合宿
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2人分のお皿を持ってみんなと合流。洸汰くんはまだ秘密基地に残るということで私だけ戻ってきた。みんなもう後片付けを始めていて慌てて輪の中に加わる。
「あ、もう洗剤ないや。」
「私B組からもらってくるね。」
一緒にお皿を洗っていた尾白くんにその場を任せて近くのB組の班のところへ向かう。
「ごめん、洗剤なくなっちゃったんだけどちょっとだけ分けてもらってもいい?」
「え、あ。」
「はいこれ。好きなだけ持って行っていいよ。」
「ありがとう。」
回原くんに声をかけたけどなぜか固まってしまった。隣の骨抜くんが自分たちの分を渡してくれる。空のボトルに少しだけ洗剤を移し替え、すぐに彼らに返す。
「みょうじさんポニーテールも似合ってるね。なあ、回原。」
「え!?あ、ああ。うん。」
「ふふ、嬉しい。洗剤、ほんとありがとね。」
お礼を言って尾白くんの元へと戻る。炊事するから髪まとめておいたんだよね。思わぬ褒められを受けてちょっと照れる。回原くんともなんかしゃべりたかったなあ。
後片付けも無事に終わって、段々と空が暗くなってくる。この後肝試しかなあと思うとちょっと気が重くなってきた。
「きょーうか。」
「ん、どした。」
「何でも。ちょっと疲れたから、充電。」
訓練と後片付けの疲れを癒すように響香に抱き着く。ちょっと怖いのを紛らわす意味もある。響香はいつも通り受け入れてくれてぎゅっと体が密着する。あ、いい匂い。落ち着く。
「充電できてる?」
「できてるできてる。はー、可愛い。」
「あんたが可愛いわ。」
よしよしと頭を撫でられる。元気出てきたかも。さすが響香。ありがとーと言ってさらにひっつく。
ふと目線をあげるとB組の人が遠巻きに見てた。完全にウザ絡みしてたのばれたな。ヤバイ奴だと思われたかも。それでも響香への愛は止められないんだけど。
「……何あの癒し空間。」
「マイナスイオンでてる。」
「クソ、彼氏とかいんのかな。」
「轟と幼なじみって聞いたけど。」
「まじかよ……。神様残酷すぎねえ?」
なんだろ。こちらを見ながらB組男子がこそこそ言ってる。悪口じゃないと良いなあ。泡瀬くんと目が合ったので響香に抱き着いたまま軽く会釈した。
その後響香がお手洗いに行くというので一人で待っている。なんだか手持ち無沙汰でぼんやり暗くなっていく空を見上げていた。すると後ろから来たのは瀬呂くん。合宿中はみんな一緒だから、2人きりで話すのはデート以来だ。どきりと胸が高鳴った。
「あれ、みょうじ上着どったの。」
「ん、あの。ご飯作るとき暑いかなと思って部屋に置いてきた。」
「じゃ瀬呂くんの着てなさいね。」
颯爽と着ているジャージを脱ぐ瀬呂くん。どうしてなの。予想外の提案にまた緊張してしまう。けれど彼はやっぱり普段通りで。ずるいなあと思いながらも話せて嬉しい自分がいる。
「え、でも。」
「夏でも夜は冷えるから。冷えは女の大敵よ。」
「ふふ、誰目線。瀬呂くんはいいの?」
「俺はへーき。体温高いのよ。」
なんかそういう問題じゃない気がする。けれど彼も引いてくれなくて、半ば強引に私の肩にジャージを掛けた。
「……じゃあお言葉に甘えようかな。」
「どーぞどーぞ。虫除けにもなるしな。」
「ありがとう。確かにちょっと肌寒いかも。」
「だろ?瀬呂くんの言うこと聞いてなさい。」
「はあい。」
ポンポンと頭を撫でて切島くんたちのところへと戻っていく。もしかしてこれ譲ってくれるためにわざわざ来てくれたのだろうか。なんだか申し訳なくなる。あと普通に照れてる。
私は肩にかかっている自分よりかなり大きなジャージを袖に通した。やっぱりぶかぶかだ。でも、瀬呂くんの匂いがする。安心する匂いだ。瀬呂くんに包まれてるみたいな気がしてドキドキが増してきた。
「ひ~、独占欲~!」
「え、あ、見てたの。」
「いやあれだけ目立つところでやってりゃね。」
「虫除けってどっちの意味かしら。」
「そりゃ両方でしょ!」
「今日はB組もおるからな~。」
「牽制ですわね。」
わらわらとA組女子に取り囲まれる。響香もちょうどトイレから戻ってきたところだったらしい。全部見られてたのか。恥ずかしすぎる。赤くなっているであろう顔を両手で覆う。
近くにはB組女子もいて、なるほどという視線を向けられた。いや、納得しないでください。あとでまた質問攻めにあうかもなあ。
「さて!腹もふくれた皿も洗った!お次は……」
「肝を試す時間だー‼」
いよいよ肝試し。ピクシーボブさんの声に三奈ちゃんのテンションも爆上がりだ。一番楽しみにしてたもんね。
「その前に大変心苦しいが補習連中は……これから俺と補習授業だ。」
「ウソだろ!!!」
う、うわあ。消太くんの無情な仕打ち。三奈ちゃんたちが泣きながら連れて行かれる。逃げ出さないよう消太くんの捕縛布でばっちりぐるぐる巻きにされて。補習組の叫びが聞こえる。ごめんよ、私にはどうすることもできない。心苦しくなりながらその背を見送るしかなかった。あ、ジャージ返してないけどいいのかな。
「はい、というわけで脅かす側先行はB組。A組は二人一組で3分おきに出発。ルートの真ん中に名前を書いたお札があるからそれを持って帰ること!」
補習組をスルーして肝試しの説明が始まった。所要時間約15分。結構あるなあ。ずっと暗い中移動するのだって嫌なのに、加えて脅かしもある。泣きたい。柳さんのポルターガイストとか腰ぬかしちゃいそう。
「闇の狂宴……。」
「常闇くんこういうの得意なの?」
「もともと暗闇は好きだ。部屋も黒だしな。」
「部屋も黒。」
「毎回君たち2人が会話噛みあってるの不思議になるよ……。」
尾白くんに苦笑される。そういえば体育祭でもこんなことあったなあ。いつもの賑やかメンバーが補習に行ってしまったためみんな静かに肝試しの話を聞いている。おかげで怖さが増してきた。
「脅かす側は直接接触禁止で、個性を使った脅かしネタを披露してくるよ。」
「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」
「止めてください汚い……。」
プッシーキャッツの一員、虎さんの言葉に顔を顰める響香。そんなに怖いのかあ。ほんとに行きたくなくなってきた。
行く順番を決めるためくじを引く。誰となるかなあ。なるべく心落ち着ける人がいい。お願い神様。
「あ、緑谷くん8組目?一緒だ。」
「みょうじさんも?よかった、僕こういうの苦手で……。」
「えっと。私もかなり、苦手。」
「「……。」」
どうしよう。無言になってしまった。お互い顔が引きつっている。ホラー無理な人同士。組み合わせ的にはかなり良くない。もうどうにもできなくなったら2人で泣きながら帰ろう。
「おい風女ァ!変われ‼」
「え、私緑谷くんとだけど変わる?」
「変わるわきゃねーだろ沸いとんのか頭ァ!」
「理不尽極まりない。」
「俺も変われるんならなまえがいい。」
「だァっとれ舐めプ野郎!」
「しょ、焦凍くん。」
組み合わせの妙。相性最悪コンビに丁寧に断りを入れて緑谷くんのところに戻る。後ろから怒号が飛んできたけど気にしない。強メンタルだねという緑谷くんの言葉には親指立てといた。
「じゃ、5組め……ケロケロキティとウララカキティGO!」
肝試しが始まってもう5組め。梅雨ちゃんとお茶子ちゃんの番だ。3組めだった響香たちの悲鳴も聞こえてきて相当怖い。
「ど、どうしよう緑谷くん。膝が震えてきた。」
「きき奇遇だね僕も。でもあの、大丈夫。いざとなったら守るから……!」
「……男前。」
「えっ!?」
緑谷くん、青くなったり赤くなったり忙しそう。少女漫画みたいな台詞に思わず本音が零れたけど、そんなに照れられるとこっちまで恥ずかしくなってきちゃうなあ。
「何この焦げ臭いの……。」
「黒煙……。」
プッシーキャッツさんたちの言葉にふと空を見上げてみると、山の中から確かに黒い煙が上がってる。B組の誰かの個性だろうか。
「ぐっ!」
「!?」
様子を見に行こうとしたピクシーボブさんの体が傾く。目の前に突然現れた黒い影。突然のことで何が起こったかすぐにはわからなかったけど、悪意に満ちた目が私たちを捉え、ようやくぞわりと背筋が凍った。これは、敵だ。
「何で……!万全を期したハズじゃあ……‼何で……何で敵がいるんだよォ!!!」
峰田くんの悲痛な叫びが夜の闇にこだまする。誰にも知らされていなかったはずのこの場所に、一体どうして敵が現れたというのか。みんな同じ気持ちだった。ドクンドクンと鼓動が脈打つ。遠くに見える黒い煙はまるで異常事態を告げる狼煙のようだった。