職場体験
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放課後、自分に来たオファーリストとにらめっこしている。
峰田くんは下心見え見えだけど、梅雨ちゃんは個性を生かせる水難に関わる事務所を希望している。お茶子ちゃんは苦手をなくすために武闘派ガンヘッドさんのところ希望。みんなちゃんと考えてるなあ。
「みょうじさんはどうするの?」
「んー、悩み中。なるべく色眼鏡のなさそうなとこ。」
私の返しにはてなを浮かべる緑谷くん。
「多分お父さん票も入ってるからねえ。できるだけ”私”の活躍を見てくれてそうな事務所に行く。」
「なるほど。」
父と同じ活躍を期待されても困る。せっかく父以上の名前を背負ったんだから。
「って、ええ!!?」
私のリストが目に入ったのか緑谷くんが飛び上がった。みんなびっくりしてこっち見てる。私もびっくりした。
「エ、エンデヴァー!?ホークスからもオファー来てる!?」
「え、まじか。めっちゃ期待されてんじゃんみょうじ!」
「なまえちゃん活躍すごかったものね。」
上鳴くんと梅雨ちゃん。褒めてくれるのはありがたいけどエンデヴァーさんは多分身内オファーだ。
「うーん、エンデヴァーさんは多分昔のよしみでオファーしてくれるだけだと思うなあ。ホークスさんはなんか、なんでだろ。これはほんとにわかんない。」
飛べるから?でも私ちょっとあの人苦手なんだよなあ。全部見透かされてるみたいで、怖い。今回のオファーも唐突過ぎてわけがわからない。
とりあえず持ち帰って一晩悩んでみよ。緑谷くんがオールマイトに連れていかれて教室もなんだか解散ムードだ。
「瀬呂くん、今日一緒に帰られそう?」
「ん、だいじょぶよ。」
「響香と切島くん先玄関行ってるって。」
2人は消太くんのところに相談に行ってたらしい。さっき連絡が来てた。鞄を持った瀬呂くんが、じっとこちらを見つめる。え、なに。
「あ、あの?」
「や、それも心境の変化?」
「え。」
それ、というのは。私が瀬呂くんに声をかけたことだろうか。
「今日、いつもよりちゃんと喋ってたもんな。」
「その言い方だと私赤ちゃんみたいになっちゃうけど。」
「ハハ、それそれ。そういうツッコミとかもさ、今まで思っててもあんま言わなかったろ。」
す、すごい。確かにこれまで考えてることと別の答え方してた気がする。上鳴くんに対してとかも、みんなよりも大分マイルドに受け答えしてた。っていうのは上鳴くんにひどいけど。
「瀬呂くん、エスパー?」
「いんや、よく見てるだけ。」
「そ、そうデスか……。」
ポンポンと頭を撫でられる。こういうのの返し方は今も全然わからない。
「いい傾向だな。」
「私結構キャプション芸人っていうかモノローグ芸人みたいなとこあるから……。」
「そういう言葉は知ってンのね。」
教室のドアの前で上鳴くんが待ってる。合流して下駄箱へと向かった。
夜、ベッドで寝ころびながら唸っている。
「どうしよー……。」
なかなか決まらない。得意を伸ばすか苦手を克服するかも迷うけど、何より今1番知りたいことを職場体験に利用していいかで迷っている。
……怒られるかな。怒られるかもなあ。若干躊躇はしたけどこのままでは一向に結論が出ないので、スマホに手を伸ばすことにした。
「……どうした。」
意外にも3回目のコール音で出てくれた。不機嫌そうな声はいつものことだから気にしない。
「夜分遅くに申し訳ありません。A組のみょうじなまえですが、相澤先生、今お時間よろしいでしょうか。」
「その口調やめろ。」
なんで。この上なく丁寧なはずなのに。
「消太くんがちゃんとしろって言った。」
「今はやらなくていい。で、何の用事だ。」
時間は少しなら大丈夫らしい。現在20時。まだ学校にいると思われる消太くん。申し訳ない。
「職場体験先、迷っちゃってて。」
「チャート上位の事務所からもオファーあっただろ。ホークスとか。」
「あー、うん。そうなんだけどね。」
「個性の伸ばし方で迷ってんのか。近接克服すんならフォースカインドやガンヘッドもいいと思うぞ。」
「いや、うーん。あの。」
「……なんだ。」
歯切れの悪い私に何かを感じ取ったのか、消太くんは一旦しゃべるのをやめた。
「あのー、お父さんのこと知ってる人のところに行くとかは。その、ありですかね……?」
「タイフーンさんの?」
急になんで、ともっともな質問が飛んでくる。怒られてはないけど声色は怖い。
「あの、ヒーローだったお父さんのこと、もっとちゃんと知りたくて。どんな人だったのかとか、ちゃんと家族以外の人の意見も聞いてみたくて。我儘なのは重々承知してるんだけど……。」
段々尻すぼみになっていく語尾。消太くんはちょっと間があいた後深くため息を吐いた。
「ご、ごめんなさい。」
「……何か考えがあるんだな。」
「うん……。」
「リストにある以上、どこを選ぶのかはお前の自由だ。理由は問わない。」
良かった、許してもらえた。ついでに父と親交がありそうなヒーローをピックアップしてくれる。消太くんの声を聞きながら、そのヒーローの事務所にマーカーを引いて行く。
「こんなもんだ。だがなるべく上位のヒーローを選べ。トップヒーローの事務所に行けば、たとえ関係ない理由で選んでたとしても学べることはたくさんある。」
「ありがとう。わかった。」
「提出すぐだから気を付けろよ。今日はもう寝ろ。」
「まだ20時すぎだよ……。」
20時過ぎまで残業してる消太くんには何も言えないけど。もう一度お礼を言ってから通話を切った。
ラインを引いたリストを見る。この中で1番上位の人。かつ色眼鏡で私を見ていなさそうな人。父が理由で指名されるのは嫌なくせに、父を基準に事務所を決めるというのは矛盾しているけれど。
「よし、ここだ。」
職場体験の行き先が決まった。