運命のグラス (長編11頁)★オススメ





少し落ち着いた荒北は、体勢が悪いので一度新開から離れ椅子に座り直し、新開の腰に手をまわして抱き付いた。

新開の腹の辺りに頭を乗せ、新開が髪を指で優しくすいてくれるのを心地好く感じていた。

犬か猫になった気分で、このまま眠ってしまいそうだ。

 

「大学入ってからさ、靖友に会いたい時に会えなくなって、寂しくて寂しくて、会いたい会いたいっていつも思ってて」

 

新開は荒北の髪を撫でながら語り出す。

 

「気付いたらビアンキって店に応募してて、採用されて。ビアンキで働いてるのに靖友はいないし。余計に会いたくて会いたくて。一度連絡して呑みに来てもらおうと思って。だけどおめさんに直接言っても『ハァ?メンドクセェ』とか言われそうだったから、尽八に連絡して。尽八なら何も言わなくてもきっと靖友誘って来てくれるだろうって期待して。詳しいこと言わずに酒場でバイト始めたって曖昧な言い方にしておけば、おめさんのことだからきっと心配して来てくれるだろうって計算して」

「……バァカ」

 

まさかそこまで計算していたとは思わなかった。

果たして新開の思惑通り、荒北はビアンキを訪れたのだ。

 

「キャバクラの呼び込みやってると思ったんだって?」

「っせ。余計なことまで言いやがって東堂のヤツ殺す」

「だけど、次の週にまたおめさん来てくれるとは思ってなかったなぁ。あれはホントに嬉しかった」

 

確かにあの時の新開の喜びようは凄かった。

 

「おめさんを絶対繋ぎ止めたくて。毎週会いたくて。おめさんの優しさにつけこんで。心配させるようなこと言って……ごめんな」

「まんまとオメーの策略通りだヨ」

「靖友が毎週来てくれることになって、夢みたいだった。毎週毎週バイト行くの楽しみで。テンション上がって。ずっとこれが続いてほしいって思ってた」

「……オレも」

「でもまさか、おめさんに辛い思いさせてたなんて想像もつかなかった。ごめん」

「普通そんな想像つかねーからァ。気にすんな。結果オーライだ」

「うん。オレ達、ずっと両片想いだったんだな」

「仕方ねーよ野郎同士なんだからァ。ハードル高過ぎだっつーの」

「靖友……ちょっと離れてくれる?」

「ハァ?やだ。この体勢気持ちイイ。ずっとこのままでいる」

「困ったな。離れてくれないと……勃っちまう」

「!!」

 

ガターン!

 

荒北は弾け飛ぶように新開から離れ、勢い余って椅子ごと後ろに転がった。

 

「たったたた勃つとか言うなバァカ!」

 

荒北は真っ赤になって新開を指差す。

 

「だって好きな人が股間に顔うずめてんだぜ。勃つの当たり前だろ?」

「だだだだから股間とか言うな!」

「あの体勢でおめさんに喋られると振動がちょうどヤバくて……」

「だぁーーっ!」

 

荒北は耳を塞いでジタバタしている。

 

「靖友。ケガ治ったらさ、いっぱいデートしような」

「わあったよ!デートでもなんでもしてやんよ!」

「なんでも?」

「そこだけ切り取んなボケナスがぁ!」

「ホント可愛いな靖友は。好きだよ、ずっと。これからも」

「っせーよ!オレもだよ!畜生!」

 

耳まで真っ赤にして荒北は倒れた椅子を蹴り飛ばす。

 

 

ふと、思い出して新開に向き直った。

 

「そういやオマエ、オレに『彼女が出来たらすぐ報告しろ』っつってたけど、あれどういう意味だったんだ?」

「ん?そりゃ決まってるだろ」

 

新開は笑いながら言う。

 

「すっ飛んでって二人の仲を壊すためさ」

「な……!」

 

荒北は驚いた。

 

 

「オメー……恐ろしいヤツだな」

「おいおい、忘れたのか?」

 

新開はバキュンポーズをして言った。

 

「オレ、“鬼”なんだぜ?」

 

荒北は呆れたように苦笑いした。

 

「とんでもねーヤツに惚れちまったみてーだなオレ」

「お似合いだよオレ達」

「どーゆー意味だよ」

 

 

 

二人の声はずっと深夜の病室に響いていた。

このあと看護師がやってきてこっぴどく怒られることとなる。

 

しかし二人はずっと幸せそうであった ──。

 
 


 
 

おしまい

 






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イイネ