コタツでみかん (短編1頁)





「コタツを調達したぞ!苦しゅうない!近こう寄るがいい!」


東堂がドヤ顔で言った。





学校はまだ正月休み中だ。

だが実家に帰省しても特にする事の無い者は、新学期が始まる数日前から寮に戻って来る。

家に居るより寮で友人達と過ごす方が楽しいからだ。



「オメーにしては気が利くじゃねェか」

「寮も人数が少ない時期は冷えるからな」

「みかん食べようぜみかん!」


チャリ部の3年生仲良し4人組が集まった。

東堂の部屋に設置されたコタツに入る。




「どうだった?年末年始は」

福富がロード雑誌をめくりながらみんなに問う。


「いつもと同じだよ。家族で初詣行って、おみくじ引いて、中吉」

みかんを食べながら答える新開。


「妹がお年玉くれくれうるせェから逃げて来た。なんでオレがお年玉やンなきゃなんねンだ」

荒北はベプシを飲みながら怒っている。


「聞け!なんとオレは新しいキャンプ用品を「福ちゃんはなにしてたァ?」

東堂の話を遮って福富に振る荒北。


「兄達と特別演習。毎年恒例だ」

「フーン。みんな大したことねェな」

「大したことあるぞ!新発売の寝袋はな!極寒地でも……」

「餅も食べ飽きたしさ」


休暇中のせいか、4人の間に穏やかな時が流れる。



「……で?新しいキャンプ用品がどうしたって?」

荒北が東堂に話し掛けた。


「おお!やっと聞く気になったか!バーナーなんだがな……」

嬉々として話し出す東堂。



「……!」


その時、コタツの中で異変が起こっていた。


新開の股間に、誰かの足が当たっているのだ。


正面に座っている荒北は両手を後ろに着き、足を前に投げ出している。

新開の股間をまさぐっているのは、明らかに荒北だった。


「……」

新開は顔を赤くしながらも、東堂と福富に気付かれないかヒヤヒヤしている。


「これは陸自でも採用されている技術でな!」

「へェ。スゲーじゃねェか」

「最近はレーションの質も上がっているそうだな」

「そうなのだよフク!日本のレーションは世界一なのだ!」

「……」


3人はキャンプ用品の話で盛り上がっている。
しかし新開が盛り上がっているのは別の箇所だった。


「カレーなんか作るより、レーションの方が旨いし後片付けも楽チンだしなァ」

「その通りだ荒北!下手なアウトドアメーカーの物より、ミリタリーグッズの方がキャンプに適しているのだ!」

「……」


会話しながらも荒北の足はずっと新開の股間を揉んでいた。
硬くなっているのを楽しんでいる。



みかんを食べる手も止まり下を向いている新開に気付き、福富が声を掛けた。

「どうした新開。さっきから黙ったままで。顔が赤いぞ」
「えっ!テントが何だって!!」

新開はビックリして声が裏返った。



「テントの話はしていない」

「おお!それだ隼人!テントといえばだな……」



顔を上げたので荒北と目が合った。

荒北は新開の目を真っ直ぐ見つめ、ニヤリと笑った。


「ぐっ……」

冷や汗を垂らして堪える新開。
拳が震えている。



その時、荒北が急に立ち上がった。

「オレちょっと自販機でスナック買ってくらァ」

東堂の部屋をスタスタと出て行く。


「オ、オレも一緒に行く!」

新開も慌てて立ち上がり、荒北の後を追う。

みかんの入った袋で股間を隠し、ヨタヨタと足がもつれている。



「なぜみかんを持って行く」

「さぁな。それでな、フク。最新のテントだが……」





自販機コーナーにスナックを買いに行ったにしてはやたら時間のかかった二人が再び東堂の部屋へ戻って来た時、二人の表情は妙にスッキリとしていた ──。











おしまい







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イイネ