体育祭
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次は焦凍くんと緑谷くんの試合。正直1番気になる組み合わせだ。
「おーう何か大変だったな悪人面‼」
「組み合わせの妙とはいえとんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん。」
「うるっせえんだよ黙れ‼」
相変わらず悪人面の爆豪くんが帰ってきた。戻ってきて早々暴言。やっぱりすごい。
「まァーしかしか弱い女の子によくあんな思い切りの良い爆破できるな。俺はもーつい遠慮しちゃって……。」
「油断しちゃったんだね。」
「完封されてたわ上鳴ちゃん。」
「……あのな、みょうじ、梅雨ちゃん……。」
爆豪くんは試合結果が気に入らなかったのか乱暴にどっかりと座った。どこがか弱エんだよ、と小さく呟かれた声は何となく聞こえないふりをした。
「2人まだ始まっとらん?見ねば。」
「目を潰されたのか!!!早くリカバリーガールの元へ‼」
お茶子ちゃんも戻ってきた。飯田くんとの会話に耳を澄ます。泣いてたんだ。そりゃ悔しいよね。キャパオーバーでの行動不能。私だって他人事じゃない。この先勝ち上がっていくなら、使い方を考えなきゃ。
『今回の体育祭両者トップクラスの成績‼緑谷対轟‼START‼』
開始の瞬間に焦凍くんの広範囲氷結が放たれ、緑谷くんが打ち消した。また指折ってる。今の彼が焦凍くんと戦うには必要なことなのかもしれないけれど、それでもやっぱり普通じゃない。
「どっちもえげつねえな……。」
「でもこのまま氷結が続けば緑谷くん負けちゃう。」
「え。」
「指、10本でしょ。親指のけたら8本。」
「うっそだろ……。」
瀬呂くんが苦い顔をする。指を折るってわかってての攻撃。あり得ないけど、彼ならやりかねない。
また避けた。緑谷くんの指は残り6本だ。どうするつもりだろう。
「ゲッ始まってんじゃん!」
「切島くんお疲れ。」
「二回戦進出やったな!」
公正な腕相撲の結果切島くんは鉄哲くんに勝利した。最後には友情も生まれ、何ともミッドナイト先生好みの結末となった。
「次おめーとだ爆豪!」
「ぶっ殺す。」
「ハッハッハやってみな!」
前から思ってたけど切島くんメンタルすごい。あの爆豪くんに普通に話しかけに行く。真似できない。
「とか言っておめーも轟も、強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー……。」
「ポンポンじゃねえよナメんな。筋肉酷使すりゃ筋繊維が切れるし走り続けりゃ息切れる。個性だって身体機能だ。奴にも何らかの限度はあるハズだろ。」
当たりだ。焦凍くんの場合左を使えば限度も大幅になくなるけど、彼自身が制約を課してしまってる。緑谷くんがわざわざ指を折ってまで耐久戦にしているのは、きっとそれに気づいたからだろう。
「てめえなんか知ってんだろ。」
「……ノーコメントで。」
彼にとって不利になる情報を、今私がばらしていいのかわからない。まあ、この試合でばれるかもしれないけど。
焦凍くんも緑谷くんの作戦に気づいたようで、すぐさま近接へと切り替える。何とか避けた緑谷くんを、氷が捉え続ける。
「うお、すげえ音すんな!」
「緑谷が威力上げたんでしょ。」
「……あれ左手折れてない?」
「マジかよ……。」
咄嗟に出た防御とはいえ腕まで折った。緑谷くんが負けるのは時間の問題だ。痛々しく腫れ上がった腕にクラスメイトはみんな顔を顰めている。
「悪かったな、ありがとう緑谷。おかげで……奴の顔が曇った。その両手じゃもう戦いにならねえだろ。終わりにしよう。」
やっぱり焦凍くんは、エンデヴァーさんしか見ていない。私も緑谷くんも、クラスのみんなのことも、もう見えてないんだろう。
焦凍くんの氷結が緑谷くんへと伸びる。ああ、緑谷くん。負ける。
「どこ見てるんだ……!」
「!」
緑谷くんのぼろぼろになった指から再び放たれた爆風。彼もまだ、死んでない。
「何でそこまで……。」
「震えてるよ轟くん。」
「!」
緑谷くん、やっぱり気づいてた。焦凍くんの体には霜が降りている。彼もかなり個性を酷使している証拠だ。
「個性だって身体機能の一つだ。君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう……?で、それって左側の熱を使えば解決できるもんじゃないのか……?」
その通りだ。でも彼はそうしない。エンデヴァーさんを嫌っている彼自身が、左を使うことを阻む。
「皆本気でやってる!勝って目標に近づく為に……っ一番になるために!半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」
緑谷くんは焦凍くんに本気を出させたいのだろうか。いや、救いたいのかもしれない。自分の目を見ないクラスメイトを。
「全力でかかって来い‼」
ぐっと胸が詰まる。先ほどの出来事を思い出していたのか、爆豪くんと目が合った気がした。
「何のつもりだ。全力……?クソ親父に金でも握らされたか……?イラつくな……!」
必死で呼びかけてくれる友達の声も、もう彼には聞こえないのか。
再び近距離に持っていこうとする焦凍くん。でも彼も限界だ。さっきよりも動きが鈍くなってる。逆に緑谷くんに距離を縮められ、一撃を食らわされた。
「轟に一発入れたぜ!?」
「緑谷やるじゃん!」
客席は盛り上がってる。けど私はしゃべることができなかった。一つも零さず、2人を見ていたかった。
折れた指に再び力を込めて、焦凍くんに攻撃を仕掛け続ける緑谷くん。どうして。どうしてそこまでできるんだろう。絶対痛いはずなのに。
この前まで他人だったよく知らないクラスメイトのために、ここまでしてるというのか。隣にいたはずの私は今こんなに遠くにいるのに。
「何でそこまで……。」
「期待に応えたいんだ……!笑って応えられるような、カッコイイ人に……なりたいんだ‼」
緑谷くんの咆哮が、会場に響く。
「だから全力で!やってんだ皆!」
頭突きで突進していった彼が焦凍くんの体を吹き飛ばす。必死さのない自分にも緑谷くんの言葉がざくりと刺さった。
「君の境遇も、君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない……でも。全力も出さないで一番になって完全否定なんて、フザけるなって今は思ってる!」
焦凍くんがこうなってしまったのは彼の境遇を考えると当然だ。だから再会しても何も言えなかった。いや、また拒絶されるのが怖かっただけだ。背中を向けられた以上、自分にできることは何もないと近づかなかった。こんな風に正面から向き合おうとしたことなんてない。
「うるせえ……。」
パキパキと音が鳴る。だけど彼が放とうとしている氷は、右が震えて出せなかった。
「だから……僕が勝つ‼君を超えてっ‼」
再び緑谷くんの一撃が焦凍くんのお腹に入る。
私が勇気を出せて居たら、きっと焦凍くんは今こんなにぼろぼろじゃなかった。心も体も。私が果たせなかった約束のせいで、あんなに眩しかった笑顔が消えてしまった。
「俺は、親父を―……。」
「君の‼力じゃないか‼」
頭を、鈍器で殴られたような強い衝撃。
それを聞くまで意識したこともなかったけれど、確かにずっと欲しかった言葉。一気に会場に熱が広がる。焦凍くんの炎がぴりと頬を掠めた。
「なまえ!?」
「え……。」
驚いた響香の顔がぼやけている。そこで初めて自分が泣いていることに気がついた。何だこれ。止まらない。
「ごめ、何でだろ……。っ大丈夫、ちょっと外すね。出番までには、戻る。」
「ちょ、なまえ!?」
制止を聞かずに会場を後にする。幸いみんな緑谷くんたちに夢中で気づいていなかったためみんなには内緒で、とだけ文章を打っておいた。ごめん響香。