ケッコンカッコカリ (長編9頁)
「では、指輪の交換を」
二人の前に差し出された指輪は、なんだかゴツい。
「これ……ナットじゃねーか」
「どこの部品だ?」
手に取って不思議そうに眺める新郎二人。
「間に合わせの仮だ!そこはスルーだろ」
東堂が声を掛けて進行を促す。
ナットの指輪は、二人の指にピッタリだった。
「すげぇ」
「意外とイカスな」
興味深げな新郎二人。
「フン。驚いたか」
得意気な東堂。
「では、誓いのキスを」
「エッ!」
そうだった。
結婚式は誓いのキスがあったのだった。
荒北は焦った。
ファーストキスを、こんな公衆の面前で!
「靖友?」
ジリジリと近付く新開から後ずさって間合いを取る荒北。
荒北の抵抗を察知した部員達は、強行させるために皆で手拍子を始めた。
「キ、ー、ス!はい!キ、ー、ス!はい!キ、ー、ス!はい!」
「てめーらァ!」
真っ赤になって部員達を罵倒する荒北。
新開は笑いながら荒北を捕まえ、強引に唇を奪った。
「んん~~っ!」
ジタバタする荒北。
部員達の歓声と拍手、それからパシャパシャと写メを撮る音が響いた。
「この二人に大いなる祝福を与えたまえ!これで挙式を終わります」
大歓声と拍手の嵐。
スタンディングオベーションの中、大成功で結婚式はエンディングを迎える。
「おめでとう!」
「おめでとうございまぁす!」
「お幸せに!」
クラッカーと紙吹雪で部員達から祝福されながら二人は腕を組んで通路を歩く。
「そォらっ!」
荒北は、ブーケを投げた。
部員達が一斉に手を伸ばして掴もうとする。
元ピッチャーらしい抜群のコントロール。
縦スライダーで投げられたブーケは目的の人物の手にストンと落ちた。
「!!」
ブーケを受け止ったのは、黒田だった。
「黒田ァ!次に幸せになんのはオメーだァ!」
「荒北さん……!」
驚く黒田。
「荒北さん……。荒北さん……。荒北さん。荒北さん!荒北さあぁぁぁん!!お幸せにいぃぃぃ!!うわあぁぁぁん!!うわああああー!!」
「ユキ。オマエ荒北さんのこと……」
「ユキちゃん……」
「黒田さん……」
号泣する黒田を、やっと事情が飲み込めた泉田と葦木場と真波が抱き締めて慰めていた。