炎の金メダル (長編20頁)★オススメ



※閲覧注意










「……」


衝撃に目を見開いている荒北。



グプッ!

貫いた拳を、引き抜いた。


ブシュッ!

腹部に開いた穴から、血が吹き出す。



ゴボゴボゴボ……!

血液が食道を逆流して来る。


「グボッ!!」

荒北の口から大量の血液が排出された。


二人の白衣が、荒北の血で真っ赤に染まる。



膝から崩れ落ちる荒北の身体を、新開はガシッ!と抱き止めた。





「バ……バカ……。こんなこと、したら……オメーまで……」


「わかってる……。わかってるよ靖友……。オレの動力は、おめさんの心拍と連動してる。おめさんの心拍が止まったら、オレの活動も、止まる」


新開は血に濡れた手で荒北の頬を愛しそうに撫でる。


「同時に、全ての証拠隠滅システムが作動する。オレの……自壊システムも、起動する」



それは、荒北の身に万一の事が起こった時のための強制消去プログラムだった。



「新開……」


荒北は、弱々しい力で新開の白衣に掴まる。





「さすがだナ新開ィ……。最善の、一手だ……」




足元は血の海になっている。

しかし不思議と、痛みは何も感じなかった。


少しずつ意識が薄れ、全身の力が抜けて行く。



「そうだ……これが、最適解だ……。もっと早く……こうなるべきだった……」


「靖友……」




ドロッ。

新開の髪が、頭皮ごとドロドロと溶け落ちる。


荒北の心拍が弱まってきたせいで、連動する人工皮膚の細胞活動が止まったのだ。



新開の顔の皮膚が、ズルズルと溶け、剥がれ、中のチタン製の骨格が姿を現した。




「靖友が好きだったこの顔……崩れちまった……」


それを聞いて、荒北は微笑みながらゆっくり手を伸ばし、新開の頬を包む。

「バァカ……。オメーは、たとえ骨格だけになっても……イケメンなんだヨ……。オレが……そう作ったんだ……」




「靖友……愛してるよ。こんなになってもオレ……ずっとおめさんを……愛してる……」




「新開……ありがとナ……終わらせてくれて……。オレを……救ってくれて……。そして……ホント、ごめんナ……」





「靖友……キスしても……いい?」





その瞬間 ──。

荒北の目の前の景色が、パアッと一気に庭の風景に変わった。



暖かな陽が差し、花々が咲き乱れている。



その中に、一人の男が後ろ向きで立っているのが見える。


レーシングスーツを着た、新開隼人だった。



新開隼人は、ゆっくりとこちらを振り返る。


荒北を迎え入れるように、両手を広げる。


優しく微笑んでいる。



懐かしい、

眩しい、

あの笑顔だ。



吸い寄せられるように、荒北は新開隼人の胸へ飛び込む。


新開隼人は、その逞しい腕で、荒北を強く抱き締めてくれた。



色とりどりの花びらが舞い、二人を包んでゆく ──。






「ああ……。キスしてくれよ……新開……」


幸せそうな笑みを浮かべ、荒北は目を閉じる。


新開は荒北を抱き締め、唇を重ねた。






新開の頬を包んでいた荒北の手が、力を無くし、ダランと下へ垂れる。


唇が離れる。




まぶたを閉じ、

口を少し開いたまま、

荒北の頭は、


……カクン、と後ろへ倒れた。








ブウ……ン。


研究室にある何台ものPCが一斉に作動しだす。

強制データ消去プログラムが起動した。


HDが唸りを上げ、様々なデータを根こそぎ完全消去している。



……プシュン!

やがて、それぞれのPCは役目を果たし、電源を落とした。




カチッ。

そのあと、新開の心臓部が着火した。


自壊システムが起動したのだ。




ボウッ!!

新開の身体が一気に炎に包まれる。


その炎は瞬く間に研究室の絨毯に、カーテンに、書類に、機材に、薬品に、燃え移った。





「靖友……」


新開は、自分の身体が熱で溶け始めてもずっと、動かない荒北を抱き締めたままだった。





「愛してる……。死ぬまで一緒だ。死んでも……一緒だ……」





耐火構造も粗末な古い洋館だ。

建屋全体に火が回るのはあっという間だった。




ゴオォォ……!

黒煙を上げ、巨大な炎が建物を飲み込んでいく。



ガラガラガラ!

次々と天井が崩れてくる。





新開は落ちてくる瓦礫から荒北を守るように、ずっと覆い被さって抱き締めていた ──。





ほとんど人が足を踏み入れることのない静かな森に、火の手が上がっている。




グワッ!!

ボンッ!!

爆発が数回起こった。





ズズズズ……。



地鳴りのような音を立て、二人が5年間暮らした洋館は、崩壊していった ──。


















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イイネ