炎の金メダル (長編20頁)★オススメ
「ン……」
キャッキャという子供達の声で、目を覚ます荒北。
新開はカーテンを少し開け、2階の窓から庭を覗いた。
「今日も元気いっぱいだな、あの子達は」
目を細めて微笑む。
「……あァ、また日曜日が来たのか……」
黒いランニングシャツを捲り、腹を掻きながら荒北はベッドから起き出した。
新開と並んで窓の外を眺める。
健は荒北に貰った小型ドローンを操縦して遊んでいる。
華はガーデンテーブルにスケッチブックを広げ、クレヨンで庭の風景を描いていた。
「健くんにドローンをあげたのかい?」
「試作品だから市販のと機能は変わらねェ。心配すンな。この庭の外へは持ち出すなと強く言ってある」
「優しいんだな」
「フン……機械に興味を持つのは悪いことじゃねェ。自由にいじったり分解したりして仕組みを学ぶべきだ」
庭を自由に走り回る健を目で追う荒北。
「……ガキは無邪気でイイなァ……」
溜め息をつきながら呟く。
新開はそんな荒北を見てふふっと笑った。
「ンだよ」
「いや……。靖友、明るくなったなぁって思ってさ。子供達が来るようになってから」
「そォ……?」
新開は荒北に手を伸ばし、頬を両手でそっと包んだ。
「おめさんオレに言ったよな。“オメーはいつもオレの傍に居て笑っててくれりゃイイんだ”って」
「……」
「それは構わないんだけどさ。……オレはおめさんにも、いつも笑っててもらいたいって思ってるんだ」
「……」
「あの子達が来てから靖友に笑顔が増えた。嬉しいよオレ」
「……フン」
荒北は照れ臭そうに目を逸らす。
「やっぱり……ずっと人目を避け続ける生活には無理があるんじゃないかい?」
新開が心配そうに尋ねる。
「……今更、他の人生が歩めるかよ」
荒北はそう言って再び眼下の子供達を見下ろした。
「……ガキなら、大丈夫だろう。たいした情報も持ち込まねェだろうしな……」
新開と荒北は、ほとんど他人と接することのない生活を送っていた。
テレビもラジオも雑誌も避け、意識的に世間のニュースや情報を仕入れないようにしている。
ネットは研究に必要なサイトだけを閲覧するよう心掛けていた。
発明の仕事は、月に2回程ここへ訪れる弁理士を通して受けている。
人里離れた生活をしているのには、理由があった ──。
「健選手!速い速い!8秒台ーっ!世界新!金メダルーっ!」
健が庭を全速力で駆けながら叫んでいる。
その後斜めに空を見上げ、弓矢ポーズをとった。
「なンだそりゃ」
白衣を着た荒北が健に尋ねる。
「オサイン・ポルトだよ!オリンピックに出るかなー」
「オリンピック……?」
「東京オリンピックだよハカセ!知らないの?もう来月始まるんだよ!」
「……!」
荒北は思わず口元に手をやった。
「東京オリンピック……。そうか……もう、そんな、年なのか……」
開催国が日本に決定した時の事は覚えている。
その頃は荒北もまだ高校生だった。
「……あれから、もうそんなに……経ったのか……」
「もうすぐオリンピックだって知らなかったの?毎日テレビでずっと言ってるのに」
健と荒北の会話を聞いて、華が新開に尋ねる。
「うちにはテレビが無いんだよ」
向かいの席で肩をすくめながら新開は答えた。
「どうして?貧乏なの?」
華が当然の疑問を抱く。
「……博士はね、天才なんだ。天才だから、情報を与えるととんでもなくすごい物を発明して世界を混乱させちまう。だから、セーブしてるんだよ」
新開は荒北を指差して説明した。
「ふーん……」
華はわかったようなわからないような不思議な顔をしていた ──。