炎の金メダル (長編20頁)★オススメ
翌日。
洋館の前にクラリディが停まった。
大きめの紙袋を提げた松井が降りて来る。
「ビアンキ博士!」
「松井サン。どうしたんスか」
いつも松井が訪れるのは2週間に1度だ。
先週来たばかりなのに、今回は異例だった。
どうしてもお会いしたい、と昨夜連絡があったのだ。
応接室のテーブルには、先週とはまた違うハーブティーが用意されている。
ティーカップを手に取るが口は付けず、松井はどこか落ち着きが無かった。
いつもの穏やかな様子とはまるで違う。
「なんかあったんスか?」
心配そうに尋ねる荒北。
「ビアンキ博士……」
松井は神妙な顔をしている。
「……まず最初にお聞きします。……貴方は、本当に独り暮らしですか?」
── ギクッ!
「……どういう意味スか」
慎重に答える荒北。
「あ!失礼しました。別に疑ったわけではないんです」
警戒した様子に気付き、松井は手を荒北の方へ向けて振り、慌てて弁解した。
「実は……」
冷や汗をかきながら、なんとか落ち着こうとしている。
「……誰にも知られたくない話なので、念のためつい……。申し訳ございません」
「いえ……いいスけど」
ホッとする荒北。
松井は大きく深呼吸をしてから話し出した。
「今回は……私の個人的な依頼で参りました」
「松井サンの依頼?」
「誰にも口外しないと約束していただけますか」
「そりゃモチロン」
松井が荒北に直接依頼したい事とはいったい何なのだろう。
荒北は見当もつかなかった。
松井は上着の胸ポケットに手を入れた。
1枚の写真を取り出し、テーブルの上に置く。
「……」
40代ぐらいの女性の写真だった。
上品な微笑みを浮かべている。
優しそうで可愛らしさを残した美しい女性だ。
「キレイな人スね」
「……妻です」
「あァ……」
「……去年の夏、事故で亡くしました」
「エ」
話の展開が読めず、困惑する荒北。
松井との付き合いは数年前からだが、去年そんなことがあったとは知らなかった。
「それは……お悔やみ……」
「ビアンキ博士!」
松井は遮って背筋を伸ばした。
「貴方に……作っていただきたいのです!」
「何をスか?」
「……妻をです!」
「ハ?」
……カチャ。
松井はハーブティーを一口だけ飲み、ソーサーに置く。
「……」
「……」
二人は1分程沈黙していた。
荒北は向かいのソファで腕を組み、松井を睨み付けるように見やり、やがて口を開いた。
「つまり……アンドロイド……スか?」
「そうです」
松井の目は真剣だった。