職場体験
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お待たせしま……んふっ。な、なんですかそれ……っふふ。」
「何笑っとんじゃ‼」
「いやだって、ふふ、髪……!」
コスチュームを着替えてベストジーニストさんのところに戻ると爆豪くんの髪が大変なことになっていた。いつものつんつん頭は消え去りぴっちり撫でつけられている。前髪は8:2でわけられてる。まさに矯正。ベストジーニストさんさすがすぎる。笑ったら爆破されるのは目に見えてるけど正直腹が捩れそうなほど面白い。
「ひぃ、写真撮って良い?ふふっ。」
「撮んなや殺すぞ‼」
スマホのカメラを構えると怒りと共に髪の毛も爆発した。強力ワックス効かないのか。どんな髪なの。
「せっかく矯正したというのになんという意志の強い髪だ。先になまえの方をやってしまおうか。おいで。」
「意志の強い髪……ふふっ……!」
「ツボに入っとンじゃねえぞコラ‼」
駄目だお腹いたい。何とか笑いをこらえながらジーニストさんの前の椅子に座る。
「君の髪は……反対に素直だな。まとめて結ってもいいかい?」
「はい。お願いします。」
これで私も爆豪くんみたいになったら鏡を見ながら笑い死んでしまうかもしれない。何とか命をつなぎたい。耐えろ腹筋。
ベストジーニストさんは手先がとても器用で、一房編み込みをした後綺麗に全部髪をまとめてお団子にし、最後は後ろで留めてくれた。
「気に入ったかい?」
「はい、すごく。ありがとうございます。」
「その髪留めは君にあげるよ。持っておくと良い。」
「え、いいんですか?」
「君がうちに来るとわかって買っておいたんだ。もらってくれ。」
「……大事にします。」
わざわざ買ってくれたのか。申し訳ない。淡い青色の花がモチーフのバレッタ。今は後ろで留めてるから見えないけど、あとで髪をほどいてちゃんと見よう。爆豪くんは扱いの差にブチギレていた。ベストジーニストさんは君にもこれを買っているだろうと強力ワックスを見せたけど逆効果だった。
その後は早速個人訓練。ベストジーニストさんの事務所、設備良いなあ。広い。別々にやった方がいいだろうとのことで爆豪くんとは別部屋だ。
「等間隔に5つ缶を置く。まずは端っこと真ん中の3本を倒せるよう練習してみよう。」
「はい。」
こんな個性の使い方をするのは初めてだ。誰かを動けなくするほど風力を強くするときは、いつも範囲が広くなってしまっていた。
集中して両手から風を出す。けれどそれを別方向へと出すことはできず、缶は全部倒れてしまった。
「大丈夫だ。イメージしよう。これまでは風を面で飛ばすことが当たり前だったかもしれないが、今度はそれを線でやってみるんだ。自分の手から放たれた風が3股に分かれるイメージで、もう一度。」
「はい!」
イメージ。風が3つに分かれる。缶を倒せる。面じゃなく、線で。
「っよし!」
カランカランと音を立てて缶が倒れる。倒れたのは端っこの2つだけだったけど、それでも一歩前進だ。
「筋がいいな。その調子で続けて。」
「はい!」
ベストジーニストさんが部屋を出て行った。これから爆豪くんの方に向かうのだろう。何とも手厚い。プロヒーロー直々の指導だ。色々学んで帰ろう。
その後も2時間ほど練習し続けた。けどなかなか3つの缶は倒れない。必ず1つ倒せないのだ。うーん難しい。あと個性の使いすぎでしんどい。
「煮詰まってるな。」
「ジーニストさん。」
「気分転換に外に出ようか。見まわりだ。」
「はい。」
外に出るとすでに爆豪くんがいた。まだこっちに気付いてなさそうだったので、ぴっちり姿をカメラに収めた。あとでクラスチャットに送ってみようか。
ベストジーニストさんと爆豪くんと3人で街を見まわる。幸い敵は出ておらず、辺りは平和そのものだ。
「チッ、なんもねー。」
「いいことだよ。」
「その通りだ。ヒーローが街を歩いているだけで市民は安心するもの。君ももっと愛想良くすると良い。」
「モブにお手振りなんざできっか‼」
「モブて。」
知らない人のことモブって言う癖、どうにかならないかなあ。人気下がるぞ。街の人たちはどうやら結構私たちを知ってくれているようで、好意的に手を振ってくれる。私もそれに笑顔で返す。爆豪くんはなぜかキレて恐れられていた。やめなよ。
「そういえば君たちのヒーロー名を聞いてなかったな。」
「ンなもんねえよ。」
「爆殺王も爆殺卿も却下されたもんね。」
「正気か爆豪。」
さすがのジーニストさんも絶句していた。爆殺王見た目だけなら遊戯王みたいなんだけどね。いや遊戯王ヒーロー名もわけわかんないんだけど。
「私はトルネードです。」
「!……お父上をも超えるという気概が感じられる。良いヒーロー名だ。」
「えへへ、頑張ります。」
褒められてちょっと気恥ずかしくなる。調子乗んなやとなぜか隣から悪態が来たけど深く考えないことにした。
職場体験1日目の夜。ベストジーニストさんの事務所には寝泊まりできるところもあるみたいで、私と爆豪くんは別々の個室に案内された。きっとサイドキックさんの待機部屋でもあるだろう。ごはんとお風呂を済ませて飲み物でも買いに行こうと自販機に向かう。
「あ、爆豪くん。」
自販機の前には先客がいた。彼が飲み物を買ってからもその場を離れなかったので、私も炭酸水を買った後なんとなく隣に立つ。何を話すでもなく一緒に飲み物を飲んでる。シュールだ。
「色々は、もうええんか。」
「え。」
先に口を開いたのは爆豪くんだった。一瞬何のことを言われてるのかわからなくて言葉に詰まる。
「半分野郎と色々あるっつっただろうが。」
なるほど、体育祭の時のことか。それを聞くためにわざわざ残ってくれたのだろうか。気にかけてもらっていたことが、正直かなり意外だった。
「ああ、うん。色々はちょっと解決しました。」
「……そうかよ。」
「心配してくれてた?」
「するかボケ。頭沸いてんのか。」
「めちゃくちゃ悪口。……ありがとう。」
「ハッ。」
私の返事を聞くと彼はすたすたと自室に戻ってしまった。自分から聞いた癖に興味なさそうにするのは、彼なりの照れ隠しなのだろうか。やっぱり爆豪くんは優しい。もっと仲良くなりたいと思ってしまった。