合宿
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目の前には2人の敵。奴らの足元には攻撃されたピクシーボブさんが横たわっている。どうすればいいのか。恐らくこの場の全員が今考えを巡らせている。
2人だけならここにいるメンバーでも倒せるかもしれない。でも何人で来ているか把握できてない。あの黒煙も敵の仕業のはず。私たちが攻撃を仕掛けて、相手がどう出てくるか予想がつかない。下手に動くと危険だ。森の中にはB組と10人のクラスメイト。どうする。
響香、みんな。どうか、どうか無事でいて。握る拳にぐっと力が入った。
『皆!!!敵二名襲来‼ほかにも複数いる可能性アリ!動ける者は直ちに施設へ‼会敵しても決して交戦せず撤退を‼』
マンダレイのテレパスが頭に響く。これで全員に情報が行き届いただろう。消太くんやブラド先生も異変に気づいてくれるはずだ。
「ご機嫌よろしゅう雄英高校‼われら敵連合開闢行動隊‼」
トカゲのような見た目の敵が口にしたのはまさかの敵連合という単語。仲間が増えたのか。USJの時には見なかった顔だ。それもきっとあの時みたいな有象無象じゃない。嫌な汗が額に滲む。
行動隊って言うからにはやっぱりこの2人だけで来てるんじゃないはずだ。恐らく森の中にこのレベルの敵が何人かいる。なんで場所がばれたのかは一旦置いといて、この場にいないみんなが危ない。
「この子の頭潰しちゃおうかしらどうかしら?ねえどう思う?」
「させぬわこのっ……!」
大柄なサングラスの男がピクシーボブさんの頭に武器を押し付ける。虎さんが阻止しようと飛び出したけど、なぜかもう一人のトカゲ敵に制される。
「待て待て早まるなマグ姉!虎もだ落ち着け!生殺与奪は全て、ステインの仰る主張に沿うか否か‼」
「ステイン……!?」
「あてられた連中か……!」
ヒーロー殺しの主張に賛同した人々。きっとこのトカゲ敵はその最たる例だ。野放しにしておいていい存在じゃない。
「そしてアアそう!俺はそうおまえ、君だよメガネくん!保須市にてステインの終焉を招いた人物。申し遅れた俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ。」
スピナーと名乗った敵は背中から多数の刃物を一つにまとめた剣のようなものを取り出した。なるほど、刃物でヒーローを斬るヒーロー殺し。形から入るタイプってわけだ。
「何でもいいがなあ貴様ら……!その倒れてる女……ピクシーボブは最近婚期を気にし始めててなあ。女の幸せ掴もうって……いい歳して頑張ってたんだよ。」
虎さんの声に力がこもっていく。血を流して倒れているピクシーボブさんの姿に私も胸が締めつけられた。
「そんな女の顔キズモノにして、男がヘラヘラ語ってんじゃあないよ!」
「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか‼」
「虎‼指示は出した!他の生徒の安否はラグドールに任せよう!私らは二人でここを押さえる‼」
向かい合うプロヒーローと敵。戦闘が始まる。緊迫した雰囲気に緊張が走る。私たちが優先すべきは無事に施設まで走ること。それはわかってる。けど、さっきからずっときょろきょろ辺りを窺っているマンダレイさんが気になる。
「皆行って‼良い!?決して戦闘はしない事!委員長引率!」
「承知致しました!行こう‼」
指示を受けて飯田くんを先頭に口田くん、尾白くん、峰田くんが続く。本当は私も行かなきゃいけない。でも。ちらりと見ると緑谷くんも同じ目をしていた。
「……飯田くん先行ってて。」
「私も。すぐ追いつく。」
「2人とも何を言ってる!?」
「緑谷‼みょうじさん‼」
「ごめん。」
焦る四人には申し訳ないけど、緑谷くんと一緒にくるりと後ろを向いて彼女が気にしているだろうことを確認する。
「マンダレイ!僕、知ってます‼」
「私も‼」
それだけ伝えて2人で駆けだした。飯田くんたちの制止の声が聞こえる。ごめん。それでも行かなきゃ。洸汰くんが危ないかもしれない。もう絶対にヒーローに、この世界に、自分に、失望させたくない。
「正規ルートじゃ間に合わない!」
「このまま森を突っ切ろう。緑谷くん、崖まで跳べそう?」
「跳べなくても跳ぶ。絶対助ける!」
森の中を猛スピードで通過していく。進んでいると空気に違和感。さっきの黒煙とも違う煙がうっすら漂っている。なんだこれ。少し吸ってすぐにおかしいと気づく。これ、毒だ。駄目だ吐き出さなきゃ。咄嗟に瀬呂くんに借りたジャージを脱いで口元へ当てる。
この辺りまでガスが来てるってことは、奥の方はもっと濃いはず。そして今森の中にいるみんなの中にこれを吹き飛ばせる個性の人はいない。だけどもたもたしてたら、それこそ洸汰くんを助けられない。どうする。こうなった以上、私はどちらかを選ぶしかない。
ちらりと同じスピードで進む彼を見る。絶対に助けると揺らがない目。迷いのない足取り。いつものことながら人を助ける躊躇のなさと強い意志に舌を巻く。今は緑谷くんを信じるしかない。
「……緑谷くんごめん。洸汰くんのこと任せる。あとできるだけ森の中の空気に注意して。」
「え、みょうじさん!?」
「多分有毒ガス!止めてくる!この辺の空気はキレイにしとく!」
「……っわかった!気をつけて‼」
「緑谷くんも‼」
一度止まって広範囲に風を起こす。あたりに漂っていた白い煙は渦巻き状に空中へと吸い上げられ空へと消えていく。こんなところで今日の訓練が役に立つとは。この辺の空気はもう大丈夫だ。急いでUターンして肝試しのルートへと向かった。
まずい。相当煙が濃くなってきてる。空気を綺麗にしながら前へと進むけど量が多い。瀬呂くんのジャージなかったらとっくに毒にやられてたな。あとでお礼言わないと。
「ゴホッ。」
それでも少しは吸ってしまう。ちょっとフラフラするな。必死で鼻と口を押さえるけど視界が霞んでくる。でも、ここで倒れるわけにはいかない。私は自分がやれることをやるんだ。
「みょうじ!」
「拳藤さん!」
ようやく人がいた。拳藤さんに鉄哲くんに小大さん。塩崎さんと骨抜くんはぐったりしていて具合が悪そうだ。全員ガスマスクのようなものをつけている。
「ゴホゴホッ、とりあえずこの辺綺麗にするね。」
先ほどと同じやり方でガスを空へと巻き上げる。でも正直イタチごっこだ。ガスの元を叩かないと、この辺もまた充満してくる。
「サンキューな、みょうじ!お前もこれつけろ!八百万がくれた!」
「……!ありがとう。百ちゃん無事ってことだね?」
「俺が見た時はな!とにかく俺と拳藤はこのままガスの原因に向かおうと思ってる。みょうじはどうする?」
「私も行く。この個性使わない手はない。」
「いいの?交戦禁止されてるだろ。」
「あとで謝るよ。みんなが死んじゃう方が嫌。」
「そうこなくちゃなあ!」
ガスマスクをつけて再び瀬呂くんのジャージを着る。小大さんに倒れている2人をお願いして元凶へと向かった。それにしても煙が多い。巻き上げてもキリがない。視界も奪われるし、状況は一向に良くなってない。
お願い、どうか全員無事でいて。焦った気持ちばかりが大きくなっていく。森の中に残されたみんなのことが心配でたまらなかった。
「!?」
「マンダレイさんの声!」
突然耳元で聞こえるテレパス。耳を澄まして必要な情報を聞き逃さないようにする。
『A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する‼』
消太くん……!聞こえてきたのはかなり緊迫した状況なのだとわかる指示。けれど誰かが今起きていることを施設まで戻って連絡してくれたという証拠だ。そしてまたマンダレイさんのところまで消太くんからの伝言を持って行った。誰だかわからないけど、とにかく感謝だ。
「聞いたか拳藤!?ブン殴り許可が出た!」
「喜べない。それだけ今の状況がまずいってことだよ。」
「ほんとだな。それにこのガス……。」
「うん。言及なかったね。」
「あ?どういうことだ。」
拳藤さんとはどうやら同じ答えに辿りついたようだ。鉄哲くんは多分わかってない。拳藤さんが困り顔であまり頭で考えるタイプじゃないんだと教えてくれた。
「マンダレイがガスのこと触れてなかっただろ。つまり広場から目視できるとこには広がってない。変なんだよ。このガスは一定方向にゆっくり流れてる。」
「だね。範囲に限界がある。さっきよりもガス濃くなってるみたいだし、はらってもはらってもすぐ同じ濃さでまた発生してくる。多分発生源を中心に渦を巻いてると思う。台風みたいに。」
「そんでその台風の中心にガスを出しててかつそれを操作できる奴がいる。」
「私も同意見。」
「お、おお!なんかお前らスゲーな!ヤベーな!」
「……みょうじが一緒に来てくれてよかったよ。」
「あ、あはは。」
緊急事態を感じさせない鉄哲くんのピュアな反応に思わず渇いた笑いがでる。物間くんもいるし拳藤さんクラスで苦労してるんだろうなあ。おかげで肩の力ほぐれたけど。
「で!中心に向かうほどガスの濃度上がるなら時間も問題だ。いくらみょうじがいると言ってもキリがない。みょうじばかりに無理もさせられないし。」
「ガスマスクのフィルターにもキャパあるよね。濃度が濃くなるにつれて機能時間も短くなってくる。だから、」
「濃い方に全力で走って‼全力でブン殴る!!!だな‼」
「んん……まァ……そだけど。」
私たちの話を聞いてすぐに煙の濃い方に走っていく鉄哲くん。拳藤さんが何とも言えない顔してる。作戦も何もないけど、鉄哲くんの言う通り最短で倒せれば被害規模は格段に狭まる。全速力で走りながら、鉄哲くんは空に向かって叫んだ。
「塩崎やクラスの皆がこのガスで苦しい目に遭ってんだよ!嫌なんだよ腹立つんだよ!こういうの‼」
胸に響く熱い言葉。ああ、彼は優しい。誰かを守りたくて危険に突っ込んでいける人だ。前を進む鉄哲くんの背中はとても頼もしくて、改めて気合が入った気がした。
「みょうじばっかに頼ってもいられねえ!頑張るぞ!拳藤!!!」
「うん!」
私もできる最大の努力をしよう。風の威力をあげながら、濃くなっていく煙を蹴散らした。