ケッコンカッコカリ (長編9頁)





「おはよう尽八」

「隼人か。おはよう」

 

朝、東堂が洗面所で顔を洗っていると、新開が入ってきた。

 

「……っ」

 

その後、荒北も入って来たが洗面所の面々を見て一瞬躊躇した様子だった。

 

「おはよう荒北」

「……おはよ、靖友」

「お、おう。……はよ」

 

 

東堂はイラッとして荒北に言う。

 

「朝の挨拶ぐらい元気良くせんか!」

「っせ!朝っぱらから小言聞きたくねーよ」

「……じゃ、お先」

 

新開は手早く洗面を済ませ、出て行く。

その後ろ姿を荒北は目で追い、暫く見つめている。

 

 

「……」

 

そしてその様子を東堂は黙って観察していた。

 

 

 

 

その日の夕食。

食堂でいつものように3年生4人揃って食事している。

東堂は焼き鯖定食、新開はダブルハンバーグ定食、荒北は唐揚げ定食、福富は焼きうどん定食だ。

 

「荒北、新開」

「んあ?」

「なに?」

 

福富が口を開いた。

 

「お前たちここ数日会話が無いが、また喧嘩してるのか?」

「!」

「!」

 

ギョッとする新開と荒北。

 

「レースが近い。そんなことでは困る。仲直りしろ」

「や、やだなぁ福ちゃん。オレたち喧嘩なんかしてねーよ。なあ、新開」

「そ、そうだよ寿一。仲が良過ぎて困るぐらいだ」

「本当か?」

 

福富は訝しむ。

東堂がそこに口を挟んだ。

 

「隼人、いつも荒北と一口ずつ交換していたが最近なぜしない」

「えっ!あ……」

 

新開は指摘されて慌ててハンバーグを一口大に切り分け、荒北に差し出す。

 

「た、食べる?靖友」

「いらねーよ。オマエがいつも交換しようって言うからやってただけで、オレぁ元々他人とシェアする趣味はねーんだ」

 

それを聞いて新開はしょんぼりする。

 

「……ちっ」

 

荒北は自分の唐揚げをひとつ乱暴に新開の皿に投げ入れ、新開の切り分けたハンバーグを奪って食べた。

 

新開はそれを見てホッとして笑顔になる。

 

 

「……」

 

東堂はその様子をじっと観察していた。

 

 

 

 

夕食後、廊下で福富が新開を連れて荒北に声を掛けた。

 

「荒北。風呂行くぞ」

「あ……。オレぁ後で入るわ」

「どうした。早く入らないと混むぞ」

「ちょっと用事あっからァ。最後でいいや」

「そうか」

 

 

「……」

 

東堂はその様子を以下略。

 

 

 

 

 

「いやはや。端で見ているとなんともじれったいものだな」

「なんの話だ?」

 

東堂は福富の部屋に入るなり本題に入った。

 

「隼人と荒北だよ」

「二人がどうした」

 

「あの二人、好き合っているぞ」

「……なに?」

 

福富は東堂の言っている意味が一瞬わからなかった。

 

「男同士だがな。稀によくあるのだよ」

「新開と荒北が?」

 

「だが、見たところまだ何も進展していないようだ。互いに意識し過ぎて避け始めている。恋の初期段階によくある現象だよ。まだ告白もし合っていない。」

「……それは本当なのか?なぜわかった?」

 

東堂は床に座って持論を語り始める。

福富も正面に座って真剣に耳を傾ける。

 

「二人共、オレに巻ちゃんと恋仲なのか?と質問してきた。これは男同士の恋愛についてオレを経験者と見込んで相談したかった証拠だ」

「オマエ巻島と恋仲なのか?」

「だから違うと言ってるだろう!」

 

東堂は憤慨したが、気を取り直して福富に問う。

 

 

「どう思う?フク」

「……」

 

福富は暫く考え込んでから口を開いた。

 

「二人が喧嘩せずに仲良くしてくれるのならそれに越したことはない。オレは二人を応援しよう。結婚すると言うのなら祝儀も出そう」

「早い早い。まだ全くそんな段階ではない」

「東堂」

「なんだ」

 

福富は真剣な顔で聞いた。

 

「男同士だとやはり、産まれる子供も男なのか?」

「フク。困惑しているのならそれなりの表情をせんか」











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