした。