ただ甘えたいだけ (短編2頁)
『なんショ。もう寝るとこっショ』
巻島が出た。
「やあ巻ちゃん!隼人が聞きたい事があるそうなのだ!代わるぞ!」
「え?オレが聞くの?」
『は?新開が?おい!』
新開と交代する。
「夜分にすまないね裕介くん」
『何事っショ』
「なんで尽八にヤらせてあげないんだい?」
ブツッ!
ツー、ツー、ツー……。
「切られた」
「さもありなん!!」
頭を抱える東堂。
もう一度コールするが、巻島は出てくれない。
「オレのスマホでかけるよ」
新開がかけ直す。
『他人のプライバシーに口挟むなっショ』
電話に出る巻島。
「わからないんだよ!靖友もヤらせてくれないんだ!教えてくれ裕介くん!何がいけないんだい?」
『……箱学ってFラン高校だったっけ?』
「ベタベタはしてくれるのに、ヤるのはダメらしいんだ。恋人同士なのにこれはどう解釈したらいいんだい?」
『東堂もおたくも全く人の都合考えねーのな』
「嫌われてんのかな?もしかして捨てられる前兆なのかな?」
『聞けっショ人の話を』
「靖友にフられたらオレ、オレ、生きていけない……」
『あーもう!!』
根負けする巻島。
『これだから攻めは!単細胞ばかりっショ!受けの気持ちなんか全くわかっちゃいねぇ!』
「裕介くん……」
『あのな!恋人同士だからってヤるだけが能じゃないっショ!恋人に求めてんのは安らぎっショ!安らぎ!』
「安らぎ……?」
『触れ合って、ぬくもりを感じるだけで幸せっショ。ずっとこうしていたい、もっと甘えていたい、髪を優しく撫でてもらいたい、このまま眠ってしまいたい。……そんな安らいだ時間を、好きな相手と過ごしたいっショ』
「……」
『付き合い始めの頃はそりゃ性欲も盛んっショ。だけどそれを越えたら、恋から愛にランクアップするっショ』
「恋から愛に……」
『それが安らぎっショ。捨てられるとか嫌われてるとか、とんでもねぇ。おたくと荒北は、次の段階にステップアップしたってことっショ』
「ステップアップ……!」
『わかったら、荒北をもっと大事にしてやるんだな』
「そうか……わかったよ。ありがとう!ありがとう裕介くん!」
希望の光が差す新開。
『用が済んだなら東堂と代わってくれっショ』
「ああ!尽八!代わってくれって」
「おお、そうか」
東堂と交代する。
新開はすっかり機嫌を良くして談話室を出て行った。
「すまんね巻ちゃん」
『尽八……』
巻島はドスの利いた低い声で話し出す。
『オマエ……オレ達の事、どこまで喋ってんだ』
「え?いや、その……」
『なんでもかんでも赤裸々にバラしてんじゃねーぞ』
「い、いや、これはだな巻ちゃん……」
『オマエとは終わりだ。二度と会わねぇ』
「まっ!巻ちゃん?巻……!」
ブツッ!
ツー、ツー、ツー……。
「ぬおーーーーっ!!」
翌日。
荒北の部屋を訪れる新開。
「靖友!」
「……」
新開は満面の笑みで両手を広げる。
「ほら!おいで靖友!頭撫でてやるから!」
「……」
荒北は警戒している。
しかし、やがて頬を赤らめ、はにかみながら新開の胸へ飛び込んだ。
ぎゅっ。
抱き締め合う二人。
「好き……いや、愛してるよ靖友……」
「……」
新開は荒北の頭を優しく撫でた。
心地好さそうにしている荒北。
新開の肩に顔をうずめる。
「靖友と……ずっとこうしていたい。この先もずっと、何年も何年もずっと……」
「……ウン」
荒北は腕に力をこめて、更に抱き締めた。
……ムク。
……ムクムク。
ムクムクムクムク!!
バッ!と弾けるように新開から飛び退ける荒北。
「勃ってンじゃねーか!!」
「勃つよ!しょーがないだろ!ヤりたくてヤりたくてたまんねーんだよ!!」
「出てけ!」
「嫌だ!今日こそはヤらせてもらうからな!」
「っざけンな!」
「どっちがだよ!もう逃がさねー!」
「離せ!離せェ!」
「靖友おぉぉ!!」
新開にはまだステップアップは無理だった ──。
おしまい