体育祭
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『一回戦‼成績の割に何だその顔ヒーロー科緑谷出久‼対ごめんまだ目立つ活躍なし!普通科心操人使‼』
結構失礼な実況だなあ。ひざしくんらしい。あの紫の人、心操くんていうのか。
『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする。あとは参ったとか言わせても勝ちのガチンコだ‼ケガ上等‼こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから‼道徳倫理は一旦捨ておけ‼』
無茶苦茶やっても大丈夫ってことか。えげつないな雄英。
『だがまあもちろん命に関わるよーなのはクソだぜ‼アウト!ヒーローは敵を捕まえるために拳を振るうのだ!』
とってつけたように言ったけど、要は殺さなきゃなにしてもいいってことだ。だけどこのギャラリー。ヒーローらしからぬ行為をすれば一気にブーイングだろうな。
「みょうじ、禁断の果実しかと受け取った。」
「ん、ああ。上鳴くんたち渡してくれたんだ。」
私は観客席で響香と並んで唐揚げを食べている。もちろんちゃんと服は着替えてきた。髪も落ち着かないので下ろした。
「本当はもっと買いたかったんだけど、ちょっと荷物が多すぎて……。」
「十分だ。ダークシャドウの分までもらってしまってすまない。」
「いいんだよ。2人のおかげで本選出られるんだから。ありがとう。」
「ウマイウマイ!リンゴアリガトー!」
「うーんめっちゃ可愛い。」
よしよしとダークシャドウくんを撫でるとさらに喜んでくれた。可愛すぎる。
「たくさんあるからみんなも食べてね、百ちゃんも。」
「わ、私もよろしいのですか?」
彼女の目がきらきらと輝く。食べたことないって言ってたもんなあ。なるべく出店っぽいチョイスで箸巻きを渡す。
「……!これはなんともジャンキーな!」
「ふふ、おいしい?」
「ええ、あまり食べたことない味がします……!」
それはおいしいんだろうか。まあ喜んでくれてるのならよかった、のかな?
「あ、緑谷始まるよ。」
「見る見る。」
心操くんが戦ってるのを見るのは初めてだ。恐らく洗脳系の個性なんだろうけど何が発動条件なんだろ。
『そんじゃ早速始めよか‼レディイイイイイSTART‼』
あれ。どうした。試合開始したばっかなのに緑谷くんが動かなくなった。
『緑谷完全停止!?アホ面でビクともしねえ‼心操の個性か!!?』
「ああ緑谷折角忠告したってのに‼」
「え、どういうこと?」
「奴の個性だよ。呼びかけに答えると洗脳される。」
「しょ、初見殺し。」
尾白くんが頭を抱える。ひざしくんの実況でかき消されたけどきっとあの時何かを言われたんだ。そして答えてしまった。ぴくりとも動かなくなった緑谷くんを、みんな心配そうに見つめる。
『だからあの入試は合理的じゃねえって言ったんだ。』
『ん?何?』
あ、消太くん久々にしゃべった。
『心操あいつヒーロー科実技試験で落ちてる。普通科も受けてたのを見ると想定済みだったんだろう。あいつの個性は相当に強力なものだが、あの入試内容じゃそりゃポイント稼げねえよ。』
そうか。心操くんの個性は対人限定なんだ。物には効かない。だから仮想敵相手の試験じゃ成績は取れない。
「振りむいてそのまま、場外まで歩いて行け。」
心操くんの言葉通り、緑谷くんは反対を向いて歩き始める。このままだと確実に負ける。
「ねえ、これどうにかなんないの!?」
「何か攻略とかあれば……。」
「攻略は、なくはない。けど……。」
響香との会話に尾白くんが説明してくれる。どうやら衝撃があれば洗脳は解けるらしい。でも今は一対一。衝撃なんて、あるはずが……。
「!?」
突然緑谷くんに風が吹く。
『これは……緑谷‼とどまったああ!!?』
急に正気に戻った緑谷くん。え、指折れてない?
「力暴発させて無理矢理洗脳解いた……?」
「すげえ無茶を……!」
尾白くんと一緒に息を呑んだ。本当、彼の行動には舌を巻く。目覚ますために普通自分の指折れる?腫れあがっている箇所は変色していて痛々しい。
「指動かすだけでそんな威力か。羨ましいよ。俺はこんな個性のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ。」
心操くんの言葉が、胸を抉る。父のこの個性で何の目標もない私が彼の居場所を奪った。
「誂え向きの個性に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ‼」
直視できなくて目を逸らす。自分に言われているわけではないのに、ぐさぐさとナイフで刺されているように痛かった。
「んぬああああ!!!」
「心操くん場外‼緑谷くん、二回戦進出‼」
最後、見られなかった。どうやら心操くんは負けてしまったらしい。取っ組み合いになったようで緑谷くんは怪我をしている。
「心操くんは、何でヒーローに……。」
「憧れちまったもんは仕方ないだろ。」
緑谷くんからの問いかけに心操くんは寂しく答えた。
ヒーローに対しての、憧れ。普通科の彼が持っていてヒーロー科の私が持っていないもの。悔しさを滲ませる彼が、たまらなく羨ましかった。