期末テスト
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週末になり、約束通り私は百ちゃんの家に向かっている。私服でみんなと会うの初めてだ。服装これでよかったかなあ。
白のトップスにグレーのオールインワン。靴はサンダルと迷ったけど黒のローファーにした。お家にお邪魔するのに裸足だとアレだし。鞄は勉強道具がたくさん入るようリュック。かなり悩んだけど勉強しに行くんだし、と思ってラフな格好にした。
「門、大き……。」
聳え立つ門。ここが入り口のはずだよね……?八百万って書いてあるし。うん、教えてもらった住所とも合ってる。てことは向こうに見える大きいお屋敷が百ちゃんの家……?いや庭広すぎる。なんか噴水ある。どうしよう。これ私入ってもいいのかな。インターホンを押す勇気がない。
「お、みょうじ早いな。」
「せ、瀬呂くん……!」
救世主。門の前でうろうろしてた不審者に声をかけてくれた彼が神様に見えた。休日に会うのは初めてで少しどきりとする。
「えーと、八百万んちここ……?」
「そうみたい……。なんかすごすぎてインターホン押せなくて。」
「わかるわ……。」
2人で意を決してチャイムを押す。荘厳な音が鳴った後すぐに百ちゃんの声がして、ただいま門を開けますわ!という言葉と同時に見上げるほどの門がゆっくりと開いていく。本当にこんな世界あるんだ。
「すげーな。」
「ほんとに。瀬呂くん来なかったら私入れず帰るとこだったよ……。」
「それはうけんね。っつーか私服初めて見た。可愛いな。」
「あ、え、っと瀬呂くんも爽やかですね……?」
「フハッ、なんで疑問形。」
「ど、動揺を悟られぬように。」
「もうバレてんぞ~。」
上からポンポンと頭を撫でられる。完全に反応で遊ばれているような。余裕そうに笑う瀬呂くんに私の顔だけが赤くなった。
お屋敷に入ると百ちゃんが講堂?に案内してくれた。広い。すごい。最後の晩餐みたいな机ある。アンティーク調の綺麗なお家。ちょっと憧れてしまう。
次々にやって来るみんなは全く同じ反応をしていて笑ってしまった。開いた口が塞がらない、みたいな。わかる。私と瀬呂くんも案内されながら同じ顔してたから。
最後に上鳴くんがやってきて、全員揃ったところで勉強会がスタートした。
まずは百ちゃんが数学、私が古典を教えることになった。上鳴くん、三奈ちゃん、響香が数学組。瀬呂くんと尾白くんは古典組だ。試験範囲はもう大体勉強してあるし、あとはみんなに説明しながら自分の知識の確認をしよう。
「ここの訳がわかりづらくてさ。」
「あ、ここか。じゃあとりあえず品詞分解してみる?」
「こう?」
「そうそう。それで1つずつ訳してみよう。」
「うーん、初めての人は、2つ矢を持っちゃ駄目?」
「正解。矢は1本2本って数えるから現代語訳する時は注意してね。」
「なあ、ここのなほざりの心って何?」
「瀬呂……もしかしてこの時寝てた?」
「爆睡でしたね……。」
「そのあと普通に当てられて筆箱の中身全部落としてましたね……。」
「面目ない。」
床にぶちまけられた筆記用具一緒に拾ったんだった。片付ける間にうやむやになってなぜか近くの爆豪くんが代わりに当てられてた。すごいキレてたのを思い出す。
尾白くんは苦手だと言いつつコツコツ勉強してたようでほぼ理解できてる。瀬呂くんはうんうん唸ってたけど、古語の意味を覚えるとすぐに読めるようになった。あとは品詞の理解を深めればいいはずだ。なんというか要領がいい。
1時間ほど経って上鳴くんと三奈ちゃんの頭から湯気が出そうだったため休憩することになった。知恵熱出そうと言いながら泣いている。頑張れ。
一旦勉強道具を片付け、目の前には可愛らしいお花のティーカップとおいしそうなお菓子が運ばれてくる。糖分嬉しいなあ。上鳴くんと三奈ちゃんは待ってましたと目を輝かせている。
「これ、おいしい……!」
「いつも贔屓にしているところから取り寄せましたの。お口に合ってよかったですわ!」
「嬉しい。ありがとう百ちゃん。」
お家の人(多分家政婦さん)が持って来てくれた紅茶に口をつけると、ショコラの香りがふわっと漂ってきた。あ、これ好きなやつ。おいしい。ぷりぷりしながら照れてる百ちゃんは可愛くて、わざわざ取り寄せてくれたことに嬉しくなった。
「これもめちゃうま。」
「なんか、なんだろ?上質な味がする……!」
響香と尾白くんがクッキーを一口かじる。甘すぎず、程よいバターの風味が広がるクッキーだ。どこのだろう。ダース買いしたい。
「皆様のお口に合ってよかったですわ。」
「ほんとにおいしい。ありがとう百ちゃん。」
「おっしゃってくださればまだまだありますので!」
このお高そうなクッキーがまだまだある家。さすがすぎる。もしかしてお店のじゃなくて専属パティシェが作ってるのかな。ありえそうだ。
「いやーそれにしてもヤオモモの家でけーな。」
もぐもぐしながら上鳴くんが改めて指摘する。やっぱりみんな思うよね。
「ほんとに!アタシ一瞬入って良いのか迷ったもん!」
「私も。瀬呂くん来てくれなかったら多分入れなかった。」
「俺なんかインターホン押す勇気無くて八百万さんに電話しちゃったよ。」
「あら、そうでしょうか。」
普通のサイズですが……と首をかしげる百ちゃん。いや普通の家に講堂はないよ。お嬢様なんだなあ。みんなと一緒に温かい目をしてしまう。
「でもさ、みょうじの家もすごいんじゃねーの?とーちゃんトップヒーローだったわけだしさ。」
上鳴くんの質問に視線が集まる。え、私ですか。確かに不自由のない生活は送らせてもらってたけど。
「いや私こそ普通の一軒家だよ。多少大きいかもしれないけど噴水も講堂も全自動式の門もないし。」
「そこ基準にすると全部狂ってきちゃうからね。」
瀬呂くんからもっともなツッコミを受ける。だって百ちゃんのおうちかなり衝撃だったんだもの。我が家は大きめの一戸建てって感じ。金銭感覚も一般家庭と同じくらいだと思う。
「今住んでる部屋も他の一人暮らししてる人と変わんないと思うなあ。」
「「は?」」
「え?」
すごい形相の響香と瀬呂くん。え、なになに。怖い。思わず紅茶でむせそうになってしまった。
「みょうじサン一人暮らししてんの?」
「え、うん。あれ?言って……」
「ないよバカ!初耳なんだけど!?」
「そ、そうだっけ?ごめん……。」
毎日一緒に帰ってるから知ってるとばかり思ってた。みんな私が実家に帰ってると思ってたんだな。そういえばたまにスーパーで会うお茶子ちゃんと障子くんにしか話してなかったかも。一人暮らし仲間にしか伝わってなかったわけだ。非常に申し訳ない。
「もう、大事なことはちゃんと言ってよね。」
「じろー過保護~!」
「うっさい。」
三奈ちゃんにからかわれながらも響香の目は真剣で、反省するしかなかった。
「いや真面目な話女の子の一人暮らしは危ないからちゃんと周りに言っときなさいね?」
「はい、すみません……。」
「瀬呂と耳郎、みょうじの保護者みてーだな。」
「微笑ましいよね。」
瀬呂くんたちに怒られて三奈ちゃんと上鳴くんによしよしされた。それに便乗して百ちゃんと尾白くんまで私を構いにやってくる。子ども扱いはやめていただきたい。ちょっとうっかりしてただけなので。
「次のテストの時は絶対なまえの部屋で勉強会やるからね。」
「え。」
「あ、それいい!」
「私もお邪魔したいです。」
「俺も!」
「上鳴はだァめ。」
「なんで!」
「女子の部屋だからね。」
一体なぜ。次の勉強会の約束を取り付けられてしまった。いやでも女の子だけで集まるならそのあとお泊まりしてもいいな。楽しそう。そんなに広くないからたくさんは呼べないけど。すでにちょっとわくわくだ。
お泊まり会を提案して何とか響香に許してもらい、勉強会が再開された。絶対行くからね、と言う響香の顔はちょっと怖かった。瀬呂くんの目も全然笑ってなくて、この2人に隠し事はやめようと心に誓う。逆らえない。
今度は上鳴くんと三奈ちゃんに英語を教えている。2人とも教科書とにらめっこしては撃沈していた。こんなの習ったっけ?が口癖になっている。ばっちり習いました。
「えーとこのチャプターは現在完了進行形の範囲なので、この形の文章を抑えていけばそこそこ点とれると思う。」
「じゃあこれってhave been eating?」
「そうそう。でもこれは彼だから。」
「hasだ。」
「正解~。」
「あー、なまえのおかげで何とかなりそうだよー!」
「ふふ、良かった。」
「ここの訳はどうにかなんねえかな?」
「単語は地力で暗記いただくしか……。」
「ですよね!」
うおー全然わからん!と机に突っ伏す上鳴くん。単語はその都度覚えて行かないと膨大な量になっちゃうからなあ。一夜漬けにならないよう今のうちに何とかするしかない。
英語開始から1時間が経ち、筆記体の練習を始めてしまった上鳴くん。ヒーローになったときのサインを考えているんだそうだ。そして三奈ちゃんは上鳴くんの髪を三つ編みにして遊んでいる。もう3本目だ。
2人とも勉強飽きちゃってるなあ。私も何となく集中が切れて、遊んでる三奈ちゃんの腕にぎゅっと抱き着いてみる。
「お、可愛いのが来た。」
上鳴くんの髪で遊ぶのをやめ、私の手を握り返してくれる。するりと握り方を変えられ恋人つなぎの形になった。これちょっと照れるね。
「俺抜きでいちゃつくのやめてもらってい?」
「2人の愛は誰にも止められないんだよ!」
「ふふ。」
「そこー遊ぶなー。」
瀬呂くんから注意が飛んでくる。やばい、ばれてた。先生に見つかったような気持ちになりながら慌てて勉強を再開する。2人ともその後はなんだかんだ真面目に取り組み、赤点回避できるくらいには理解も深まった。