職場体験
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職場体験当日。みんなでコスチュームを持って駅に集まる。
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ。」
「はーい‼」
「伸ばすな。はいだ芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け。」
簡潔な説明が終わってみんなばらばらの方向に動き始める。私は東京方面だ。
「なまえ、結局どこにしたの?」
「ベストジーニストさんのとこ。」
「あら、爆豪さんと同じですのね。」
「えっ。」
「知らなかったのか。」
障子くんに気を落とすなと慰められる。いや、爆豪くんも取って食うつもりはないと思うけどね。ここから1時間彼の隣の席は耐えられるだろうか。
ふと気になって飯田くんの方を見ると、緑谷くんとお茶子ちゃんが話しかけている。仲いい2人が声かけてるなら大丈夫だよね。そう思い自分の乗る方面へと向かった。
新幹線に乗り込むと、もうすでに爆豪くんがいた。よりによって私が窓側。座りづらい。
「失礼しま~す……。」
睨まれるかと思ったけど意外にも無反応。コスチュームを棚に上げて席に着く。
「あの、よろしくね。」
「てめェと一緒なんざ聞いてねえ。」
「私もさっき知った。」
目は合わないけど一応会話はしてくれる。よかった。
「爆豪くん飴食べる?」
持って来ておいたお菓子を開ける。肩肘をついて逆方向を向いてる爆豪くんに話しかけるなんて、以前なら考えられないけど。今は仲良くなるチャンスだ。ダメ元で頑張れ私。
「……何味。」
いらねえって言われると思ってた。今日機嫌良いのかな。
「いちごみるく。」
「ンなクソ甘めーもん食えるかいらんわ。」
あ、普通に断られた。爆豪くんといちごみるく確かに全然似合わないもんね。
「爆豪くん好きな食べ物何?」
「辛いモン。」
「ああ、なんか真っ赤などんぶりとか食べてるよね。食堂で。」
「勝手に見んな。」
「見えちゃったから……。」
意外にも普通の会話ができている。爆豪くん怒ってる印象が強いけど、緑谷くん以外にはちゃんと受け答えしてくれるのかもしれない。2人はどうしてそんなにこじれてしまったのか。怖くて聞けはしないけど。
その後爆豪くんは寝ると言って目を閉じてしまった。私はいちごみるく味の飴をなめながらぼんやりと流れていく景色を見る。
ベストジーニストさん。父とは抜いたり抜かれたりしながらチームアップも多かった人。何か聞けるだろうか。少しでも道は開けるだろうか。何にせよ自分にとって実りあるものになるよう、気合を入れた。
「ベストジーニストさんの事務所、綺麗……!」
「ケッ。無駄に広ェ。」
サイドキックの方に出迎えてもらって、ジーニストさんのいるところまで案内してもらう。すごい。みんな同じ髪型。ぴっちりしてる。事務所内もごみ一つない。
「さあ、ここが社長室だ。」
「し、失礼します。」
「……。」
緊張しながら中に入る。爆豪くんは無言。なんかしゃべって。いや暴言だと困るか。やっぱしゃべらないで。
「やあ、なまえ。しばらくだね。」
「お久しぶりです、ベストジーニストさん。貴重なお時間割いて頂きありがとうございます。お世話になります。」
「チッ、こいつとも知り合いなんか。チートかよ。」
「プロヒーローのことこいつ言わない……。」
勘弁してほしい。胃がきりきりしてきた。誰が相手でも同じ態度なのは正直尊敬するけど。
「タイフーンさんとはよくチームを組ませてもらっていたからね。なまえのことも小さいころから知っている。まあでも、正直君のことは好きじゃない。」
「は?」
「え。」
ジーニストさんまでケンカ腰。波乱だ。隣から明らかに不機嫌オーラが出てる。ここで乱闘が始まってしまう。どうしよう。
「私の事務所を選んだのもどうせ、五本の指に入る超人気ヒーローだからだろ?」
「指名入れたのあんただろが……。」
またあんたとか言う。やめてねほんと。ジーニストさんも爆豪くん煽んないでね怖いから。
「そう!最近は良い子な志望者ばかりでねえ。久々にグッと来たよ。君のように凶暴な人間を矯正するのが私のヒーロー活動。」
爆豪くん敵サイドに見られてない?あの暴れ狂ってる表彰式見たら仕方ないかもしれないけど。
「敵もヒーローも表裏一体……。そのギラついた目に見せてやるよ。何がヒーローたらしめるのか。」
不穏な空気が流れる。あれ、でもそれが爆豪くんを選んだ理由だとしたら。
「んじゃあこいつはンで指名したんだよ。」
そうそう、そうだよね。自分で言うのもなんだけど反骨精神とは縁遠い部類だ。いやそれじゃ今後困るんだけど。
「なまえは単純に個性の使い方を矯正しようと思ったまでだ。」
「使い方ですか?」
「ああ。広範囲な攻撃になるとコントロールがぶれるだろう。あれでは周りと連携が取れない。同時に別方向に空気をいくつか出す練習をしてもらおうと思ってね。」
「同時に……。考えたことなかったです。」
やっぱりプロはすごい。自分の個性のはずなのに、使い方を私よりもわかってる。確かに敵制圧の時に毎回周囲のものをふき散らしてしまっては安全に助けることができない。自分の思い通りに範囲が狭められれば使い勝手もいいし威力も上がる。しかも多方向。難しそうではあるけどモノに出来れば確実に強くなれる。
「私の個性と風は相性が悪い。それでも君のお父さんとよくチームを組んでいた。お互いを補い合う制圧ができたからだ。君も訓練すればきっとそんな戦い方ができるようになる。」
ベストジーニストさんは、父のこともよく知っている。その上で今後の私の戦い方を案じてくれたのだろう。より良いヒーローになれるように。
「挨拶はこのくらいにしよう。2人とも着替えてきなさい。更衣室はちゃんと男女別になってるから安心したまえ。」
なんだかわくわくしてきたかも。軽い足取りで更衣室へと向かった。