炎の金メダル (長編20頁)★オススメ
「こんな……感情は、初めてだ。こんなに、悲しくて……苦しくて……頭の中がぐちゃぐちゃで……」
新開は髪を掻きむしっている。
「でも……やっとわかった。これは……この感情は、“嫉妬”だ。すごく悔しくて……すごく焦って……すごくつらくて……」
「……」
「こういう時、人間は、泣くんだよな……。瞳から涙を流して……。オレ、今、ものすごく泣きたい気分だよ。泣き叫びたい。……だけど……だけど……」
新開は手で胸を押さえ、荒北に訴えた。
「オレには、涙が、実装されていない」
「……!!」
それは本当だった。
新開が泣く機会などそうそう無いだろうと、実装はしていなかったのだ。
「泣きたくて泣きたくてたまらないのに、オレは、泣くことが出来ない……。つらい……つらいよ靖友……」
「新開……」
荒北は新開の頬に手を伸ばした。
「オレは、いつも、笑っていればいいから……。それが、おめさんの望みだったから……」
新開は荒北の手に自分の手を添える。
「でも靖友……。オレ、もう……」
荒北の手を握り、愛しそうに自分の頬に擦りつける。
「……笑い方を……思い出せないよ……」
「新開……!!」
荒北の瞳からどっと涙がこぼれ落ちた。
「すまねェ!すまねェ新開!オレの!……全部、オレのせいだ!オレが全て悪いんだ!」
責められるのは当然だ。
新開の白衣の袖を掴み、すがるように謝罪する荒北。
「オレの身勝手な片想いのせいで、無責任にオメーを生み出し、オメーを傷付け続けた……!すまねェ……!」
「靖……友……」
“片想い”という荒北の本心を知り、絶望する新開。
「オレはね、靖友……」
悲しみでいっぱいの瞳で荒北を見つめる。
「おめさんを、新開隼人に盗られたくないんだ。おめさんは、オレのもんだ……」
「……」
「オレだってね……おめさんが好きなんだよ。誰にも負けないぐらい」
「……」
「オレじゃ、ダメなのかい……?泣けないから……?自転車に乗れないから……?それともやっぱり……人間じゃないから……?」
「新開……!」
新開が今オレに向けているのは恋愛感情だ。
昨日、オレが混乱してキスしちまったせいだ。
そして今日、新開隼人の存在を知っちまったせいだ。
嘘は、つけない。
新開の気持ちには応えられない、と正直に伝えなくては。
「すまねェ新開……オレは……」
「オレが欲しいのはそんな言葉じゃない!!」
ズブッ!!
「!!!」
新開の拳が、
荒北の腹部を、
背中まで、
貫いた ──。