体育祭
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焦凍くんほど厳しく強いられていたわけではない。劇的な何かがあったわけではない。ただ日常的に、少しずつ恐怖を植えつけられ、選択を狭められていたように思う。
知らない内にじわじわと退路を断たれていた。気づけば引き返せないところまで自分の意思を持たずに来てしまった。
巧妙だ、と思った。
『注目の五回戦!見た目もど派手なアシッドガール‼ヒーロー科芦戸三奈‼対相手を蹴散らす風雲使い‼同じくヒーロー科みょうじなまえ‼』
変な紹介された。ひざしくん実況独特だからなあ。
「ふう。」
大きく息を吐く。さっきのことは一旦、忘れる。考えなくちゃいけないのはわかってるけど今は余裕がない。答えを見つけるためにも目の前のことに集中するしかない。そう言い聞かせないと崩れてしまいそうだった。
「なまえ、恨みっこなしだよ!」
「もちろん、私も負けない。」
『レディイイSTART!!!』
始まりの合図が鳴る。三奈ちゃんの得意は近接だ。近づくわけにはいかない。風を起こして場外。これ以外ない。
「そう来るよね、知ってた!」
風向きの焦点を三奈ちゃんに当てようとしたけれど、ひょいと躱される。やっぱ身軽だな。
「こっちもいくよー!」
ピンク色の酸が飛んでくる。慌てて後ろに下がって距離をとる。
「っ飛距離伸びてない?」
「そりゃ、頑張ったもんね!」
体育祭までに三奈ちゃんも個性伸ばしてる。これは地面にいるの不利だ。風で体を浮かせて空中に上がる。
「それずるい!でも、こっちにも手だしにくいよね?」
さっきも躱されたし、私の風対策は何か考えてあるんだろう。体の使い方が上手い三奈ちゃんを何とか場外まで押し出したい。
ふと下を見ると地面には先ほど三奈ちゃんが放った酸が散らばっている。
「……!」
よし、これで行こう。
「下りてこーい!」
再び上に放たれる酸。私はぎりぎり当たらないくらいの距離で、彼女から逃げ回っている。
『どうしたみょうじ――!?特に攻撃を仕掛けるわけでもなくステージ内を空中浮遊だ―‼逃げ回るだけじゃ勝てね――ぞ‼』
わかってます。ちらりと下を見るといい具合に濡れている。こんなもんかな。
「わ!?」
逃げるのをやめて、先ほどと同じように三奈ちゃんに風を放つ。
「だから、これ!さっきもやったってえ!あ!?」
バク転で身を躱そうとした彼女の手が、つるりと滑った。よし。
『おお!?芦戸、自らの酸で滑ったあーー!!?みょうじはこれ狙ってたんかよ‼』
体勢を崩してこけてしまった彼女を、風圧で場外へと吹き飛ばす。ステージ内はまんべんなく濡れていて、より滑りやすくなっているはずだ。
『酸で湿らせたステージをうまく利用しみょうじ勝利―――‼』
「芦戸さん場外!みょうじさん二回戦進出‼」
よかった。うまくいった。
「三奈ちゃんごめん、大丈夫?」
「うあー、負けた!なまえつよーい!」
彼女の体を起こす。酸で少し溶けてしまっている体操着を見て、申し訳なく思った。
「次、負けないよ!」
「うん、次も勝つよ。」
しっかりと握手を交わす。会場からは歓声が沸き起こり、ミッドナイト先生は青春のエキスを吸ってくねくねしていた。