番外編
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食堂結構混んでるな。いつものように回原・泡瀬・円場と一緒に空いてる席を探す。よさげなところが見つかったので俺と回原は先に注文しに行くことにした。
「今日の日替わりサバみそ定食か、いいな。」
「俺カレーにするわ。」
「わかった。じゃああとでな。」
「おう。」
それぞれの受け取りカウンターに向かうため、一旦別れる。定食の列は結構伸びていて、俺もそこに大人しく並んだ。列と言っても結構ばらばらだ。きちんと一列になっているわけじゃない。なんとなくその辺に人が集まっている、という程度。まあ別に急いでもないしなと思いながらちょこちょこ抜かされる。
そういや次の演習取蔭とだっけ。厄介なんだよなあいつ。ぼんやり授業のことを考えていた。それがいけなかったらしい。何も気づかず目の前に来たトレイに手を出すと、横からは綺麗な手がすでに伸びていた。
「あ、悪い。」
俺に気づいた彼女は驚いた顔でこちらを見た。慌ててそのトレイから手を離す。
「や、そっちの方が早かったよ。どうぞ。」
「いや……。」
明らかにそっちの方が早かっただろ、という言葉をぐっと飲みこむ。目の前の彼女はあまりにも絵にかいたような完璧な物腰で、あとから手を付けた俺に定食を譲ってくれようとしていた。
体育祭3位の実績を持つ元No.4プロヒーローの娘。これだけでもかなり有名になれそうな要素を持つ彼女は、その容姿もずば抜けている。みょうじなまえ。B組でもお近づきになりたいと男子が話しているのを聞いたことがある。円場や回原もその一人だ。
確かにすごく可愛い。整っているのはもちろんだが、どこかふんわりとした雰囲気で近寄り難さがない。これで強いっていうんだから困った話だろう。こちらが格好つかない。
俺も向こうも譲らず、しばらくどうぞどうぞの問答が続いた。若干意地になってたかもしれない。結局段々後ろに人が並んできたことに気づいたらしい彼女が根負けして受け取ってくれた。
「じゃあ遠慮なく。ありがとう、鱗くん。」
「え、」
はっきりと彼女の口から紡がれたのは、俺の名前。
「あれ?鱗飛竜くんであってる?」
「あ、ああ……。別に気にしなくていいよ。俺のももう来たし。」
フルネーム。いまいち理解が追いつかなくて、うまく返事ができない。ちょうど自分の前に来たトレイを見せて慌てて取り繕った。その後またありがとうと笑って去って行く背中を見送る。名前、知ってた。なんで。急に顔が熱くなった気がした。
馬鹿か。同じヒーロー科だから覚えられてただけだ。ここにいるのが俺じゃなくても、きっと彼女は名前を呼んでた。先に受け取って一部始終を見ていたらしい回原が飛んでくる。
「今みょうじさんと話してなかったか!?」
「あ、ああ。ぼーっとしてたら同じトレイ取っちゃってさ。横取りすんのも申し訳ねえから譲った。そんだけ。」
「お、おま、お前……!クソッ、羨ましい!」
「なんでだよ。」
理不尽にキレられた。多分これ席に戻っても罵られるやつだな。遠くから「さっきB組の人と話してなかった!?」という声が聞こえる。ちらりとそちらを見ると、先ほどの彼女が何でもないみたいに話していた。ほらやっぱり。名前を知ってたのは偶然だ。思わずため息を吐く。
これまでそんなに意識していなかったのに、名前を呼ばれた程度で浮かれてしまっている。なんだか彼女の顔が離れない。俺はこんなにチョロかっただろうか。いまだうるさい隣の回原を躱しながら、昼食を食べるために席に戻った。
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