入試
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「本当について行かなくて大丈夫?」
「平気だよ、ここまでで十分。」
雄英入試当日の朝。私はこれから受験会場に向かう。
母は少し心配気味で、雄英の門まで送ると言ってくれたけれど丁重に断る。車で行くような距離じゃないし、手を煩わせるのも気が引ける。
「推薦、受けても良かったのよ?」
「もう、その話は大丈夫だよ。お父さんも一般受けてほしそうだったし。」
「でも、」
「それに私も、雄英の入試には興味あるし。ね、だから大丈夫。」
「……そうね、もう当日だし今さら言っても仕方ないわよね。」
「そういうこと!じゃあ、いってきます。」
「いってらっしゃい。頑張ってね。」
何とか納得してもらって玄関の扉を閉める。うー、寒い。手袋すればよかったかな。
父は半年前に死んだ。
ショッピングモール内で敵によるテロが起きた。すぐにNo.4ヒーローである父が駆けつけ、サイドキックたちと共に制圧を図った。他の事務所のプロヒーローたちも協力してくれ、避難誘導も問題なかった。
けれど敵は拘束される前に突然自爆した。それだけなら恐らく父は死ななかっただろう。爆発の寸前、恐怖で動けなくなっている逃げ遅れた子どもが父の視界に入った。咄嗟に子どもの盾になるよう覆いかぶさり、父は案外あっけなく終わりを迎えた。
200人以上の来場客がいた中で、死んだのは自爆した敵のボスと父だけだった。人質全員を守り抜き子どもを庇って死んだ父は、ヒーローにとって最高の最期だと称賛された。立派であったと、警察の人からも聞いた。
父が死んだと知らされてから今日まで一度も涙は出ていない。
葬式や通夜では気丈に振る舞う私の姿をさすがヒーローの娘だと美談にされたけれど、自分でも戸惑うほどに私の涙は枯れていた。父の最後の日は私の誕生日で、悲嘆にくれるには十分すぎるほどだったというのに。確かに悲しいという気持ちと喪失感はあるけど、一向に涙が出る気配はない。
衝撃的な出来事をうまく呑み込めずにいるのか、自分という人間が思いのほか薄情だったのか。
学校からの推薦は、亡き父の意向を汲んで断った。自分のレベルを測るためにも一般入試で受験した方がいいと前々から言われており、その旨を伝えると案外先生たちもあっさり引き下がってくれた。
「……人多いな。」
さすが雄英。受験人数が半端じゃない。急に緊張してきた。
落ち着け、大丈夫。ふう、と白い息を吐いて敷地内へと足を踏み入れた。
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