合宿
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏休み。太陽がじりじりと照りつける暑い日。私は泣く泣くお茶子ちゃんたちの誘いを断った。
ごめんなさい。プールには行けません。今、汗だくで走り回っています。
「っは、き、きつい~!」
「ほら逃げろ。捕まるぞ。」
鬼のような消太くんの声が聞こえる。私は前と同じグラウンドでかれこれ30分鬼ごっこをしていた。捕まりそうなのは十分わかってるし全力で逃げてる。ただ一つ明らかに心操くんの動きがこの前と違う。どうなってるの。それにしても暑い、死んじゃう。
「……っくそ!」
「ひぃ!」
背中に殺気を感じてのけぞる。あと数センチ。体力の残ってる序盤だったら完全に手が届いてた。危ない。
「心操もあれから毎日トレーニングしてるからな。成長期だ。」
「そ、そんな……!」
成長期の男の子すごすぎ。この前より格段にスピードも上がって、体の使い方もうまくなってる。ちょっとしか経ってないはずなのに。私も負けてられない。でも。それはそれとして。
「っプール、行きたかっ、たあ!」
「それは知らん。」
鬼だ。昨日クラスの女子で水浴びしようという夢のようなお誘いがあった。けれど訓練と被ってしまっていて。忙しいのに予定を空けてくれた消太くんにも申し訳ないし、心操くんにも迷惑かかるから断った。ヒーロー科サボって遊んでると思われるのも嫌だったし。いざ来てみたら心操くんの成長著すぎて、追い抜かれるかもしれない恐怖でサボるとかいう選択肢吹き飛んだけど。それでもみんなと泳ぎたかったよ……!
崖の上から着地して再び駆けだす。ちらりと後ろを見ると同じように崖を跳ぼうとしている心操くん。あれ、でもなんか踏み込みが。嫌な予感がしてUターンする。
疲れが出たのか、心操くんの足が踏ん張れずにバランスを崩した。やばい、落ちる。
「っぶな……!」
ふわりと空気の塊を下に滑り込ませ、地面落下を防いだ。間に合ってよかった。消太くんが走ってくる。
「心操、大丈夫か。」
「はい。……ありがと。」
「怪我ない?」
「ああ。」
「よかった。」
「ちょっと動かせすぎたな。休憩だ。」
心操くんはまだやりたいという顔をしていたけど、水分補給は大切だ。真夏に飲まず食わずで走り回っていたらすぐ熱中症になってしまう。私も喉カラカラだし。
とりあえず荷物を置いているところまで一緒に歩く。この前と違ってお互い汗だく。タオル何枚か持って来ててよかった。
「助かった。やっぱ個性の使い方上手いな。」
「うーんまだまだなんだけどね。最近は大丈夫だけど、使いすぎると体調悪くなっちゃうし。」
「……ああ、爆豪戦とか。」
「そうそう。眩暈したり鼻血出たりするの。もっとキャパ増やさないと。」
体育祭よりも要領増えたけど、それでもまだまだだ。USJの時みたいな敵が来たらどうなってしまうかわからない。
スポドリに口をつけながらやれやれとその場に座る。あー、おいしい。生き返る。
「A組女子、楽しそうだったぞ。男子も合流してお前以外みんないた。」
「鬼じゃん。言わなくていいよそれ。」
「敬語。」
「すみません。」
嫌がらせのようにプールの様子を教えてくる消太くん。そっちが先に絡んできたのに言葉遣いには目敏いなあ。
「え、あの。なんか、仲いいですね。イレイザーがそんな感じなの珍しいというか。もしかしてA組みんなそう……?」
「ほら見ろ、心操が戸惑ってるだろ。」
「わ、私のせい……?」
「敬語。」
「スミマセン。……あの、違うんだよ。私相澤先生と元から知り合いで、小さい頃遊んでもらったりしたから。」
慌てて訂正を入れる。心操くんは合点がいった顔をしてなるほど、と呟いた。消太くんは完全におもしろがってる。
「10分休憩したら再開する。」
「はい。」
「承知しました相澤先生?」
「……よろしい。」
ポン、と頭を撫でた後グラウンドから出て行った消太くん。気が抜けてるのはお互い様なんだよなあ。いつもより距離が近い。
「心操くん成長はやすぎだよ。竹の子みたい。」
「たけのこ……?」
2人きりになったグラウンドで汗をふきながら雑談する。向こうは若干困惑してるけど。意味が分からないって顔しないで。比喩だから。
「みょうじも、体育祭で見た時より強くなってるように見えるけど。」
「そうだといいなあ。職場体験で揉んでもらったから。」
「どこの事務所行ってたの。」
「ベストジーニストさんのとこ。」
「……マジか。」
心操くんが一瞬ぴしりと固まった。ビッグネームだもんね。改めてすごい現場に行けたんだなあと実感する。
「爆豪くんも一緒でね。あ、写真見る?」
スマホを取り出してピッチリ髪型になっている爆豪くんの写真を見せる。
「ブフ、なんだこれ。え、ほんとに爆豪?」
ポーカーフェイス心操くんもさすがにプルプルしてる。百発百中。この写真で天下取れるよ爆豪くん。
「ふふ、ふ……!これ、反則でしょ。」
「すごいうけてる。」
見せてよかった。別の角度もあるんだよ、と次々スライドしていく。
「……これ、みょうじもいつもと違う髪型してるんだな。似合ってる。」
ベストジーニストさんとピースしてる写真を見つめて、心操くんが目を細めた。レアな表情。まさか彼にそんなことを言われると思ってなかったので、驚いてスマホを落としそうになる。
「心操くん、モテるよね?」
「話飛び過ぎ。全然モテないけど。」
「いや、飛んでない飛んでない。今学期何回告白された?」
「……3回?」
「モテてるよねそれ。」
いやそういうわけでは、とバツが悪そうにする心操くん。顔よし、性格よし、そして夢に向かって努力する姿。この三拍子そろっててモテないわけがなかった。峰田くんが聞いたら血の涙を流しそうだ。
「みょうじが呼び出されてるとこも、見たことあるけど。」
「え。」
「この前空き教室偶然通りかかって。」
「あー。」
なぜか経営科の人に告白されたやつ。話したことなかったから断ったけど。
「盗み聞きしちゃったみたいになった手前悪いんだけど、ああいう人気のないところ1人で行くの危ないと思う。何かされてからじゃ遅いし。」
「そう、だよね。」
いつだったか障子くんにも注意されたなあ。男に家の場所教えるなって。学校の中だからって油断しちゃってたかも。気を付けよう。
「ありがとう。今度は誰かについて来てもらうことにする。」
「今度、ってことはやっぱみょうじモテるんだ。」
目の前の彼がにやりと笑う。しまったはめられた。これ否定しても無駄なやつ。
「……いじわる。」
「仕返し。」
悪戯っ子のように首をかしげる心操くん。うーんイケメンは何やっても様になる。ずるいなあ。
グラウンドのドアが再び開いて、消太くんが戻ってきた。訓練再開だ。その後も2人でひーひー言いながら鬼ごっこに明け暮れた。