職場体験
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その日の夜、私は社長室の前で悩んでいた。
うーんこのままじゃ職場体験終わっちゃうしなあ。でもジーニストさんまだ仕事してるし。迷惑かなあ。いや失礼かも。
「……どうした。」
「わあ!」
うろうろしていたら急にドアが開いた。ばれてた。
「いえ、ちょっと……。質問が……?」
「入りたまえ。」
そのまま社長室に通される。いいのかな。部屋にはジーニストさん以外誰もいなくて、私はふかふかの椅子に座るよう指示された。これ、いいやつだ。座り心地が違う。
「それで、何が知りたいんだい。」
「ああ、あの……!」
ジーニストさんが直々に紅茶をいれてくれている。綺麗なティーカップで出されたそれはとてもいい香りがした。
「言いにくい事かい。」
「……!いえ、その。……ベストジーニストさんにとって、父ってどんな人でしたか?」
紅茶に口をつける。なんだか喉がカラカラだった。
「君のお父上?そうだね、世間の評判と違わず清く正しく強い素晴らしいヒーローだったと思うが。」
「そう、ですか。」
「ああ。それに君をとても大切にしていた。」
「え?」
大切。それは私自身を、だろうか。それとも強いヒーローになる可能性を?今の私には、それがわからなかった。
「……意外そうだな。」
「えっ。」
「君が何を思ってこんなことを聞いてきたのかはわからないが、少なくとも私にはそう見えた。」
ベストジーニストさんは嘘をついているようには見えなかった。優しさで言ってくれたわけでもなさそうだった。
父は、神様のような存在だったと思う。にこやかで、一見慈愛に満ちている、けれど決して逆らうことのできない存在。支配されていたことも、父が怖かったことも私にとっては事実だ。だから余計、わからなくなった。
ベストジーニストさんには、本当に父が私を大切にしているように見えたのだ。実際大切にしてくれてはいたのかもしれないけど。この認識の違いは何だろう。家の内と外の視点の違いだろうか。外からは父の脅迫めいた行動がわからなかったのだろうか。そういうわけでもない気がした。
ここに来れば、他のプロヒーローに聞けば何かがわかると思っていた。
ベストジーニストさんは物事の本質を冷静に見極める人だ。私と異なる認識ではあるけど、彼の見ていた父は現実だと思う。もう何を信じていいのか。自分の記憶を信じていいのか。余計わからなくなってしまった。私には父という人間が、わからない。
黙り込んでしまった私に、ジーニストさんは何を言うわけでもなかった。ただ紅茶を飲み終わるまで一緒にいさせてくれて、それがまるで父親みたいで。私はなんだか泣いてしまいそうだった。
職場体験最終日。午前の訓練を終えた私たちは制服に着替え、帰りの準備を済ませた。
「本当にお世話になりました。」
「よく頑張ったね。今後も日々励みたまえ。」
「はい、ありがとうございました。」
隣に視線を向ける。爆豪くんはポケットに手を突っ込み相変わらずジーニストさんを睨みつけている。最後くらい敬意を払おうよ。
「爆豪くん?」
「……チッ、また来る。そん時までに名前考えとくから覚悟しとけや。」
「ああ、楽しみだ。次会う時は必ずその性格を矯正してやろう。」
「お断りだクソが‼」
ジーニストさんもめげてないなあ。結局職場体験中爆豪くんずっとキレてた気がする。体力がすごい。
もう一度深くお礼をして、私たちはベストジーニスト事務所を後にした。帰りの新幹線は疲れてすぐに寝てしまい、爆豪くんが起こしてくれなかったら寝過ごすところだった。でも目覚まし代わりに人の足を蹴るのはよくない。折れたかと思った。
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