合宿
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「なまえちゃん!女子会やるよー!」
女子部屋に戻ると待ち構えていたのは溌溂とした様子の透ちゃん。室内を見回すと当然A組の女の子ばかり。もうすでに女子会っぽい雰囲気ではある。枕投げでもするのだろうか。
「女子会?」
「そ!B組の女の子たちも呼んでガールズトーク!」
ガールズトーク、という単語に胸が躍る。かなり楽しそうだ。B組の子たちとも仲良くなりたかったし、いい機会かもしれない。彼女たちがすぐにこっちの部屋に来るというので急いで髪を乾かす。
ちなみに今回三奈ちゃんは不参加。人一倍こういうイベントが好きそうな彼女は今、残念なことに補習地獄だ。泣きながら部屋を出て行ったと響香が教えてくれた。
「お邪魔しまーす!」
透ちゃんの言葉通りすぐにやってきたB組の女の子7人。私たちと合わせると、三奈ちゃんのけて総勢13人の女の子が1つの部屋に集まっていることになる。すごく華やか。
何とか髪乾かすの間に合ってよかった。急いだからちょっと汗かいちゃったけど。昨日教えてもらった梅雨ちゃんのヘアオイルの力もあり、つやっつやに仕上がっている。キューティクルの権化みたいだ。強化訓練でボロボロになってしまうのが悲しいところ。
全員の顔が見えるように、布団の上で何となく円になって座る。私は響香とお茶子ちゃんの間。みんな寝間着姿でなんだかテンションが上がる。憧れのパジャマパーティーだ。
「お誘いありがとな。こんな風に集まるの初めてだし、自己紹介でもしとく?」
拳藤さんの一言で自己紹介が始まった。みんな自分の名前と個性に一言添えてしゃべっていく。B組も個性豊かだなあ。仲良さそうなの伝わってくる。
初交流で緊張気味だったけど、話していくうちに自然とそれもほぐれてきた。A組B組関係なく、それぞれ興味のある話が展開され盛り上がっていく。そうなるとなぜか向かうのは恋愛の話で。今はお互いに彼氏がいるかの確認中。
「じゃあとりあえず今はA組B組両方とも彼氏彼女いる人はいないと。」
「えーつまんなあい!」
取蔭さんのまとめに不服そうな小森さん。ヒーロー科ってみんな魅力的なのに意外と誰も恋人いないんだなあ。それだけ忙しいってことなのかもしれない。
「いやでも、ねえ?」
「なまえちゃんはちょっと、なあ?」
透ちゃんとお茶子ちゃんの意味深な視線。というかA組女子全員こっち見てる。やめてその目。
「え、なになに。みょうじさんいい人いんの?」
「いやその、ご期待に添える話かどうかは。」
「瀬呂じゃんね。」
「響香さん!?」
取蔭さんのワクワク顔にどうしたものかと口ごもっていたらまさかの裏切り。部屋中沸いちゃった。なんでみんなそんなに恋バナ好きなの。
「瀬呂ってあのテープの人?」
「そうですわ。」
「もうデートもしたのにね!」
「まだ付き合ってないらしいのよ。」
「や、ほんと勘弁して……。」
透ちゃんはともかく梅雨ちゃんや百ちゃんまで。完全に四面楚歌だ。B組の女の子は興味津々で根掘り葉掘り聞いて来る。
「轟とは幼馴染なんだろ?」
「拳藤さん、どこでそれを。」
「物間から聞いた。言っちゃまずかった?」
「そんなことはない、けど。」
彼は一体何なんだ。まあ体育祭後からは隠してもないし知られてても構わないんだけど。出てくる名前が瀬呂くんだけじゃなくなってきてますます顔が熱くなる。
「確かに轟くんともええ感じよなあ。今日も飯盒のとこで見つめあっとったし。」
「言い方に語弊が……。焦凍くんはなんかこう、最近距離が近くて。私も深く考えることやめたからそのままになっちゃってるんだけど。」
「あのイケメンと距離が近いって。」
「羨ましいノコ。」
「美男美女でお似合いではあるけど。」
さらりと褒めてくれる柳さん。そろそろ別の話題に行ってもいいのに全然解放してもらえない。むしろヒートアップしていく。女子高生の恋愛への興味ってこうも尽きないものなのか。
「なまえちゃん、爆豪ちゃんとも仲がいいわよね。」
「確かに。女子の中で一番距離近い。」
「職場体験一緒だったもんね!」
梅雨ちゃんの一言にB組サイドがざわざわしだしてしまった。あの爆豪と?って聞こえてくる。やっぱり隣のクラスにも危険視されてるよ爆豪くん。行動を省みてほしい。
「爆豪くんはその、普段の粗野なイメージが先行してるだけで案外優しいよ。2人で話したら声荒げたりしないし。」
「人として当然の会話をして優しいと言われる爆豪くん。」
「さすがですわね。」
「迷える子羊……。彼には導きが必要なのです。」
塩崎さんが涙を流し始めた。神の下で許されるだろうか、爆豪くんの横暴な態度。すっかり改心して穏やかな微笑みを浮かべた姿を想像してしまって吹き出しそうになる。壊滅的に笑顔が似合わないなあ。
「凶暴な犬を手なずけてるって感じだよね。」
「あ、前チワワって言って怒られたことある。」
「強者すぎない?」
「dogというよりlionデスね!」
取蔭さんの顔が引きつってる。やっぱりみんな爆豪くん怖いんだなあ。慣れてしまえば優しいところもわかるんだけど。まあ普段の彼を思い浮かべると仕方ないか。
「あ、ねえ。そういや鱗とはどういう関係?」
「それ気になってた!」
柳さんと小森さんに詰め寄られたけど、いまいち思い当たる節がない。首をかしげていると、初日の朝バスに乗る前に手を振り合っていたことだと教えてくれた。ああ、思い出した。鱗くんがすごい質問攻めにあってたやつだ。
「鱗も別に、としか言わないしさあ。」
「あれは前に食堂で定食を譲ってもらって。」
「あ!あの時の?」
「そうそう。」
現場に一緒にいた透ちゃんが納得の声をあげる。顔見知りになっただけで他には何もないことを丁寧に説明すると、B組の子たちは渋々納得してくれた。鱗くん、多分誤解解けたと思います。ごめんね。
「で、結局本命は誰なの?」
柳さんから飛び出たのは爆弾的問いかけ。気づけばB組だけでなくうちのクラスの女の子までみんな私を見つめている。いやその、これ答えなきゃいけないやつ?
「う、うーん。ここで言うのちょっと恥ずかしい、かも。」
「お願いお願い!」
「最初の一文字だけ!」
「それほぼ言ってるよね。」
透ちゃんと取蔭さんに詰め寄られる。このコンビなかなか恐ろしいかも。三奈ちゃんいたら大変なことになってたなあ。
それにしてもどうしよう。これ、話すまで返してくれないやつだ。みんなの期待に満ちた視線が痛い。どうしたものかと困り果てていると、部屋の外から突然低い声が聞こえた。
「消灯時間だ。はよ寝ろ。」
消太くん!救いのヒーローすぎる。感謝せずにはいられない。決して扉を開けないところも紳士さが感じられていい。
消太くんの圧に負けてその場はお開きとなり、私は何とか危機を脱した。最後に梅雨ちゃんが「そういえば相澤先生と障子ちゃんもいたわね」と呟いたことによりまた議論が盛り上がりそうになったけど、消太くんの目力が勝った。部屋を出ていくときに放たれた、この合宿中に吐いてもらうからねという取蔭さんの言葉は今は考えないようにしよう。疑心暗鬼になる。
その後電気を消して布団に入るとみんなすぐに寝てしまった。訓練と寝不足で疲労困憊だった私も、今日は早めに意識が落ちて行った。