運命のグラス (長編11頁)★オススメ
「もう……あんなバイト……しねーでくれ」
荒北は涙を見せたくなくて、下を向いて言った。
「……そうだな。心配かけてごめんな。靖友の嫌がることは、オレもしたくないし」
それを聞いて荒北はカッとなって声を荒らげた。
「オレの嫌がることはしたくないだァ?簡単に言ってくれやがって!オレぁ嫌だったよ!ずっと嫌だったんだよ!」
顔を上げた荒北の目から涙が溢れ落ちるのを見て、新開は驚いた。
「オマエが女に囲まれてんの毎回見せられて!辛かったよ!苦しかったよ!だけど!それでもオマエに会いたかったんだよ!」
「靖友……」
「オマエ言ったよな!オレのこと何でも知りたいって!教えてやんよ!よく聞けや!オレぁ!オマエが!好きなんだよ!高校の時からずっとォ!どうだ!驚いたか!ざまーみろ!」
「……!!」
新開は息を飲んだ。
「それなのに!人の気も知らねーで!目の前でイチャイチャイチャイチャしやがって!」
「し、してないよ」
「みんな聞いてくんだよ!オレに!オメーの好みのタイプを!知らねーよそんなの!みんな堂々と新開くん大好きアピール出来てよォ!羨ましかったよ!オレぁ出来ねーんだよ!男だからァ!悔しかったよ!」
たまっていた感情がどんどん溢れてきて、荒北は止まらない。
「もう限界超えたんだよ!だからもう店に行くの今日で最後にするって決めたんだァ!そんでもう!オメーのこと忘れんだって!もう二度と会わねーって!」
「え?」
話の流れが変わってきて、新開は困惑する。
「オメー今日みんなの前でオレにキスしたよなァ!オレぁ最初は嬉しかったんだよ!だけど後でよく考えてみたら!あれはまり子を追っ払うためのパフォーマンスだったって気付いたよ!」
「……!違う!」
荒北は椅子から立ち上がって新開を責める。
涙がボロボロこぼれて顔がぐちゃぐちゃになっている。
「めちゃくちゃ傷付いたよ!トドメだったよ!」
「それは違う靖友!」
荒北は新開に腕を掴まれてグッと引き寄せられた。
なにすんだと言いかけた唇に、新開の唇が押し付けられる。
「っ!ん……っ」
荒北がもがいて口を開くと、そこに新開の熱い舌が差し込まれた。
その舌を押し戻そうと自分の舌で抵抗すると、逆に新開の口内に連れて行かれ激しく吸われた。
「ん……う」
荒北はもうわけがわからなくなって頭がボーッとしてきた。
抵抗する気力は無くなり、互いの舌と舌を絡め合っていると、涙の味も気にならなくなっていた。
新開は唇を離すと、荒北をきつく抱き締めて言った。
「パフォーマンスなんかじゃない。あれは本心だ。好きなんだよ靖友。オレも高校の時からずっと」
「……!」
「オレの好みのタイプなんて誰にも言えるわけないじゃないか。だって靖友なんだから」
「……」
新開の言っていることは本当なのだろうか。
これは夢なのではないか。
しかし、今自分を抱き締めているこの腕は確かに新開のもので、現実なのだと再び溢れ出した涙で荒北は実感した。