合宿
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1学期最終日、なぜか消太くんに呼び出されている。
「なまえ、教室で待っとくよ~。」
「ありがと、すぐ済むと思うから。」
三奈ちゃんに手を振って職員室へと向かう。今日はこれから私の家に集まり、ショッピングモールで買ったものを持ち寄ってデートのコーディネート大会をするのだ。
「失礼します。」
「あら、みょうじさん。イレイザーにご用かしら。」
ミッドナイト先生に出迎えられる。相変わらず美しい。この美貌にこの体だもんなあ。そりゃちょっとポッてなるよなあ。仕方ないかあと諦めつつ挨拶をして消太くんの机に向かう。
「ああ、来たか。」
「何のご用でしょうか。」
「これだ。」
さっと差し出された1枚の紙。なんだろう。黙って受け取ると日程が書かれている。
「夏休みの訓練の日取りだ。無理な時は言え。」
「なるほど。」
合宿があったりして消太くんも忙しいだろうに、ちょこちょこ訓練を入れてくれている。これは嬉しい。
「ないと思うがサボるなよ。」
「ないですね。」
「ならいい。」
「今日はこれで終わりですか?」
「なんだ、やるかこれから。」
「いえ、滅相もございません。」
冗談だとわかっているのでおどけて返す。用事がなかったら自主練して帰ったかもしれないけど。消太くんも1学期お疲れさんと言ってちょっと笑ってくれた。
消太くんにさよならを言って、教室へと急ぐ。戻ってみると本当に女子全員が揃っていて、思わず愛されてるなあと口が緩んだ。
「終わったー?」
「うん、待っててくれてありがとう。」
「んじゃさっそく!」
go to 我が家。友達が家に来るの初めてだな。ちょっと緊張する。
「お邪魔しまーす!」
「なまえちゃんち実際来るの初めてやなあ。」
「荷物その辺に置いといていいからね。」
「可愛いお部屋ね。」
「めっちゃ片付いてる!」
「これがマンションというものなのですね。」
白を基調としたシンプルな部屋に、華やかな雰囲気が広がる。やっぱりこれだけ女の子が揃うと賑やかだ。みんな興味津々で色々見て回ってる。特に百ちゃん。変なもの置いてなかったかな。
とりあえず家にあるコップを全部出してお茶を入れる。用意してる間にみんなこの前の戦利品や自宅から持ってきたものを次々取り出していた。私も自分の服をベッドの上にあらかじめ出している。
「デートだからスカート、これは譲れない。」
「異議なし!」
三奈ちゃんが裁判長になって議論が始まる。一人暮らし用の小さな机を7人で囲んで、さながら重役会議だ。みんなもはやプレゼンのようになっていて熱がこもりすぎてる。私はあまり口を挿めずに見てる。
「夏だしオフショルは?」
「でも初デートやからなあ。」
「あんま露出激しいのも違う気がする。」
「清楚な感じの方がなまえちゃんに合ってるんじゃないかしら。」
じゃあトップスはブラウスで、とルーズリーフに書き込んでいく百ちゃん。書記かな。オフショルも可愛いし、モノによってはブラウスっぽいのもあるけど、確かに初デートにはハードルが高い。私服で肌出すの恥ずかしいし、気合入りすぎてると思われて引かれるのも嫌だ。
「スカートの許容範囲はどこにしよっか。」
「膝上はちょっと違うかなあ。」
「えー!夏だよ!冒険しようよ!」
「だから清楚系だってば。」
「やはり膝丈かそれより下くらいがいいんじゃないでしょうか。」
「うん、それくらいがいいな。あんまり足が出るのもアレだし。」
これでボトムはロング丈のスカートになった。それにしてもさっきから透ちゃんが露出させようとしてきてるなあ。彼女の普段のコスチュームを見るとちょっとわかるけど。
あーだこーだと話して一通り方向性がまとまった後、ついにファッションショーが始まった。
「これウチが選んだやつ。着てみて。」
「う、うん。」
「次これと合わせて!」
「はーい。」
「んーなんかちゃうかなあ。」
「次行ってみましょう。」
どんどん入れ替えられる服。みんな全部の組み合わせを試すつもりだろうか。今日中に終わらないかもしれない。私はされるがままに鏡の前で服を着たり脱いだりしている。パリコレモデルの気分。
「あ、これ可愛い。」
「私が選んだやつね。」
「梅雨ちゃんセンスいいー!」
「気に入ったんならそれ基準に考えよっか。」
私がふと口にした気持ちをみんな尊重してくれる。嬉しい。これ着て外歩けるのかと思うとテンション上がっちゃうなあ。トップスが決まったのでそこからは結構サクサク進んだ。
「靴、この中ならどれがいい?」
「んー、これ。」
「素敵です。」
「私もそれなまえちゃんに似合うと思うー!」
靴と鞄も決めて、コーディネートはなんとか決定。かなり白熱した。すぐに次メイクね!といって三奈ちゃんが化粧品の準備を始める。休憩なんてなかった。
人にメイクされるのって緊張するなあ。でもちゃんと見とかないと。当日は自分でやるんだから。
「肌きれー。」
「ファンデいらないね。」
手際よく色を載せていく三奈ちゃんに色々質問しながらメイクを教えてもらう。知らないことばかりでかなり勉強になる。他のみんなんも興味津々で聞いていた。三奈ちゃんが私の顔に合わせてあまり濃くならないように調節してくれ、自分で見てもかなりの仕上がりになった。
「か、かわいい……!」
「どーよ力作!」
三奈ちゃんの渾身のメイクに、みんなから感嘆の声が漏れる。その後可愛い可愛いと連呼され、耐えきれず顔を逸らした。そんなに褒められるとさすがに恥ずかしい。でも鏡に映る自分は自信もっていいかもと思えるくらい綺麗になっている。この後落としてしまわなきゃいけないのが悔やまれた。
「じゃあ髪は任せてちょうだい。」
「梅雨ちゃん。」
三奈ちゃんとバトンタッチして今度は梅雨ちゃんが鏡の前に立つ。持参してくれたであろう櫛とゴムを手に取り、私の髪を梳いてくれる。器用だなあ。確かに梅雨ちゃんの髪はいつも綺麗だ。朝すぐにセットできるようにと、可愛く見えるけど簡単なものを教えてくれた。
「どう……かな。」
完全に上から下までフルコースでセットされた格好で立つ。みんなから促されて1周回ってみた。ひらりとスカートが揺れる。
「うん、めちゃくちゃに可愛い。」
「最の高。」
「瀬呂くんより先に見れちゃうの優越感ある~。」
「てかウチがデートしたいわ。」
「本当にお綺麗ですわ。」
「写真撮ってもいいかしら。」
褒め言葉の嵐。撮影会まで始まってしまった。私一人での撮影とそれぞれとのツーショット、あとはみんなで何枚も撮った。これ待ち受けにしようかな。
「ふふ、嬉しい。みんなありがとう。」
感謝の意味も込めてみんなにぎゅっと抱き着く。みんなもよしよしと頭を撫でてくれる。すると百ちゃんがちょっと不思議そうに口を開いた。
「あの、なまえさん近頃何かございました?」
「え?」
何のことだろう。意図がわからなくて思わず響香を見る。なぜか嬉しそうににんまりと笑われ、首をかしげる。
「それ私も思ってた!」
「私も私も!なまえちゃん前となんか違うよね!」
三奈ちゃんと透ちゃんにも同意される。え、ほんとになに。わけが分からず聞いてみる。
「な、なんだろ。おかしい?」
「いや、おかしいとはちゃうんやけど……。」
「そうね、強いて挙げるとすれば。」
「「「「「近い。」」」」」
みんなの声がハモる。隣の響香が我慢できずに吹き出していた。えっと、近いってもしかして距離感のこと。
「ご、ごめん。そんなに近かった?」
「全然嫌とかではないのよ。むしろ可愛いわ。」
「そうそう!ただ急に変わったからどうしたんかな~思て。」
うんうんと三奈ちゃんたちも頷く。距離感、おかしかったらしい。確かに最近は抱きついたり手繋いだり積極的にしてた。
やっぱり突然変わるのは難しいなあ。急に緑谷くんたちと近くなった焦凍くんが思い出される。幼馴染、似るところがあるのかもしれない。
「えっと私今までちゃんと友達できたことなくて……。」
「ウチらと仲良くなりたいけど、距離感迷子なんだって。」
「そういうことです……。」
うう、やっぱり間違えてたのか。恥ずかしい。なんだか所在なくなって小さくなっていると、たくさんの手が延びてきてもみくちゃにされた。
「かーわーいー!」
「仲良くなりたいって思ってくれてたの!?」
「わああ、髪が……!」
撫でられまくってボサボサ。せっかくセットしてもらった髪が大変なことに。ごめん梅雨ちゃん。
「みんなのこと大好きだから、その、愛情表現のつもりだったんだけど。やり方がわからなくて……。」
段々と尻すぼみになっていく。こんなこと言ってみんなに嫌われないかな。つまらないやつとか思われたらどうしよう。ないとはわかっていても不安になる。
「可愛い!本当に可愛い!何この生き物!」
「お母さん私この子飼いたいです!」
「可哀想だから返してきなさい。」
「でもウチも持って帰りたい……。」
「なまえさん、これからも同じように接してくださってもらえませんか?」
「そうね、私たちもなまえちゃんにくっついてもらえるの嬉しいわ。ケロケロ。」
むしろぎゅっと腕の力を強めてくれるみんな。思ってもみなかった反応に驚く。ポカンとしている私を見て響香は満足そうに笑った。
「ね、みんななまえのこと大好きでしょ。」
「……うん。」
「ふ、照れてる。」
「照れてます。」
ほっぺをつつかれる。やっぱり響香には敵わないなあ。ようやくみんなの手から解放され、梅雨ちゃんと百ちゃんが髪を直してくれる。すると突然お茶子ちゃんが何かに気づいたように声をあげた。
「ちょっと待って!……なまえちゃん、男子にも同じことしてへんよな?」
ピタリと動きを止める一同。突き刺さる視線。いや、さすがにしません。
「し、してないしてない!くっつくのは女子限定です。」
「やりー!女子特権~!」
三奈ちゃんが私に抱き着き一緒にいえーいと片手をあげる。他のみんなもよかったーと言って再び近くに寄ってきてくれ、なんとなく記念に動画をとった。あとでトークに送ってもらおう。なんだかより近くなれた気がして、私の胸はいっぱいだ。
その後はちらかった服やアクセサリーをみんなで片付けた。メイクを落とす前の私に、響香がそっと寄り添う。
「デート、楽しんでおいで。」
「……うん、ありがとう。」
どんなデートだったかはちゃんと女子チャットで報告するよう約束した。瀬呂くんには申し訳ないけど、ここまでしてもらったんだもんね。見守ってくれてるたくさんのお姉ちゃん的存在を、とても心強く思った。
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