ケッコンカッコカリ (長編9頁)
「……以上で説明は終わりだ。式は本日17時より。会場はこの部室だ。全員ジャージ姿で列席。祝儀やプレゼントは後日披露宴の際にまとめる。本日は花束やクラッカー等は各自持ち込みを許可する。急な話なので式場の飾り付けは有志でお願いする」
翌日、東堂は朝練の場で部員達に本日の結婚式の詳細を矢継ぎ早に伝えた。
主役の二人はこの場にいない。
当然、聞かされた部員達は大混乱。
「新開先輩と荒北先輩が?」
「結婚?」
「てか、今日?」
部室はザワつきカオス状態だ。
「荒北さんが……荒北さんが……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
口から魂が抜けかけている黒田に、真波が話し掛ける。
「ねーねー黒田さん!これってつまりリア充ですよね!すげー!リア充かー!黒田さん!オレ身近でリア充って初めて見る!ねーねー黒田さぐえーっ!」
「東堂先輩!ユキちゃんが!ユキちゃんが泣きながら真波の首を絞めてます!」
「何をやっとるかソコー!」
「真波は白目むいて泡吹き出してます!」
「実況しとらんで止めんか葦木場ー!」
「泉田」
「はい!」
福富が泉田を呼ぶ。
「オマエは神父役だ」
「アブっ!ぼ、僕がですか?でも僕そんな知識全く……」
「無事こなしたら、来年の主将はオマエだ」
「えええっ!」
新開と荒北は、今日は朝練には出なくて良いと言われていた。
「それよりも、オマエ達は式までに気持ちをしっかり確認し合っておけ」
福富にそう言われているのだが、二人はあれから全く会話をしていない。
クラスが違うので顔も合わせていない。
当然だが今日は全く授業が頭に入らない。
荒北が休み時間にトイレへ行こうと廊下へ出ると、新開とバッタリ出合った。
「!」
「!」
二人共飛び上がらんばかりに動揺する。
お互い顔が真っ赤だ。
「や、やあ」
「お、おぅ」
二人は固まったまま黙り込む。
気まずくて仕方ない。
しかし、結婚式はもう今夜なのだ。
荒北は居たたまれなくなりダッシュでトイレへ逃げ込んだ。
新開はその姿を目で追ったが、何も言えなかった。
昼休み。
荒北は体育館裏のベンチで昼飯を食べている。
が、食欲が無くてメロンパンを手に持ったままボーッとしている。
「ニャア」
黒猫がやってきて、そのメロンパンにちょっかいを出す。
荒北はメロンパンをちぎって黒猫に与える。
「……なあ、猫。オレ、今日結婚すんだ」
「ニャー」
猫はメロンパンをモシャモシャ食べている。
「好きな相手と結婚出来るんだから幸せなことなんだけどヨ。……なんせ急な話だからまだ全然実感わかなくてヨ」
「好きって……本当?」
いつの間にか背後に新開が立っていた。
「ぅわちゃ!しっ新開!」
真っ赤になって驚く荒北。
新開は荒北の隣に腰を降ろした。
猫にポケットからパワーバーを出して与える。
「嬉しいよ。好きな相手って言ってくれて」
「……」
荒北は耳まで赤く染めて黙り込む。
「寿一に凄く感謝してる。靖友とこれで公認の仲になれるんだから」
「オマエ……いいのかヨ。今夜このまま式挙げて」
新開は頬を赤らめ、ニッコリ笑顔になる。
「靖友と結婚出来るんだ。これ以上嬉しいことは無いよ」
「……男なんだぞオレ。本当にいいのか?」
「男とか女とか関係ないよ。靖友が好きなんだ。靖友以外は考えられない。他は何もいらない」
「……くっそ。恥ずかしいセリフ連発しやがって」
「ね、靖友」
「ンだよ」
新開は荒北の手を取り、その甲にキスをした。
「靖友。オレと結婚して下さい」
「!!」
息を飲む荒北。
「まだプロポーズしてなかったからさ」
新開は笑顔で照れくさそうに言う。
「お……おう。け、結婚してやらぁ。受けて立つぜ」
荒北はしどろもどろで答える。
「なんだよその返事。決闘じゃあるまいし」
「っせ!」
荒北は照れながら新開の手を振りほどいた。
「あー、なんかやっと食欲出てきたわ。昼飯食おう」
荒北が昼飯の入った袋を開けると……。
「ニャー」
黒猫が全てたいらげた後だった。