待合室 (短編1頁)
「どこも満室だな」
新開と荒北は恋人同士。
今夜は呑んだ後良い雰囲気になり、ラブホへ行こうと繁華街の裏通りを歩いていた。
しかし世間では三連休前夜。
どのラブホも赤い満室ランプが点灯している。
「諦めておとなしく帰ろうゼ」
荒北は駅方向に進路変更しようとするが、新開は荒北の腕をガシッ!と掴む。
「満室なら、空くまで待つさ」
「待つ……?」
新開は荒北の腕を引っ張り、ラブホへ突入した。
ロビーに設置された部屋のパネルは全て消えている。
その向かい側に、待合室があった。
二人掛けのソファがいくつも並んでいる。
既に5、6組のカップルが座って待っていた。
一応照明は薄暗く配慮されているが、互いのカップルは丸見えの配置だ。
しかし、ジロジロ見たりしないのが暗黙のマナーである。
「「!!」」
新開と荒北が待合室に入って来た途端、場のカップルが全員注目した。
「みんなガン見してンじゃねーか!」
「そりゃ男同士だからな」
一気に酔いが覚め、躊躇する荒北。
しかし新開は気にせず、荒北の手を引いて空いているソファに腰掛けた。
「「ヒソヒソヒソヒソ!!」」
全カップルが新荒を指差し、何やらざわめいている。
「恥ずかしィィ」
「平気さ」
荒北は顔を背けているが、新開は堂々と脚を組みふんぞり反って座っている。
「今待ってるカップルが全組捌けるのに早くても数十分。下手すりゃ数時間。その間ずっと注目されンのかよォ」
泣きたくなってくる荒北。
「そんなに待たせないよ、靖友」
新開はニッコリと微笑んだ。
「……?」
全カップルが新荒をマジマジと凝視している。
しかし新開は、それらに敢えてしっかりと視線を返した。
そして、各カップルの男の方を見て、
「ふん」
と鼻でせせら笑った。
「「!!」」
各カップルの男達は全員、馬鹿にされたと認識した。
同時に女達の方は全員、イケメンの新開に鼻で笑われた事で、自分が冴えない男を連れていることを心の中で恥じた。
次に新開は各カップルの女達に、ニッコリと笑顔を向けた。
「「!!」」
女達は全員、その笑顔にドキッとときめいた。
そして次に新開は、人差し指で荒北の顎をクイッと上げ……。
ブチュー!!
と、全カップルに見せつけるようにキスをした。
「「!!!」」
「ンンー!!」
荒北はジタバタしているが、新開はお構い無しに舌を突っ込んでいる。
ガタン!
ガタッ!
各カップルの女達が全員ソファから立ち上がった。
そしてゾロゾロと待合室から外へ出て行く。
「お、おい!ヒトミ!どこ行くんだよ!」
「ユウナ!なんで帰るんだ!」
「待ってくれミホ!」
男達は慌てて女達を追いかけ、ラブホを出て行った。
待合室には新荒だけが残った。
パッ。
その時、部屋のパネルがひとつ点灯した。
「お待たせ致しました。どうぞ」
係員が声を掛けに来た。
「行こうぜ、靖友」
唇を離し、ニッコリ微笑んで新開は荒北の手を取る。
「お、オメー……」
荒北は呆気に取られてポカンと新開の顔を見ている。
「……ホント、鬼だナ」
「鬼だよ」
二人は悠々と部屋へ向かった。
おしまい
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