期末テスト
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今日は響香たちはお弁当。私は透ちゃんと一緒に食堂に来ている。
「私ラーメンにしよ~。なまえちゃんは?」
「んー、今日はサバみそ定食かな。」
受け取りが別々のカウンターだったため、あとでねと言って別れる。さっきお茶子ちゃんたちが座ってるのが見えたから、透ちゃんと合流したあとそこにお邪魔させてもらおう。
カウンターは混んでるけど意外とサクサク進む。すぐ私の番がやってきて目の前に出されたサバみそ定食を受け取る。ことはできなかった。同時に横から別の手が伸びてきて、二人一緒にトレイに触れる。あれ、これってもしや少女漫画の定石。恋が始まるやつ。
「あ、悪い。」
伸びてきた手の主はB組の男の子。私に気づいていなかったようで、驚いた顔で手を離される。
「や、そっちの方が早かったよ。どうぞ。」
「いや……。」
彼も私もヒーロー科。お互い譲らずどうぞどうぞが続く。少女漫画っていうかダチョウ倶楽部。とか言ってる場合じゃない。段々後ろに人が並んできた。これは良くない。結局根負けして私がいただくことにした。
「じゃあ遠慮なく。ありがとう、鱗くん。」
「え、」
「あれ?鱗飛竜くんであってる?」
「あ、ああ……。別に気にしなくていいよ。俺のももう来たし。」
ほら、と言って新しく来たトレイを見せてくれた。よかった、これでもう安心だ。お互い待たせている友人がいたこともありそのあとまたお礼を言って別れた。名前合っててよかった。体育祭の時B組の人全然知らないなと思ってちゃんと全員覚えたんだよね。
透ちゃんと合流し、緑谷くんたちが座ってる席へと向かう。
「なんかB組の人と話してなかった?」
「ああ、サバみそ定食譲ってもらったの。」
「フラグ!?もしかしてフラグ立った!?」
「立ってない立ってない。」
すぐに恋愛と結び付けたがるお年頃。私も少女漫画かと思ったけどね。遠くでは鱗くんを待ってたであろう回原くんが「今みょうじさんと話してなかったか!?」と言っていた。彼もそういうお年頃なのかもしれない。
緑谷くんたちと合流しお昼を食べ始める。話題はもっぱら期末試験だ。
「演習試験が内容不透明で怖いね……。」
「突飛なことはしないと思うがなあ。」
「でも雄英だし怖いところはあるよね。」
体育祭に地雷原を持ってくるような学校だ。何があるかわからない。
「一学期でやったことの総合的内容。」
「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生。」
「戦闘訓練と救助訓練。あとはほぼ基礎トレだよね。なまえちゃんなんか聞いてないん?」
「残念ながら。」
手掛かりがつかめずみんなでため息を吐く。消太くん知り合いだからって贔屓してくれないからなあ。まあされても困るんだけど。
「試験勉強に加えて体力面でも万全に……あイタ‼」
「ああごめん。頭大きいから当たってしまった。」
突然B組の物間くんが話に入ってきた。緑谷くんの頭にわざと肘をぶつけて。よくないぞ。
彼はなかなかの要注意人物。体育祭でめちゃくちゃ爆豪くんを煽ってた人だ。
「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね。」
「!」
「体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよねA組って。ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね。」
急に何を言い出すのかと思えばまた彼は煽りだした。あれって体育祭だけの方便じゃないのか。もともとこういう性格なのかもしれない。それにしても飯田くんがいる前でヒーロー殺しの話をするとは。やっぱり要注意人物だ。
「あー怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなあ!ああ怖……ふっ‼」
「シャレにならん。飯田の件知らないの?」
後ろから突然手刀が飛んできて物間くんは沈んでいった。鮮やかな攻撃の主はB組の拳藤さんだ。物間くんの持っていたトレイを落とさないようフォローしているあたり、できる。
「ごめんなA組こいつちょっと心がアレなんだよ。」
「心が……。」
ちらりと力なく項垂れている物間くんを見る。屍になっている。南無三と心の中で唱えた。
拳藤さんは私たちの話が聞こえていたらしく、期末の演習試験は入試の時みたいな対ロボット演習だと教えてくれた。彼女は先輩に知り合いがいるらしく、去年の内容を知っていたのだそうだ。情報収集抜かりない。すごいなあ。
「バカなのかい拳藤。せっかくの情報アドバンテージを‼ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ……。」
「憎くはないっつーの。」
懲りない物間くんに再び手刀を落とす拳藤さん。そのまま彼を引きずってB組の席へと移動していく。実にヒーローらしい爽やかさ。
それにしても物間くんを一瞬で仕留められるあの一撃、見習いたい。近接得意なんだろうな。物間くんにはなぜか目の敵にされてるけど、彼女とは仲良くなりたい。あっという間の出来事に言葉を交わすことができなかった私は、今後の期待を込めて拳藤さんの背中を見送った。
「んだよロボならラクチンだぜ‼」
教室にもどり、拳藤さんに教えてもらった情報をみんなに話した。クリアしやすそうな課題にみんな安堵の表情を見せている。
「おまえらは対人だと個性の調整大変そうだからな……。」
「ああ!ロボならぶっぱで楽勝だ‼」
「あとは勉強教えてもらって。」
「これで林間合宿バッチリだ!」
勉強不安組が盛り上がってる。未来に希望が持てたみたいで朝より元気だ。
「でもほんとかなあ……。」
「何か気になることでもあるのか。」
上鳴くんたちの雰囲気を壊さないように小声で呟くと、隣にいた障子くんが反応してくれた。
「うん。雄英が2回も同じようなことやるかなって。敵に襲撃されたばっかで危機感も高まってるのに。」
対ロボ演習は1年生の私たちにとっては妥当なのかもしれないけど、USJやヒーロー殺しの事件があったばかりだ。より実践的な演習があったっておかしくない。プルスウルトラが校風のこの学校で、対ロボのような保守的な試験をするだろうか。
「……確かにな。対人訓練も視野に入れていた方がいいということだな。」
「そうだね。備えておいて損はないかも。」
良いことを聞いたとお礼を言われた。なんか照れる。
「人でもロボでもぶっとばすのは同じだろ。何がラクチンだアホが。」
「アホとは何だアホとは‼」
上鳴くんが抗議する。爆豪くん今日も絶好調にキレてる。けど、最近の爆豪くんはなんて言うか、より追い詰められた顔をしている。この前の救助訓練からだ。緑谷くんが爆豪くんスタイルで動いていたあの訓練から。
「うるせえな!調整なんか勝手にできるもんだろアホだろ!なあ!?デク!」
やっぱり彼の矛先は緑谷くん。いつも以上に苛立って突っかかっている。緑谷くんが少しずつ個性を扱えるようになってきたことに、焦っているのだろうか。
「体育祭みてえなハンパな結果はいらねえ……!次の期末なら個人成績で否が応にも優劣つく……!完膚なきまでに差ァつけて、てめェぶち殺してやる!轟ィ……‼てめェもなァ‼」
捨て台詞を吐いて教室から勢いよく出て言った爆豪くん。久々にシリアスに怒ってる彼を見たような。
やっぱり爆豪くんは緑谷くんが気になって仕方ないみたいだ。優劣をはっきりつけたいというのは、裏を返せば今自分が負けてるかもしれないと思ってるってことで。そのことに彼自身は気づいているのだろうか。
こじれてしまった幼馴染の関係。それが加速してしまっているように見えた。