クッキー&チョコレート (短編1頁)
「新開」
荒北が新開のクラスへ入って来て声を掛けた。
「パワーバー1本くれ」
「OK靖友。早弁かい?」
新開は気前良くポケットからチョコバナナ味のパワーバーを取り出し手渡す。
「ちょっとナ。あンがとねェ」
「?」
荒北は鼻唄を歌いながら教室を出て行った。
~放課後~
新開が机の上を片付けていると、荒北がやって来た。
「新開ィ」
「靖友。一緒に部活行こ」
荒北はカバンの中から何かを取り出そうとしている。
「これサ……」
「新開くん!」
その時、教室にドヤドヤと10人程の女子達が入って来た。
全員、荒北のクラスの女子だった。
「どいて荒北くん!」
「うォ!」
女子達に弾き飛ばされる荒北。
「新開くん!はい!」
「食べて食べて!」
「一生懸命作ったのぉ!」
女子達が一斉に新開に捧げているのは、クッキーだった。
「え?え?なんでこんな大量のクッキー?今日なんかの日だっけ?」
たじろぐ新開。
「今日調理実習でぇ」
「課題がクッキーだったのぉ」
「調理実習?……はっ!」
机の上に山積みされたクッキーに圧倒されつつも、新開は荒北の姿が見当たらないことに気付いた。
~階段室~
バタバタバタ!
「靖友!」
踊り場で荒北に追い付き、息を整える新開。
「はぁはぁ。靖友、クッキー……」
「アァ?」
不機嫌な荒北。
「くれよ、クッキー。おめさんも作ったんだろ?」
「……女共にたくさん貰ったからイイだろもう」
不貞腐れながらプイッと行こうとする荒北の腕を、新開はガシッと掴んだ。
「全部つっ返したよ。靖友、おめさんのが食べたい」
「ハァ?」
「お菓子作りなんて初めてだろ?いいよ不味くても。黒コゲだろうが形がイビツだろうが、食べたいんだ。おめさんが作ったもの」
「……」
そこまで言われると、荒北はおとなしくカバンを開け、ジップロックに入ったクッキーを取り出した。
「わぁ!上手に出来てるじゃないか!」
新開は喜んで早速ひとつ口に含んだ。
「……!」
瞬間、驚く新開。
「……なんだいこれ。まるでパイ生地のようなサクサク感。それでいてしっとりと舌の上で自然に溶ける上品な甘味。とても素人が作ったとは……」
感動で手が震えている。
「教科書通りのレシピだとモサモサになるような気がしたからサァ、バターの量を増やしたりこね方を工夫したりアレンジしたんだ。楽しかった。オレ、結構料理好きかも。将来は店でも開こうかなァ」
淡々と語る荒北。
「しかもオレの好きなチョコバナナ味……」
「オメーのパワーバーを砕いて混ぜたんだ」
「よく見たら……これ全部ウサギの形じゃないか……」
「あァ、パワーバーの礼だ」
── ぐゎしっ! ──
新開は自分のハートが掴まれた音がはっきり聞こえた。
ドン!!
瞬時に荒北を壁際に追い込み、壁ドンする。
「か、壁ドン?今時?なんで?」
荒北は驚きうろたえる。
「靖友……。これ作ってる間、ずっとオレのこと考えててくれたんだ……」
荒北の目をじっと見つめ顔を近付ける新開。
「エ?いや別にそういう……」
新開の行動に戸惑いドギマギする荒北。
「またオレにこれ作ってくれよ。ホワイトデーに」
「ホワイトデー?」
荒北は不思議そうな顔をして尋ねた。
「ホワイトデーってのァ、バレンタインのお返しにあげるモンじゃね?」
「うん。だからオレ、バレンタインにチョコ渡すから。おめさんに」
「ハァ?」
飛び上がる荒北。
「オメ、それ、どういう意味か解って言ってンのか?」
「解ってるよ靖友。解ってる。……本命チョコだ」
「本……!」
荒北の顔は耳まで真っ赤になった。
「だから靖友……。ホワイトデーにはオレにクッキー作ってくれな」
「……」
新開に目一杯顔を近付けられ、荒北は思考が混乱している。
「もうバレンタインとホワイトデーはオレと予約済みだ。……いいかい?靖友」
「……わ、わかった……」
頭の中がぐちゃぐちゃのまま、荒北は答えた。
「良かった!じゃ、部活行こうぜ!」
「……」
新開は頭がクラクラしている荒北の肩を抱きかかえ、笑顔で部室へ向かった。
「あぁ、やっぱバレンタインまでなんて待てねぇ!今すぐチョコ買いに行ってくる!」
「ちょ!そんなオレまだ心の準備がァ!」
おしまい
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