合宿
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いよいよ林間合宿当日。緑谷くんが死柄木と遭遇したことを受けて、行き先が急遽変更された。敵の動きを警戒し、念には念をということで私たちにも変更場所は伝えられてない。目的地を知らないままバスに乗ることになり、ミステリーツアー状態だ。
「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれぇ!?」
怖い。朝から絶好調の物間くんに鮮やかに手刀を落として、拳藤さんが引き取ってくれた。ただ一言ごめんな、と残して。かっこよすぎ。
「物間怖。」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組。」
拳藤さん以外は初めて話すB組女子。華やかだ。こちらこそと言って頭を下げる。
ふと鱗くんと目が合った。小さく手を振ると、向こうも控えめに返してくれる。嬉しい。バスに乗ろうとしていると「今の何!?」と質問攻めされている彼の姿が目に入り、心の中で謝る。ごめん。透ちゃんと三奈ちゃんにばれなくてよかった。
バスの座席は結構埋まってしまっていた。どこに座ろうか迷っていると、突然腕を引かれる。
「なまえ、ここ空いてる。」
「焦凍くん。」
じっと見つめてくる焦凍くん。断る理由もないので座らせてもらう。酔うかもしれないからとわざわざ窓側を空けてくれた。彼もなかなか過保護だ。
バスは一時間後に一旦止まるらしい。トイレ休憩かな。みんなはしゃぎにはしゃいでいて、バスはお祭り状態だった。
「焦凍くん、グミ食べる?」
「お、もらっていいのか。」
「いいよ、青リンゴ味。」
はい、と言って差し出すとなぜか開けられる口。いや、受け取ってほしいんだけど。私が戸惑いの顔を見せても、彼は一切手を出さず口を開けたまま動かない。
「……どうぞ。」
「ん、うめえ。」
仕方がないので口に放り込んであげた。いわゆるあーん状態だ。相変わらず距離がわからないなあ。本人は満足そうだけど。
「何か甘えたさんになっちゃったね。」
「嫌か?」
「ううん、前よりずっといい。」
「そうか、ならいい。」
USJに向かうバスで隣になったときは、会話どころじゃなかったもんね。あの時のことを考えると、今こうして仲良くいられるのは本当に奇跡だ。焦凍くんは私の返答を聞いて安心したような顔で笑ったあと、こちらに頭を預けてきた。
「ん、寝る?私の肩だと身長差的に首痛くなると思うけど。」
「これがいい。」
「そっかあ。」
もう深く考えるのはやめた。絶対寝づらいと思うんだけどなあ。肩に彼のサラサラとした髪がかかる。睫毛長い。思わず写真に収めたくなる。
しばらくするとすうすうと寝息が聞こえてきた。寝つきいいな。あまりに穏やかな寝顔だったので、しばらく黙って見つめてみる。端正な顔立ちだなあ。なんだか私もつられて眠くなってきた。焦凍くんとお互い寄り添う体勢になりながら、耐えられなくなって目を閉じる。バスの揺れに身を任せ、気づけばいつのまにか寝てしまった。
一時間後、バスが止まった。うーんよく寝た。焦凍くんの寝癖を直しながら外に出る。あれ、ここパーキングエリアじゃない。っていうか目の前山しかない。なんでだろう。
「よーうイレイザー!」
「ご無沙汰してます。」
私たちが戸惑っていると突然現れた人影。消太くんのお知り合いかな。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルドワイルドプッシーキャッツ‼」」
わあ生で見たの初めて。声の主は可愛らしい猫のコスチュームを身にまとったお姉さん2人。人気ヒーローチーム、プッシーキャッツのメンバーだ。その横にはキャップをかぶった小さな男の子。あれ、どなたかのお子さんかな。
「今回お世話になるプッシーキャッツの皆さんだ。」
「連携事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年にもなる……」
「心は18‼」
分かりやすい説明ありがとう緑谷くん。さすがヒーローオタクだ。年齢のこと言って猫パンチされてるけど。ヒーローと言えども心は乙女なんだよ。発言には気をつけなくちゃ。
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね。」
「遠っ‼」
え、あの山ってどの山。山が多すぎる。というかトイレもないし施設も遥か向こうにあるのに何でここで降ろされたんだろう。もしかしてこれって。そんなまさか。嫌な予感がする。
「じゃあ何でこんな半端なとこに……。」
「いやいや……。」
「バス……戻ろうか……。な?早く……。」
恐らくみんな同じ予想をしている。考え得る最悪のやつ。いや、嘘だよね。だってこれ、めっちゃ遠いよ。
「今はAM9:30。早ければぁ……12時前後かしらん。」
「ダメだ……おい……。」
「戻ろう!」
「バスに戻れ‼早く‼」
切島くんの声を合図に一斉にバスまで走る。戻ったって運転再開してもらえるとは思えないけど。それでも現実から逃げ出したい一心だった。
「12時半までにたどり着けなかったキティはお昼抜きね。」
「わるいね諸君。合宿はもう、始まってる。」
バスに駆け込もうと慌てる私たちに襲い掛かる土壁。なんだこれ。ピクシーボブさんの個性?一気に濁流にのみ込まれてしまう。消太くんの言葉通り。こんなに突然、合宿は始まってしまった。
「私有地につき個性の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この、魔獣の森を抜けて‼」
嘘だと言ってよ。A組まとめて崖上から一気に森に落とされてしまった。怪我はしてないけど全身土だらけだ。
「魔獣の森……!?」
「何だそのドラクエめいた名称は……。」
「雄英こういうの多すぎだろ……。」
「文句言ってもしゃあねえよ行くっきゃねえ。」
「響香立てる?」
「ん、だいじょぶ。」
とにかくみんなで体を起こす。なんか口の中じゃりじゃりするなあ。辺りは鬱蒼とした森が広がっていて、確かに何か潜んでそうな雰囲気。魔獣の森っていうからには、出るんだろうか。魔獣。
「ね、ちょっとアレ!」
「え?」
三奈ちゃんの差した先。峰田くんのいる方向。
「マジュウだ―――!!?」
四足歩行の巨大な何かがこちらを見ていた。
「巨人みたい。」
「心臓を捧げよ!言うてる場合か!」
思わず零れた感想をちゃんと拾ってくれる上鳴くん。いいね!ってそんな場合じゃない。禍々しい姿の魔獣。いつ暴れ出してもおかしくない。
「静まりなさい。獣よ、下がるのです。」
「口田!」
口田くんが個性を使って動きを止めようとするけど通じない。生き物じゃないってこと?もしかしてこれもピクシーボブさんの個性なんだろうか。だとしたらまずい。
魔獣が口田くんへと襲い掛かる。やっぱりこれ土で作られたものなんだ。急いで飛び出して直線状の風を放つ。爆豪くん、緑谷くん、焦凍くん、飯田くんも同時に動いていたみたいで、5人分の攻撃を食らった魔獣はボロボロと崩れて元の土塊に戻った。
「ありがとう。」
「口田くんこそ。守ろうとしてくれてありがとね。」
危ないとわかっていながら前線に立ってくれたのだ。お礼を言うのはむしろこちらの方。普段あまり口数の多くない彼は照れたようにえへへと笑った。和む。
「響香、障子くん、この辺りに魔獣何体いるかわかりそう?」
「ああそうだな。とりあえず3体。」
「遠くの方でも足音聞こえるから軽く10体くらい入るんじゃないかな。」
「結構いんな……。」
上鳴くんがうへえとため息を吐く。さっきの大きさのが10体以上。楽な数じゃない。それでもとにかく進まないと。お昼ご飯食べたいし。
「あれ、爆豪くんは?」
「全部倒しゃ問題ねえつって先行ったよ。」
「自由。」
切島くんもやれやれと肩を竦める。周りを見渡すと焦凍くんもいつの間にかいない。我が道を行くトップ2。とりあえず2人が倒し損ねた魔獣に警戒しつつ行くしかないかな。
「私とりあえず前線出るから魔獣来てたら教えてね。」
「おっけ、気をつけて!」
響香と障子くんに索敵をお願いし駆けだす。緑谷くんと飯田くんも一緒に来てくれ、先陣切って攻撃してくれる戦力が増えた。2人とも結構フルスロットル。後ろとはなれちゃうけど私もギア上げてこう。爆豪くんスタイルになって、空気を両手打ちする。
「左から魔獣!そのあと正面!」
後ろで響香の叫ぶ声がする。すぐさま反応してそちらに風を放った。前方の魔獣は緑谷くんと飯田くんが倒してくれる。いい感じだ。
「みょうじさんありがとう!」
「緑谷くんと飯田くんも。この調子で進もう。」
連携を取りつつ確実に魔獣を倒していく。後ろのみんなもなんとか突破できてるみたいだ。それにしても数が減ってない気がする。爆豪くんと焦凍くんが倒してくれた分もあるはずなのに、一向に森が静かになる気配がない。
もしかして新しいやつ増え続けてる?それなら後方で聞こえる地響きも納得できる。恐らくこの森での目的は全員が魔獣に対応できるくらいの力を身に着けること。やっぱりこれも訓練の一環なわけだ。
「結構距離あるね……。」
「一筋縄ではいかんということだな。」
「こんなうじゃうじゃ魔獣がいるのに、普通に遠いという……。」
3人で愚痴りながらも最速で進む。すぐ近くで爆破の音がした。爆豪くんだ。きっと焦凍くんもそばにいるだろう。ようやく先頭に追いついた。
それでもまだ半分も来てないはず。先はあまりに長い。完全にお昼無理だなあと考えながら、何回目かわからない攻撃を放った。