体育祭
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心操くんの個性は、プロヒーローたちに称賛された。何もさせずに敵を捕らえられる個性だ。かなり有効。あの入試じゃなければ、確実に彼もここにいた。
二回戦は瀬呂くんと焦凍くん。あまり接点のない2人。どんな戦い方をするのか楽しみだ。どっち応援するか迷うなあ。
「まァー勝てる気はしねーんだけど……。つって負ける気もね――!!!」
うまい瀬呂くん!素早くテープを巻きつけて焦凍くんを捉えた。このまま場外へ押し出せば勝ちだ。と思ったその瞬間。
「悪ィな。」
ものすごい音と同時に会場中に漂う冷気。鼻のすぐ先に、氷。
「ご、ごめん砂糖くん……。ありがと。」
「いいってことよ……。」
焦凍くんが放った氷の威力はいつもの比じゃなくて。氷壁がスタジアムを飛び出してしまっている。砂糖くんが私と響香を咄嗟に後ろへ倒してくなければ多分刺さってた。
何だろう。こんな攻撃の仕方すると思わなかった。焦凍くん、何か怒ってる?
「や……やりすぎだろ……。」
凍らされた本人は寒さで声が震えてる。うん、私もそう思う。瀬呂くんはもちろん行動不能。二回戦は焦凍くんが勝利した。
何とも一瞬で勝敗がついてしまった瀬呂くんに、会場中からどんまいコールが送られる。
氷漬けになった瀬呂くんを助け出すために左を使って溶かしていく焦凍くんの顔は苦しそうで、昼休みの出来事とも相まって切なくなった。
「あ、瀬呂くんお疲れさま。」
「ドンマイ。」
「やめて耳郎。今俺傷心中。」
瀬呂くんが観客席に戻ってきた。現在ステージは氷を乾かし中だ。
「たこ焼き食べます?」
「イタダキマス。」
傷心瀬呂くんに出店で買ってきたものを渡すと勢いよく食べ始めた。悔しさを糧にしてる感じ、良いね。
「みょうじ、俺もいいか。」
「え、障子くんたこ焼き食べるの?」
「……何か言いたげだな。」
「イエ、ナニモ。」
共食いという文字が頭をよぎった。ばれてるみたいだけど口に出してないからセーフ。いやほんとごめん障子くん。
『ステージを渇かして次の対決‼B組からの刺客‼キレイなアレにはトゲがある!?塩崎茨!対スパーキングキリングボーイ!上鳴電気‼』
2人とも遠距離系だ。どうなるかなあ。
「体育祭終わったら飯とかどうよ?俺でよけりゃ慰めるよ。」
上鳴くんまたナンパしてる。あと結構感じ悪い。モテないよ。
「多分この勝負、一瞬で終わっから。」
本当に一瞬で終わった。上鳴くんの負けで。
『瞬殺‼あえてもう一度言おう!瞬・殺!!!』
やめてあげて。上鳴くん吊るし上げられて作画アホになってるし。
塩崎さんはツルで自分自身を覆って放電から身を守った。彼女の個性便利だなあ。防御と同時に拘束もできる。
「そろそろ行ってくるね。」
「お、頑張れよ。」
「緊張する……。」
「芦戸の顔見りゃほぐれるんじゃねえ?」
「それは言えてる。」
砂糖くん、瀬呂くん、響香の応援を受けて、控室に向かう。このあと発目さんと飯田くんかあ。見たかったな。
控室に行く途中。ひんやりとした廊下で今あまり会いたくない人に会った。
「……お久しぶりです、エンデヴァーさん。」
「ああ、元気にしていたようだな。何よりだ。」
フレイムヒーロー。昔から私はこの人が苦手だ。偶然とはいえお昼に改めて焦凍くんから話を聞いたのもあって、さらに苦手意識は高まっていた。
「予選見事だった。うまく個性を使えている。」
「あ、ありがとうございます。」
「あれも……焦凍も、すぐに左を使いこなしてオールマイトを超えるヒーローになるだろう。あいつはそのために生まれた、最高傑作だからな。」
やめて。それで苦しんでいる焦凍くんの顔を、エンデヴァーさんは見てくれない。昔からずっと。
「……そんな言い方、やめてください。」
「む。」
「焦凍くんは、焦凍くんだけのものです。あなたのものじゃない。」
……あれ?
「彼のなりたいものは彼が決める。」
何だ。
「彼だけの将来を選ぶ権利があるんです。」
息が、できない。
『なまえ、そんなに痛くなかっただろう。立ちなさい。』
『ヒーローは泣いてはいけないよ。』
『助けを求める手があるのなら、自分を犠牲にしてでも優先すること。それがヒーローなんだ。』
唐突に思い起こされる父とのこれまで。焦凍くんのように、厳しく怒られたことなどなかった。優しく気高い、最愛の父。それなのに何故、今目の前に立ちふさがる男と重なる。
そういえば私、何でヒーローを目指すことになったんだっけ。
「……直にそんな甘えたことは言えなくなる。今は試合に向かう途中だろう。失礼する。」
「え、あ。私も、失礼します……。」
エンデヴァーさんの背中を呆然と見送る。
これまでされてきたこと、言われてきたこと。何故か次々に思い起こされる。どうして今気づいてしまうんだ。どうして。
向き合わなきゃいけないものが、すぐそこに迫っていた。