ケッコンカッコカリ (長編9頁)





 新開さん 荒北さん
 ケッコンカッコカリ
   おめでとう

 

式場には大きな横断幕が掲げられている。

急拵えなので飾り付けは非常に簡素で、道具も代用品ばかりだ。

 

誰かが体育祭で使うくす玉を設置していたが、東堂に却下され直前で外された。

 

部室内は壁を全て白い布で覆い、真ん中の通路を挟み椅子をズラリと並べた。

 

 

そろそろ時間である。

 

祭壇では神父役の泉田が緊張で震えて直立している。

聖書が無かったので、数学の参考書を手に持ち、表紙にはカンペを貼り付けてある。

 

「そう緊張するな泉田」

「と、東堂さん」

 

東堂が泉田の肩に手を置く。

 

「今日は式だけだからな。なぁに、30分もかからんさ。オマエの台詞だって少ないだろう」

「し、しかし普段言い慣れない台詞なので噛まないか不安で不安で」

「そんな時の為のアンディとフランクとファビアンだろう」

「ハッ!そ、そうでした!」

 

泉田は早速胸筋達と会話を始めた。

 

 

 

 

部員達は皆席に着き、ざわめいている。

 

「爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ……」

 

黒田はずっと呪いの言葉を呟いている。

 

「東堂先輩!ユキちゃんが式場に爆弾を仕掛けたみたいです!」

「なんだとー」

「仕掛けてねーよ!ちくしょおおお!」

「また泣いてます!」

「感動するのはまだ早いぞ黒田ー」

「うがー!」

 

 

 

 

17時。

時間となった。

 

式場は静まりかえる。

 

 

泉田は深呼吸してからゆっくりセリフを言った。

 

「それでは、新開さんと荒北さんの挙式を行います。新郎は入堂してください」

 

 

新開が式場に入ってくる。

 

部員達は拍手で迎えた。

 

新開は泉田の正面に立って微笑む。

 

「泉田、大役ご苦労様。ありがとうな」

「し、新開さん……」

 

今日の新開はいつもより堂々として、一段と美しく輝いている。

 

泉田は感動して涙が頬をつたった。

 

 

 

式場の入口外では、荒北と父親役の福富が待機している。

 

「福ちゃん」

「ム?」

 

荒北は誰かが華道部から分けてもらって作ったブーケを手にし、福富に話しかける。

 

「福ちゃんと出逢ったからオレはチャリ部に入った。だから新開とめぐり逢うことが出来たんだァ。福ちゃんのおかげだ。あんがとネェ」

「荒北……」

 

福富は荒北の両肩に手を置いて言った。

 

「オマエは誰よりも忍耐強く、誰よりも努力家だ。オレが一番知っている。オマエは、強い」

「福ちゃん……」

 

「新開は素晴らしい男だ。オレが保証する。荒北、幸せになるがいい。オマエには幸せになる資格がある」

「福ちゃ……福ちゃああん」

 

荒北は涙が溢れ出した。

 

 

 

「それでは、もう一人の新郎、入堂してください」

 

式場内から泉田の声が聞こえる。

 

「泣くな。さあ行くぞ」

「うん……グスッ」

 

荒北は福富の腕に手を回し、式場内に入った。

 

 

 

バージンロードを歩く荒北と福富。

 

式場内は拍手で迎える。

 

 

祭壇の前で新開が振り向いて微笑んでいる。

 

「新開……」

「靖友」

 

新開が手を差し伸べる。

 

荒北は福富の腕から手を離し、新開の手を取る。

 

祭壇の前に並ぶ二人。

 

 

 

「今、二人が神の祝福を受け、結ばれようとしております」

 

泉田はそつなく進行させる。

 

「新郎、新開隼人よ。汝は富めるときも貧するときも、荒北靖友を愛し、ともに暮らしていくことを誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

新開が答える。

 

「新郎、荒北靖友よ。汝は楽しいときも辛いときも、新開隼人を愛し、ともに歩んでゆくことを誓いますか?」

 

「あァ……いや、はい、誓います」

 

荒北が答える。

 

 

噛まずに言えた!

一番の難所を乗り越え、泉田は大きく息を吐いた。

 

部員達の何人かは既に感動して泣いている。

 

 

「泣いているのか、フク」

 

仲人席で東堂は福富に声を掛ける。

 

「……新開とは永い付き合いだ。荒北はオレが育てた。その二人が結ばれる」

「フク……」

「花嫁の父というのはこういう気持ちなんだな」

「オマエ、いい父親になるよ」

 

東堂は福富にハンカチを差し出した。









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イイネ