体育祭
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『一時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!オイイレイザーヘッド飯行こうぜ!』
仲良しだな。やっとお昼だ。すでにかなり疲れた。
「飯田くんあんな超必持ってたのズルいや!」
「ほんとまんまとやられちゃった。」
お茶子ちゃんと一緒に飯田くんに詰め寄ると彼は心外といった様子で言い返す。
「ズルとは何だ‼あれはただの誤った使用法だ!」
「それ、いいの……?」
「ウエ~~イ。」
会話に入ってきた上鳴くんはウェイしか言わなくなっていた。これが噂のアホ状態か。初めて見た。
「なまえ、お昼どうする?」
「あ、お手洗い行くから先に席とってもらってても大丈夫?」
「おっけ。」
響香たちと一旦別れてトイレに向かう。えっとここから近いのどこだっけ。
あれ、あそこにいるの爆豪くん。うーん、さっき騎馬戦で吹き飛ばしちゃったからなあ。怖いけど謝っとこう。
「爆豪く、」
「オールマイトの隠し子か何かか?」
「!」
焦凍くんの声。誰かと話してる。私に気づいた爆豪くんと目が合った。
「違うよそれは……。って言ってももし本当にそれ……隠し子だったら違うっていうに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて……。」
焦凍くんと一緒にいるの、緑谷くんか。ずっと向かい合わせなのも居心地が悪くて何となく爆豪くんの隣に身を隠す。
「そんなんじゃなくてって言い方は、少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな。」
やっぱり緑谷くん、オールマイトと何かあるのかな。彼の持つ気迫もちょっとオールマイトに似ている部分がある。
「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ。」
「!」
焦凍くんの言わんとしていることが、何となくわかった。さっき左を使ってしまったのもあってきっとかなり追い詰められてるんだろう。思わず胸が苦しくなって俯く。爆豪くんが睨むように横目でこちらを見ていた。
「万年No.2のヒーローだ。お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は……なおさら勝たなきゃいけねえ。」
結局、焦凍くんもエンデヴァーさんと同じ道を辿ってる。同じ憎しみの目で世界を映している。私にはそれが悲しくてたまらない。
「個性婚。知ってるよな。」
そこまで話すのか。よっぽど緑谷くんに追いつめられてるんだ。
「自身の個性をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び、結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想。実績と金だけはある男だ。親父は母を丸め込み、母の個性を手に入れた。」
焦凍くんのお母さん。冷さん。小さい頃焦凍くんとよく遊んでた時期に何度か会ったことがある。個性とは反対に、柔らかく温かい笑顔の人。
「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。うっとうしい……!そんな屑の道具にはならねえ。」
手が震える。何だか立っていられなくてその場にしゃがみ込んだ。
「記憶の中の母はいつも泣いている……。お前の左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた。」
ぎゅっと自分の肩を抱く。爆豪くんは、じっと何も言わなかった。
「ざっと話したが俺がおまえにつっかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや、使わず一番になることで、奴を完全否定する。」
胸が張り裂けそうだった。幼い頃身近に起こった遠い世界のような話。でもそれは彼にとって現実だ。そして私は助けを求めていたはずの彼の手を取ることができなかった。今も彼に近づくことすらできず、こんなところで縮こまっている。
「僕は……ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は、誰かに助けられてここにいる。」
去って行こうとする焦凍くんの背中に、緑谷くんが語りかける。
「オールマイト……彼のようになりたい。そのためには1番になるくらい強くならなきゃいけない。君に比べたらささいな動機かもしれない……。でも僕だって負けてらんない。僕を救けてくれた人たちに、応えるためにも……!さっき受けた宣戦布告。改めて僕からも……。」
やっぱり緑谷くんは強い。ブレない思いが、いつも私を揺さぶる。
「僕も君に勝つ!」
そんな風に言えていたなら、あの日の彼を救えただろうか。