職場体験
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「相澤先生包帯取れたのね、良かったわ。」
本当だ。少し傷は残ってるけどいつも通りの消太くんの顔。すごくほっとした。
「婆さんの処置が大げさなんだよ。んなもんより今日のヒーロー情報学ちょっと特別だぞ。」
何だろう。抜き打ちテストとか?
「コードネーム、ヒーロー名の考案だ。」
『胸膨らむヤツきたああああ‼』
おお、みんな大盛り上がりだ。消太くんの鬼の形相で一瞬で静かになったけど。
ヒーロー名かあ。先延ばしにして考えてこなかったなあ。どうしよう。
「というのも先日話したプロからのドラフト指名に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2、3年から。つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある。」
シビアだなあ。体育祭の結果を踏まえた指名はそのまま今後の自分のハードルになる。指名が多くても、それに驕ってしまえば就職キャンセルもあり得るってことだ。まさにプルスウルトラ。興味を持ち続けてもらえるよう、努力し続けなければならない。
「で、その指名の集計結果がこうだ。」
名前と指名の数が貼りだされ、みんな黒板に注目する。
「例年はもっとバラけるんだが、3人に注目が偏った。」
え、なんかめっちゃ指名来てる。焦凍くん爆豪くんほどじゃないけど、2000以上。
「みょうじすげーね。」
「うーんどうだろう。父の影響もかなりあると思うけど。瀬呂くんも指名来てるね。」
「まァ、汎用性高い個性ではあっからね。もうちょいほしかったけどなー。」
悔しさを滲ませる瀬呂くん。他のみんなも結果を受けてそれぞれの反応をしている。
「これを踏まえ指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。おまえらは一足先に経験してしまったが、プロ活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった。」
それでヒーロー名かあ。納得。これだけ指名してもらってるし、ちゃんと考えなきゃなあ。
「まァ仮ではあるが適当なもんは……。」
「付けたら地獄を見ちゃうよ‼」
勢いよく現れたのはミッドナイト先生。今日もお美しい。寒くないだろうか。
「この時の名が!世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね‼」
「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。」
消太くんそういうの疎そうだもんなあ。確かにミッドナイト先生もかなり名が体を表している。
15分間考える時間が与えられた。唸ってる人、さらさら書いちゃう人、それぞれだ。
「うーん。」
「浮かばねえ?」
「いや、候補はいくつか……。」
「親父さんのヒーロー名は継がねえの?」
「それは、しない方向で行こうかなあと。」
私のままヒーローを目指すと決めた。そのためにも父の名前をそのままもらうようなことは避けたい。
「そっか。どうせなら強そうな名前にしちゃえよ。」
「そうだよね。ちょっと考える。瀬呂くんはどんな感じ?」
「俺はもうわかりやすくそのまんまよ。」
さらさらとボードに書いて行く。瀬呂くんはなんかこう、迷いがなくてすごいなあ。私もちゃんと考えよう。
「じゃ、そろそろ。できた人から発表してね!」
え、みんなの前で発表するのか。ちょっと恥ずかしい。
1番手は青山くん。めちゃくちゃ堂々としている。羨ましい。
「輝きヒーロー、I can not stop twinkling.(キラキラが止められないよ☆)」
短文!キラキラネームとはよく言ったもんだ。本当に輝きが止められない。しかもミッドナイト先生も普通にアドバイスしてる。なにこれ。
「じゃあ次アタシね!エイリアンクイーン‼」
「2‼血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな‼」
ちぇーと頬を膨らませながら席に戻る三奈ちゃん。え、これ大喜利?私もなんかボケた方がいいやつ?風雲小僧みたいな?
「じゃあ次私いいかしら。」
「梅雨ちゃん!」
「小学生の時から決めてたの、フロッピー。」
「カワイイ‼親しみやすくて良いわ‼」
梅雨入りヒーローフロッピー。めちゃくちゃ可愛い。梅雨ちゃんにぴったりだ。お手本のようにセンスの良い梅雨ちゃんのおかげで大喜利の空気からは脱した。よかった。全然得意じゃないしドンズベりするとこだった。
みんな次々に発表していく。瀬呂くんのヒーロー名、いいな。セロファン。呼びやすい。わかりやすい。
いくつか候補を出して唸っていたけど、私もそろそろ発表しないと。最後になるのも嫌だし。どうせなら強そうな名前。瀬呂くんの先ほどの言葉を思い出し、ようやく決心する。
「良いじゃん、良いよ!さァどんどん行きましょー‼」
「じゃああの、行きます。」
うわあ、みんなの前に立つの緊張する。それでも頑張らなきゃ。せっかく決めた名前に恥じないように。
「ストームヒーロー、トルネード、です。」
「あら、みょうじさんの印象より若干強い感じがするわね。」
「や、サイクロンとかとも悩んだんですけど。どうせならとんでもない風速の名前にしようと思いまして……。」
「強気!いいね!かっこいいよ!」
良かった褒められた。席に戻る途中瀬呂くんと目が合う。笑って親指を立ててくれた。
「いー名前だな。」
「どうせなら、強そうなのをね。」
背負うと決めたこの名前を後押ししてくれたのは彼の言葉だ。ありがたい。
それにしてもみんな個性豊かだなあ。焦凍くんなんて名前そのままだし、爆豪くんは爆殺王と発表して即却下されていた。ぴったりの名前ではあると思う。絶対言えないけど。
「思ったよりずっとスムーズ!残ってるのは再考の爆豪くんと……飯田くん、そして緑谷くんね。」
飯田くんは、今日元気がない。朝もみんなの輪の中に入って話してなかった。今だって普段の飯田くんなら真っ先に挙手しそうなものだ。やっぱり、お兄さんのことが気にかかっているのだろうか。
飯田くんのお兄さん、インゲニウムさんがヒーロー殺しに襲われた。ニュースにもなっていたその事件は、クラスのみんなも知っている。朝からずっと思いつめたような顔の飯田くんが、妙に引っかかった。
結局彼は、自分の下の名前を書いて発表した。いつもの溌溂とした振る舞いはなかった。
最後に緑谷くん。彼のヒーロー名は「デク」だった。爆豪くんがつけた蔑称なのではとみんな心配したけれど、彼にとってその名前はもう意味が変わっているらしかった。いろんなものを受け入れて、前向きに捉えられる。緑谷くんの長所だ。
再考の爆豪くんは爆殺卿と発表して再び即却下されていた。王から卿にランクダウンすればいいとかそういう問題じゃないのよ。