炎の金メダル (長編20頁)★オススメ





キッ。


日が暮れかかった頃、荒北が買い物袋をいくつも提げ自転車で帰って来た。



「……?」


いつも笑顔で外まで出迎えに来る新開の姿が見えない。


仕方ないので袋を両手に抱えたまま、玄関扉を足で開ける。

玄関フロアは電気が点いておらず、薄暗かった。



「オーイ新開ィ。荷物運ぶの手伝ってくれヨ」

吹き抜けに荒北の声が響く。



しかし返答は無い。


「?」



買い物袋を持ってキッチンへ行く。


新開は居ない。
夕食を作った気配もない。



「ドコ行ったんだ?アイツ」

家の中を捜して廻る荒北。




研究室へ入る。


部屋の隅で新開が、椅子に横向きに座っていた。


「……」

下を向いてなにやらブツブツ呟いている。




「何やってんだ。電気も点けないで」

パチン。
荒北は壁の電灯スイッチを入れた。



「……」


新開はゆっくりと荒北の方を向く。

複雑な表情をしている。



「……どした?」

荒北は新開に近付いて尋ねた。






「……情報を遮断した生活をしているのは、おめさんのためじゃない。オレのため……だろ?」



「!!」

ギョッとする荒北。





「オレに、余計な知識を付けさせないためだ。オレを賢くさせたら、何をするかわからないから。……そうだろ?」


新開は椅子から立ち上がり、荒北の方へゆっくりと歩み寄る。



「ど、どうしたんだよ新開、突然……」


「“新開”……」

新開は自分の名前を噛み締めるように呟く。




「おめさんにとって、“新開”はどっちなんだ。オレなのか。新開隼人なのか」



「── !!!」


驚愕する荒北。





なぜ!


なぜアイツの名前が今、急に!?





新開隼人がオリンピックに出ている事など知らない荒北は、突然の新開の発言に困惑する。




「靖友……。オレは、新開隼人じゃないよ……。同じ姿をしていても、アイツとは、違う」


新開は悲しそうな表情で主張した。


「……!!」










── そうなのだ。


5年前、新開を初めて起動してからほんの数分で、荒北はすぐにそれに気が付いた。


このアンドロイドは、新開隼人にそっくりだが、新開隼人本人ではない。



自分は何をやってるのだ。
何を作ってしまったのだ。


荒北はすぐに後悔した。

目が覚めた、と言った方が正しい。





「オレの名前は……“新開”だね。OK、靖友」





しかし目の前に立つ産まれたばかりの新開は、このほんの数分間で、視界に入る物を凄まじいスピードで理解し、解析し、頭脳に取り込んでいく。




命は、

もう、

誕生してしまったのだ。




新開隼人と同じ顔、同じ身体、同じ声、同じ性格。

しかし、コピーではなく、独立した意思を持つアンドロイド。

機械でもなく、人形でもなく、これはれっきとした……



知的生命体なのだ ──!





その時すぐにシャットダウンすれば良かった。

しかし、荒北には出来なかった。



それは、赤ん坊を一人殺すことに等しいからだ。





アイツと同じ姿をしたコイツを……。

オレが生み出したコイツを……。


殺すなんて、出来るかよ!!




処分はしないと決めたものの、この新開をどうしたら良いかわからない。

もし、人目に触れたら。
もし、人間ではないとバレたら。


世界初の、新種の人工知的生命体を生み出してしまったのだ。

よくあるペットロボットや、チャットGPTとは訳が違う。

世間に知られたら大騒ぎになる。


そんなことになったら、コイツは、どうなる?

見世物にされて。

研究材料にされて。

果ては、軍事転用 ──!!



逃げなくては!

隠れなくては!



考えている時間は無い。
すぐに今居る場所から離れる決心をした。


誰も知らない土地へ!

誰も来ない場所へ!






こうして荒北は5年前、新開を連れて失踪したのだった ──。
















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イイネ