お出掛け (長編9頁)★オススメ
店内の自転車コーナーでサイクルグローブを物色する二人。
「ハーフフィンガーだろ?」
「ああ」
様々なメーカーの商品が揃っている。
「……」
新開は、別にグローブなど欲しいわけではない。
ただ単に、荒北とのデートの口実に過ぎなかった。
「やっぱゲル入りだよナ」
荒北は真剣に選んでくれている。
普段から口の悪い男だが、なんだかんだ面倒見が良いのだ。
「……」
そんな荒北がとても愛しく思え、そして同時にとても申し訳なくも思えてきた。
せっかくの休みの日に、付き合わせてしまったからだ。
しかし文句も言わず、不自然な待ち合わせにも突っ込まず、ちゃんと来てくれた。
しかも、約束の時間よりも遥かに早く……。
だからどうしても、期待してしまう。
荒北も自分と同様、1分でも早く二人で会いたかったのでは……と。
「コレ、イイんじゃナァイ?」
中から1種類選んだ荒北。
「え?……ああ。いいね」
「使い勝手良かったら、部で大量に仕入れてもらおうゼ」
「そうだな」
……しまったーっ!
もう決まっちまった!
これで、今日の予定終了じゃないか!
もう終わり?
もうデート終わり?
開店してまだ10分も経ってねー!!
心の中で頭を抱える新開。
今更ながら、デートプランが未熟過ぎたことに気付く。
何か、どうにかもう少し時間を引き延ばしたい。
荒北ともっと長く一緒に居たい。
「い、色!そう、色は何色がいいかな!」
「色?」
苦し紛れにグローブの色まで選ばせようと試みる新開。
赤、青、緑、黄、ピンク、オレンジがあり、ズラリと並べる。
「そうだなァ……」
それでも引き延ばせるのはほんの数分だ。
頼むから、何時間でも悩んでほしい。
不可能な事を願う新開。
「コレだ」
願い虚しく数秒で荒北が選んだ色は……。
「ピンク?」
意外だった。
「オレ、ピンクなんか似合うか?これ女性用じゃね?」
「バァカ。男がピンク着こなすのどんだけ難しいか解ってっか?ピンクはなァ、ホントにイイ男にしか似合わねン……ハッ!」
慌てて口を手で押さえる荒北。
「ウ……」
頬を赤く染め、目が泳ぎ出す。
「靖友……」
荒北にイイ男なんて言ってもらえ、感激して鼓動が速くなる新開。
「り、理由なんかどーだってイイんだヨ!オレはァ!オメーにはピンクが一番似合うって思ってンだ!」
ヤケクソになって叫ぶ荒北。
「うん……。オレ、このピンク買うよ。ありがとう靖友」
「ケッ!」
クルッと新開に背を向ける。
耳まで真っ赤になっているのがわかる。
靖友……。
ああ、靖友。
好きだ。
すごく好きだ。
今、その背中に抱き付きたくてたまらない。
強く、抱き締めたい。
もう……嫌われるかもとか、関係がギクシャクするかもとか、どうだっていい。
この気持ちを、吐き出したい。
おめさんだって、オレのことそんな風に褒めてくれて……。
オレのこと、少なくとも友達以上には、思ってくれてるよな?
好意を、持ってくれてるよな?
そうだろ?
靖友……!
「お決まりですかー?」
「あっはい!」
店員に声を掛けられ、新開の思考は中断された。
「……」
「……」
スポーツ用品店を出て、街なかをあても無くブラブラ歩いている二人。
参ったなぁ……。
この後どうしよう。
他の買い物も思い付かないしなぁ。
映画……?
いや、そんなベタな。
ゲーセン?
いや、オレあまり得意じゃないし。
遊園地?
いや、もっと大勢で行くものだよな。
一生懸命考えている新開。
冷や汗が流れてくる。
早く、早く何かプランを……!
「そっ、そうだ!靖友!昼メシ食おう!」
「30分前に朝メシ食った。しかもオメーは2度もだ」
「靖友、酢豚、食いたいのかな、って……」
「酢豚の話は忘れろ」
「……」
「……」
この後どうして良いかわからないのは、荒北も同じだった。
二人は再びブラブラと歩き続ける。
しかし、駅とは逆方向に進んでいることに、お互い気付いていた。
そのことが、嬉しかった。
まだ帰りたくない ──。
思いは同じだ。
二人とも、そう確信していた。