合宿
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地獄絵図とはまさにこのこと。砂糖くんと百ちゃんはひたすら何か食べながらエンドレス個性使用、瀬呂くんはテープを出し続け峰田くんは自身の頭をもぎまくる。他のみんなもそれぞれ過酷な状況に置かれている。文字通り限界突破だ。
私はというと、近くの池で水面を割ってます。周りに配慮しながら最大威力で池を真っ二つにする。人が通れるくらいに池の底が見えたら両側から水が漏れて行かないようキープ。通りかかった三奈ちゃんが「モーセだ」と感激していた。
「相澤先生鼻血出ました。」
「ん、ほらティッシュ箱で持っとけ。3分休んだら鼻抑えて再開しろよ。」
「し、死んじゃう。」
次は口から血を吐きそうです。消太くんはB組に説明している途中だったらしく、思いっきり鼻から血が出てるのをクラス全員に見られてしまった。華の女子高生なのに。みんな引いてる。
A組B組合わせて41人。それだけの人数、先生たちだけでは捌ききれない。そのためサーチやテレパスの個性を持つプッシーキャッツさんに協力を頼んだのだそうだ。一気に100人の行動を把握できるって、すごい。
「ほら3分立ったぞ。戻れ。」
「鬼だあ。」
可哀想という視線でB組に見送られてしまった。半泣きになりながら再び池に。もう一度水面を割っていく。そういえばベストジーニストさんが岩を砕きながら瓦礫を処理できるようになれって言ってたなあ。急には難しいと思うけど、水だとちょっと難易度下がるかもしれない。
好奇心が勝ってやってみることにする。水面を割り続けながら両側の水に意識を持っていき、空気を纏わせる。このまま空気の中に水を閉じ込めて、上空へと持っていきたい。けどなかなかうまくいかない。水を空中に上げようとするとそちらにばかり意識がいって水面を割る方がおろそかになる。同時にはかなり手こずりそうだ。個性上限増やしていったら解決するかなあ。
そこから何度やっても失敗ばかり。個性の使いすぎで段々頭もぼんやりしてきた。色んなこと考えながら別々の動作処理していくのかなりきつい。脳が悲鳴を上げ始めたのでとりあえず水面割ることだけに集中しよう。口の中で血の味を感じながら、失神寸前まで風を送り続けた。
朝からぶっ通しで訓練してもう夕方だ。全員満身創痍で夕食場所へと向かう。
「さァ昨日言ったね。世話焼くのは今日だけって‼」
「己で食う飯くらい己でつくれ‼カレー‼」
「イエッサ……。」
明らかに覇気のない私たちの返事。ここから料理するのか……。腕、動くかな。
なぜか災害訓練を連想してやる気がみなぎってしまった飯田くんの掛け声で、世界一旨いカレーを作ることになった。元気な声の勢いに押されてみんなもテンションが段々と上がり、それぞれの作業に取り掛かる。
「火どうしよっか。」
「百ちゃん個性でチャッカマン出してる……。」
「タフやなあ。」
私は三奈ちゃんとお茶子ちゃんと一緒に飯盒班。爆豪くんが爆破で火をつけているのを横目に解決策を考える。
「あ、轟ー!こっちも火ィちょーだい。」
ちょうどみんなの飯盒を回っていた焦凍くんが目に入り三奈ちゃんが呼ぶ。百ちゃんには人の手を煩わせちゃだめだと叱られてしまったけど、焦凍くんは気にしてない様子でいいよと火をつけてくれる。左を使うの、前より抵抗なくなっただろうか。
「ありがとう。」
「いや。なまえ、鼻血はもういいのか。」
「うん、止まったよ。」
「そうか。よかった。倒れるんじゃねえかと心配してた。」
「あ、ありがとう。」
なぜか頬に手を添えられホッとした表情で微笑まれる。待って待って。三奈ちゃんとお茶子ちゃんすごいニヤニヤしてるから。まあ、焦凍くんが楽しそうなら何よりなんだけどね。みんなに溶け込んで笑ってる姿が見られるのは、単純に嬉しい。
「いただきまーす!」
手際よく作業が進み、思ったより早くカレーが完成した。今日は百ちゃんと響香の隣。めちゃくちゃお腹空いたあ。
昨日と同様みんなの食べる勢いがすごい。私も負けじとお肉を頬張る。外で食べるカレーおいしすぎる。
「店とかで出たら微妙かもしれねーけどこの状況も相まってうめ――‼」
「言うな言うなヤボだな!」
確かにヤボだけど切島くんに賛同してしまう。海の家で食べるラーメンとかも、具がないはずなのになぜか異様においしいよね。ロケーションがそう感じさせるのかなあ。
「ヤオモモがっつくねー!」
「ええ。」
確かにお上品なイメージの百ちゃんが今日はガツガツ食べている。個性強化しんどかったもんね。お腹が空いてるのも無理はない。
「私の個性は資質を様々な原子に変換して想像するので、沢山蓄えるほど沢山出せるのです。」
「うんこみてえ。」
「瀬呂くん。」
「ちょっと!うんこ食べてるときにカレーの話しないでよ!」
「逆だ逆。」
「ちょっとほんとにやめて。」
咎めたけれど時すでに遅し。瀬呂くんは響香にぶん殴られた。上鳴くんと切島くんの悪ノリコンビもまとめてドックンされる。百ちゃん落ち込んじゃったじゃん。なんてこと言うの。その後三人は土下座で謝っていた。まったくもう。
傷心百ちゃんを慰めつつ食事を食べ終え、後片付けをしてお風呂に入る。さっぱりしてタオルで髪をふきながら食堂前の自販機にやってきた。なに飲もうかなあ。
「みょうじ。」
「障子くん。」
後ろから現れた大きな影。彼もお風呂上がりらしく石鹸の香りがふわりと漂う。
「髪が濡れている。」
「あは、脱衣所混んでたから部屋帰って乾かそうかなと思って。」
「風邪ひくぞ。」
「ジュース買ったらすぐ乾かすよ。何かおすすめある?」
なかなか飲みたいものが決まらなかったため障子くんに委ねてみることにした。彼が少し考えて指さしたのは天然水。桃のやつ。お風呂上がりにさっぱりしていいかも。
「ありがとう。これにするね。」
「いいのか。」
「うん。こういうのが飲みたかった。」
「だったらよかったが。」
自販機のボタンを押し、出てきたペットボトルを取り出す。ひんやりしていて火照った体にはちょうどいい。
「……髪、ちゃんと乾かせ。」
ぽたりと落ちた雫がTシャツに染みを作る。すると障子くんの大きな手が伸びてきて、私の肩にかかったタオルで優しく拭いてくれた。あまりに丁寧に扱われ、なんだか気恥ずかしくなる。
「あ、ありがとう。じゃあ、あの。ちゃんと部屋戻ります。」
お礼を言って障子くんと別れる。顔が熱いのはお風呂上がりだからってことにしよう。
それにしても彼は本当に紳士だなあ。いつも心配してくれてる気がする。いつぞやのスーパーでの出来事を思い出しながら、風邪をひかないように女子部屋へと戻った。