USJ
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
幸いなことに、あれ以降敵は出なかった。あまりにも道のりが簡単で若干拍子抜けだ。
さっき入り口から見えた船。あの近くに敵のボスがいるはずだ。あの、手の人。
「あ、もとの場所帰ってこられ……。」
「?どうかし……た……。」
眼前に広がるのは絶望的光景。脳みそ剥き出しの大きな何かに今にも潰されそうな大好きな人。
「っ消太くん!!!!」
「みょうじさん!?」
脇目も振らずに突っ込んでいく。何これ。何これ。消太くん、腕、腕を折られて。
体が熱い。何も聞こえない。嫌だ。嫌だ嫌だ。死なないで。お願い消太くん。
自分の最大風力で敵を吹き飛ばす。こんなに強い風が出せるなんて今の今まで知らなかった。巨体が壁に沈んだ姿が遠くに見えてすぐさまぼろぼろの消太くんに駆け寄る。
「消太くん!消太くん……!」
「だい、じょうぶだ……。それよりはや、く、逃げろ。」
「え、」
状況も分からず叫ぶだけの私に消太くんが視線で促す。振り向くと沈めたはずの敵の姿。目の前にあったのは大きな、拳。
「ひ、」
ひゅ、と喉の奥が鳴ったのがわかった。すんでのところでなんとか拳の軌道をずらす。反射で手が動いてよかった。
だけどまずい、ここだと消太くんに当たる。考えろ。考えろ。私の力じゃこいつに勝てない。最大風力でもすぐに復活されたんだ。私ができるのはせいぜい風で足止めしてみんなのところに行かせないようにすることくらいだ。
足をピンポイントで狙って相手がバランスを崩したところで素早く空中へと飛ぶ。無理やりこけさせてありったけの風力で上から叩きつけその巨体が動くのを阻んだ。お願い、動かないで。
やばい。頭がくらくらする。当たり前だ。戦闘訓練よりもはるかに個性を使ってるんだから。何とか、何とか意識を保たなくては。みんなが、消太くんが死んじゃう。
他のことを気にしている余裕なんてないのに、視界の端で嫌な空気がぞわりと動いた。
「っ梅雨ちゃん!!!」
おそらく親玉であろう敵の手が彼女の小さな顔に伸びた。やめてやめてやめて。咄嗟に2人の間に風を飛ばす。
「みょうじさん!前!!」
「あ、」
力を分散させてしまった。先ほどまで押さえつけていたはずの巨体がもう目の前に、いる。速すぎる。せっかく緑谷くんが教えてくれたのに全然反応できそうにない。
「っ、あああ……!」
「みょうじさん!!!」
脳が割れたかと思った。なに、これ。痛い。今、私どうなってる……?地面に叩きつけられた?痛い。どうしよう、攻撃が来る。はやく、はやく立たなきゃ。
頭がガンガンと痛んで思考を邪魔する。
「いっ!」
必死で動かそうとすれば右足に激痛。何だこれ。もしかして折れてる……?というか、地面赤。これ私の血?右手も動かない。何で。
もしかして右半身全部、イかれてるのか。
「っとになあ……。むかつくんだよなァ。ヒーローも。子どもも。」
手だらけ敵が近づいてくる。ひたりひたりと足音がこっちにくるのがわかるのに、痛みで意識を飛ばさないようにするのが精一杯だ。
先ほど梅雨ちゃんに伸びた不気味な手。触れられるわけにはいかない。あれはきっと、触れちゃいけないやつ。それなのに。
無情にも、その手は私の首を捕らえる。嫌だ。死にたくない。
「本っ当、かっこいいぜイレイザーヘッド。」
私を掴んだ敵がにやりと口角を上げた。消太くんの、抹消。
応えなきゃ。あんなぼろぼろの消太くんが私たちを守ろうとしてくれてるんだ。応えろ。動け。
左手で敵を振り払い残りの力を振り絞って風を起こす。とにかく距離を取らなきゃ。
「……う、あ……!」
それでもいつもの半分以下しか威力がでない。大して体を浮かせられない。激痛で目の前が霞む。
嘲笑うかのように敵のボスの後ろから出てきたのは、さっきの脳みそ敵。
「なまえちゃん!避けて!」
梅雨ちゃんの声。上から振り下ろされる拳が見えた。逃げたいのに、逃げなきゃいけないのに。体は全く言うことを聞いてくれない。あ、駄目だ。死ぬ。
諦めて目を閉じたけれどいつまでたっても衝撃はこなくて。死ぬと痛覚もなくなるんだろうかとぼんやり考えていたら、違った。
「オー、ル、マイ、ト……。」
「もう大丈夫。私が来た!」
ああよかった。これでみんな助かる。全身の力が抜けて頭がふわりとぼやけていく。
オールマイトの手、温かい。大きな体に安心して私は意識を失った。