炎の金メダル (長編20頁)★オススメ
「……」
荒北は白衣のポケットに両手を突っ込み、ゆっくり松井の方を振り向いた。
「……」
不安そうに見上げている松井。
「……アナタはきっと、アンドロイドに対し、亡くなった奥サンと同等の愛情を注ぐでしょう」
「── !!」
松井はハッとして背筋を伸ばした。
「もちろんです!私は妻が生き返ってくれるなら、他には何もいりません!今までよりももっともっと大切にします!」
胸に手をあて、宣誓するように答える。
「アンドロイドもきっと、アナタの愛に応えてくれる。……アナタを慕い、尽くし、一生傍に寄り添ってくれるでしょう」
「お……ぉ」
希望に満ちた表情で目を輝かせる松井。
「そして……ある日アンドロイドはこう思う。“この人が愛しているのは私なのか奥様なのか”」
「……えっ?」
荒北の思いがけない言葉にびっくりし、一瞬固まる。
「“私ではない。この人は私を通して奥様を見ているだけ”」
「……!」
「“私がどれだけ愛していても、私は奥様には勝てない”」
「そ……それは……」
「松井サン」
荒北は諭すように言う。
「アンドロイドはロボットでもないし、ペットでもない。……人格が、あるんス」
「……」
「いくら奥サンと姿や声や性格が同じでも……別人なんス」
「別人……」
荒北はポケットから手を出し、松井を指差す。
「アナタを愛すれば愛するほど、アンドロイドは葛藤し、悩み、苦しみ……そして、傷付く」
「……!!」
「同時にそれは、奥サンへの冒涜だ」
「……妻への……冒涜!」
ハッとする松井。
荒北はゆっくりとソファへ戻り、腰を降ろした。
テーブルの上のすっかり冷めたハーブティーを飲み干す。
「……」
松井はうなだれて黙り込んでいる。
その様子を見て、荒北は駄目押しした。
「死んだ人間は、生き返ったりしないんス」
「……!!」
その言葉に松井の肩がピクッと震えた。
「……さっき、兵器とか怖い話しちまいましたけど……それ以前に、オレは自分の作ったアンドロイドに……そんな悲しい思いをさせたくない」
「……」
「理論的にも技術的にも、アンドロイドを完成させることは、オレなら可能ス。けど……オレは、作りません。作っちゃいけない。……オレの……良心が……そう叫んでる」
「……う……うぅ……」
松井は下を向いて泣き出した。
2、3分程涙を流した後、松井はハンカチで拭い、顔を上げた。
「……とても、よく理解出来ました。ビアンキ博士。アンドロイドは……諦めます」
「……そうスか」
荒北はホッとした。
「……その浮き輪は、何か密閉容器にでも……」
「いいえ」
浮き輪を指差して言う荒北に、松井はしっかりとした口調で否定した。
「自然にしぼむに任せます。妻の死に、正面から向き合います。ちゃんと、墓も作ってやります」
松井の表情は、何か吹っ切れたように晴れやかだった。
「ビアンキ博士。貴方がはっきり否定して下さったおかげです。これでもう、妙な希望は捨て、前へ進むことが出来る。……ありがとうございます」
松井は深く頭を下げた。
そして顔を上げると、照れくさそうに笑いながらこう言った。
「そうですねぇ……犬でも飼うことにしましょうかね」
「ああ、そりゃイイ!」
賛同する荒北。
「慣れてきたら……庭に連れて来ていいですか?ここの芝はとても走りやすそうだ」
「もちろんスよ。オレも犬は大好きなんス。楽しみにしてます」
二人は笑顔になった。
「ビアンキ博士。私……さっきお話を聞いている時に、ふと思ったんですが……」
「?」
松井は眼鏡を外し、綺麗に拭いて掛け直してから言った。
「この前おっしゃっていた、大学時代に作ってしまったとんでもないモノって、ひょっとして……」
「!!」
荒北はギクリとした。