ケッコンカッコカリ (長編9頁)
「それでな、巻ちゃん」
寮の談話室で今夜も東堂は巻島に電話をしている。
その様子を対面のソファーから荒北はずっと眺めていた。
「さっきからずっと返事が無いがどうした巻ちゃん。ん?寝息?そうかいつの間にか寝落ちしていたか。ではおやすみ巻ちゃん。風邪ひくなよ」
ピッ。
電話を切る東堂。
「東堂」
「なんだ荒北」
長電話がやっと終わったので荒北は話し掛けた。
「オマエ、巻島と恋人同士なのか?」
そう聞かれて東堂はしばらく荒北を見つめ、やがて不敵な笑みを浮かべこう言った。
「フン。下衆が」
「ンだとコラ!」
荒北は腰を浮かせて憤慨する。
「ライバルのいない者はこれだから困る。オレと巻ちゃんの関係、それは……」
東堂は両手を広げ、天を仰いで言い放った。
「恋人以上だ!!」
「いやソレわかんねーよ。恋人なの?違うの?」
荒北はイラついて突っ込む。
「ならば言い方を変えよう。オレにとって巻ちゃんは……」
東堂は荒北をビシッと指差して断言した。
「恋人を超えた存在だ!!」
「一緒じゃねーか!!」
荒北はソファーにドサッと腰を沈めて溜め息をつく。
「では逆に聞こう、荒北」
「ンだよ」
東堂はドヤ顔で荒北に問う。
「貴様、フクに毎日福ちゃん福ちゃんと貼り付いているが、フクと恋人同士なのか?」
「なっ……!」
荒北は驚いてソファーから立ち上がり声を荒らげる。
「オレは福ちゃんを男として認めて尊敬してんだ!変な目で見んじゃねー!今度言ったらそのカチューシャ取り上げて窒息死させんぞ!」
興奮する荒北に、東堂は見下すように言う。
「それと同じだよ荒北。オレと巻ちゃんはそういう崇高な関係なのだ。あとそれからオレはカチューシャで呼吸はしていない」
「……ちっ。そうかよ。ンなら用はねェ」
荒北はポケットに手を突っ込み、猫背姿で談話室から出て行った。
「『なら用はない』とはどういう意味だ……?」
東堂は荒北の言ったセリフについて考えていた。
ガチャ。
「ここにいたのか尽八」
荒北と入れ替わりに談話室へ入ってきたのは新開だった。
「オレに何か用か隼人」
「うん。ちょっと聞きたいことがあって」
新開はさっきまで荒北が座っていたソファーに腰を沈めた。
「わっ。温かい」
新開はギョッとして腰を浮かした。
「ついさっきまでそこに荒北が座っていたのだ」
「え?靖友が?」
それを聞いて新開は少し頬を赤らめ、温もりを確かめるようにソファーを手で撫でて座り直した。
「なんだ用とは」
「あ……。ちょっと言いにくいんだけど、怒らないで聞いてくれるか?」
「オレが怒ったことなどあるか?」
「いつも怒って……まぁいいや。あのさ……」
新開は身を乗り出し、少し声を潜めて言った。
「尽八と巻島くんって……付き合ってんのか?」
東堂は新開を指差し、声を張り上げた。
「貴様までそんなことを言うか隼人ォ!!」
「うわあ!怒らないって言ったのに!」
新開は頭を抱えて防御態勢をとる。
「何度説明させれば気がすむのだ!!」
「いやオレ聞いてないし!わ、わかったよ!違うんだな?悪かったよ!だったら別にいいよ」
新開は転びかけながら逃げるように談話室を出て行った。
「なんなのだ!荒北も隼人も同じことを!」
東堂は苛立ったが、ふと共通項に気が付いた。
『ンなら用はねェ』
『だったら別にいいよ』
……これは、もしかして……?
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